第11話 DIY②


 「あとは、棚受けに板を付ければほぼ完成かな」

 「私もやってみたいです」

 「んー……これは、電動ドライバー使わないといけないから、俺がやるよ」

 「分かりました……」


 花野井さんは残念そうに、少し肩を落とす。そんなに手伝いたいのか……? なら、なにかしら任せようかな。



 「こんなもんか」


 とりあえず上から板を全て付け終わった。花野井さんにじっと見られていて、変な汗が出てきたが。


 「じゃあ、花野井さんは板がちゃんと固定されてるか確認してもらってもいい?」

 「分かりました、任せてください」


 花野井さんは椅子を持ってきて、上の方の板から確認していく。


 一応俺も付けた時に確認しているけれど、もしも不安定で、きなこが乗ったときに落ちてしまったりしたらいけない。二重チェックは大事だって現場猫も言ってた。


 

 「危ない……!」


 思っていたのよりも椅子が小さかったのか、花野井さんは椅子を踏み外して、態勢が不安定になる。


 すんでのところで俺は花野井さんをキャッチして、抱きかかえる。

 天使の羽のような、ふわっとした感覚だ。


 「怪我はない?」

 「はい……大丈夫です」


 思っていたよりすぐ近くに、耳まで真っ赤になった花野井さんの顔があった。甘い匂いがして、俺の心臓は早鐘を打つ。


 ……あれ。今の俺って、お姫様抱っこしてないか? 


 「ごめん、下ろすよ?」

 「すみません……。猫村くんこそ、怪我はないですか?」

 「うん。大丈夫」


 俺は花野井さんを下ろして、ほっとして胸を撫で下ろす。怪我してなくて安心したのと、心臓が跳ねるのが抑えられたのとで。


 「なら……良かったです」


 花野井さんは申し訳無さと恥ずかしさが入り混じったような、複雑な表情で言う。


 「……それじゃあ、ハンモックを取り付けてほんとの完成、かな」

 「どうぞ」

 「ありがとう。あ……ごめん」

 「……すみません」


 花野井さんからハンモックを受け取る。受け取るときに、お互い指が触れ合って少しだけ気まずい空気が流れる。

 花野井さんは、かあっと頬を赤くして、下を向いてしまった。


 さっきのお姫様抱っこ(事故)がまずかったな。照れてるだけならいいんだけど……なるべく早く元通りになりたい。



 「どうぞ、お使いください」


 自室のドアを開けて、そうきなことクロに言うと、2匹はのそのそとキャットタワーに向かっていく。

 俺たちが猫を飼っているんじゃなくて、猫の方が上位にいるような気はいつもしている。


 しばらく新たに現れたものがどうなっているのか観察している様子で、なかなか上がってくれない。


 俺たちは気ままな猫2匹を気長に眺めて待つ。

 数分経って安全確認が済んだのか、きなことクロは1段1段慎重に上がり始めた。


 きなこは一番上の段から、崖の上のライオンのような凛々しい表情で俺たちの方を見下ろしてくる。


 満足してくれたみたいだ、良かった。


 その後、クロときなこは階段を駆使して追いかけ合ったり、一番上でじゃれあったりしていた。 

 

 その様子を、俺たちふたりは静かに見守る。……若干普段より会話がない時間が長いのは気のせいであってほしい。


 遊び疲れたのか、2匹ともハンモックに丸く収まってすやすやと眠り始めた。


 「ハンモック、さっそく使ってくれてるね」

 「そうですね。……可愛らしいです」


 花野井さんは通常運転のようで安心した。




 「あの……お願いがあります」


 花野井さんは、丸まって寝続けているクロときなこを愛しそうな表情で眺め、その表情のままこちらを向いて言う。


 「ん……どうしたの?」


 「夏休みは……いえ、これからは猫村くんの家にもっと遊びに来てもいいですか?」


少し間を置いて、花野井さんは口を開く。さっきより真顔になってしまった。


 「それって、どういう……?」

 「あ……クロもそっちの方が楽しそうだな、と思って。そ、その……私も友達として」


 俺が問いかけると、花野井さんは急にしどろもどろになって言う。

 こんなに崩れた花野井さんは今まで見たことがなかった。もう少し見てみたくはあるが、これ以上なにかあったら湯気とか出しそうだ。


 「ひとりだとたまに話し相手がいなくて寂しい時あるから、来てくれると嬉しい」


 俺はそう微笑んで言う。きなこが俺のつぶやきに反応してくれたらまだ寂しくないんだけど。


 「……ありがとうございます。楽しい夏休みになりそうです」


 花野井さんはすやすや眠るクロに近づいて、起こさないように優しく撫でる。そして、こっちを振り返って恥ずかしそうにしながらも微笑む。


 俺はこれからの夏休みの生活に胸を膨らませながら、幸せな空間を見守った。

 

 


 

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