第16話 夏休み最後の日①
今日は8月最後の日曜日か……え、日曜日?
もう夏休みは終わってしまうのか。
俺はカレンダーを一度めくって、また今日の日付を確認して、もう一度次の日を見る。
ぐっ……。
夏休みの最後の日は何かしたい。最後の日だらだら家で過ごすのもいいけど、思い出が欲しい。
キャットタワーDIYとかして、密度の大きい夏休みを過ごしておいて、こんなことを望むのは贅沢すぎるな。
「宿題も終わったことだし、ペットショップでも見に行く?」
「わかりました」
そう返事が返ってきて、俺はぐっとガッツポーズをする。返事が淡白な気はするが、これがいつも通りの花野井さんであって数日前の寝ぼけモードが異常なだけ。
ただ、寝ぼけモードのデレを意識してしまって、いままで通りに接していけないかも……。
「おはようございます、猫村くん」
玄関には、白のTシャツと白のプリーツスカートを着た花野井さんが立っていた。透明感があって、見ているだけで眩しい。
「お、うん。……お昼ごはん、食べてきた?」
「いえ、まだです」
そりゃそうか、まだ10時だもんな、と少し不思議そうな顔をしている花野井さんに心のなかで呟く。
「今日は俺が作るよ」
「……いいんですか?」
「うん。楽しみにしてて」
俺はそう言うと、台所に歩き出す。
……待ってくれ。ほんとにこないだの記憶はないのか。恥ずかしそうな感じもなかったし。
あの寝言でデレてきたあれは、花野井さんの深層心理だったりするんだろうか?
いや、気を確かに持て、猫村蒼大。あの花野井さんが、俺のことを好きになるのは流石に早い。100年、とは言わないにしても。
「……猫村くん」
最近距離が縮まってきているような気はするが……。
「……猫村くん?」
「ん、うにゃ?」
花野井さんはわざわざ小さな椅子を俺の隣に持ってきて、俺の頬をむにっと軽く引っ張る。
俺が横を向くと、少しだけ唇を尖らせている花野井さんと目が合った。
「……なんだか、いつもの猫村くんじゃないような気がしたので」
それだけ言うと、花野井さんは椅子からゆっくりと降りる。
「ごめん。ちょっと考え事してて」
「何度も呼びかけたんですよ?」
「え、ほんとにごめん」
「今回は許してあげます」
俺がひたすら謝ると、花野井さんはクールな口調で言う。なんだか、格好良さも感じてしまった。
俺が調理に移っても、花野井さんはじーっと俺のことを隣で観察していた。ふとそちらに目をやると、きなことクロも一緒に、同じような目で俺のことを見ていた。
君ら2匹は餌が欲しいだけだよな。
「これで完成。……どうぞ」
「ありがとうございます。美味しそうです」
俺は白ご飯、味噌汁、鰤の照焼きというザ和食献立を完成させた。自画自賛になるが、鰤の照焼きは焼き色がいい具合について美味しそうだ。
「ん、美味しい。流石、猫村くんですね」
「ありがとう。花野井さんも料理上手だけどね?」
花野井さんは、口いっぱいに頬張って美味しそうに食べてくれる。作った甲斐があったなあ。
昼ごはんを食べ終えての食休みは、猫たちとおもちゃで戯れることにした。
少しだけ留守番しててもらえる?と思っていると、しばらくすると2匹とも遊び疲れたのかハンモックに向かっていった。
「食休みも済んだし、ペットショップ行こうか」
「どこのペットショップに行きますか?」
「少し街の方まで出ようかな」
「わかりました。猫村くんのおすすめですよね? 楽しみです」
花野井さんは微笑みながら若干ハードルを上げてくる。
まあ、俺が良く行くってことは猫が多いってことだから。おすすめってことで。
支度をさっと済ませて、俺たちは徒歩数分のとこにある駅に着いた。
「電車は久しぶりに乗ります」
「そっか。確かに、俺もそんなに乗らないかも」
電車通学じゃないからな。電車は電車で、大変そうだ。
「う……狭い」
こういうとことか。夏休みなのに、なんでこんなに人がいるんだ。
「……花野井さん、こっち」
人の波に流されて、電車を降りてしまいそうになっている花野井さんの腕を優しく捕まえる。
「……はぐれるとこでした」
「危なかったね」
俺はほっと一息ついて言う。
「……猫村くんの袖、握ってていいですか?」
「うん。……しっかり握ってて」
花野井さんは小さな手で、しっかりと俺の服の袖を握りしめる。駅に止まって、多少人は減ったのに、さっきよりも近寄っている。
こないだのことも思い出して、鼓動の音は意識できるほど早まっている。
目的の場所にたどり着いてないのにこの感じなのか……。猫へのデレが炸裂する花野井さんを見て俺が耐えられるのかが心配だ。
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