第10話 キャットタワーDIY①
「それじゃあ、さっそく作り始めようか」
「はい、準備はできてます」
そう言いながら、花野井さんは服の袖をまくる。
白のロングTシャツの上に、デニム生地のオーバーオールを着ていて作業はやりやすそうだ。
まあ、組み立てとかの作業は俺が全部やるつもりだけど。ネジとか使うから、怪我してしまったらいけないので。
「花野井さんには……ハンモック作りをお願いしてもいい?」
「分かりました、裁縫は得意な方なので頑張ります」
それは頼もしいな、と思いながら、俺たちはそれぞれの作業に移る。この間、きなことクロには俺の部屋で遊んでもらうことにして、俺は庭に向かった。
とりあえず、木材を設計図通りにカットしないと。父親がDIY好きで、俺もたまに手伝ったりしていたから、のこぎりの扱いには慣れている。
親に断りを入れずに、壁に穴を開けるわけにはいかないから、天井と板の間にラブリコとかいう道具を挟んで固定して作るしかない。
その大きさも考慮して、板を切らないと。
「ふぅ……結構体力使うな」
俺はのこぎりを下ろして、額の汗を拭う。
ここまできたら、全体の作業としても、もう折り返し地点は過ぎたぐらいか。
ふと俺の部屋の方に目を見やると、カーテンの隙間から外をぼーっと見ているきなこと目が合った。
猫の手も借りたい、とはこのことか。
……そうは言っても、別にそこまで追い込まれているわけではないが。
「お疲れ様です、猫村くん。お茶、飲みますか?」
花野井さんは、わざわざ庭に出てきて水滴がついてよく冷えているお茶のペットボトルを渡してくれる。
「ありがとう。助かる」
よく気が利くなあ、と感心しながらペットボトルを受け取り、ごくごくと飲み干す。
「一旦室内で休んだ方が……」
「いや、あと1枚切ったら終わるから、それまで外にいるよ。お茶頂いたから、だいぶ疲れも飛んでいったし」
「気をつけてくださいね。無理しないようにしてください」
「分かった、ありがとう」
親切に言ってくれてから、室内に戻っていく花野井さんの背中を眺める。早く終わらせて、涼しい部屋に戻ろう。
……なんか、視線を感じる。ただ、俺が顔を上げると、こちらを見るのをパッとやめるんだよな。
少し不思議に思いながら作業を進め、けがき通りに切り落として顔を上げると、さっきと違って花野井さんと目が合った。
ん……どうした?と思って数秒間見つめ合ったままでいると、花野井さんが目をそらした。
「どうしたの、花野井さん?」
家に上がる時に、花野井さんに尋ねてみる。
「……無理してないか、心配で」
ぎりぎり聞こえるか、聞こえないかぐらいの声で花野井さんは言う。恥ずかしいのか、顔をこちらに向けてくれない。
「大丈夫だよ。……昨日俺のこと褒めてくれたけど、花野井さんも優しいよね」
「そう言ってもらえると、嬉しいです」
その言葉通り、一瞬嬉しそうに頬を緩ませてから、我に返った様子でそっぽを向く。
照れ隠しするのも、反則級に可愛い。が、それを褒めるとふたりとも恥ずか死してしまうのでやめておく。
「作業、どこまで進んだー?」
「ハンモックは、予備も含めて3枚作り終えました」
「早くない!? 凄いね、ありがとう」
「……ごほん。お役に立てたのなら、なによりです」
またもや一瞬だけ嬉しそうな表情をして言う。花野井さんの可愛いところをまた見つけてしまった。
「他、なにか手伝いましょうか?」
「うーん、それなら……段ボールで猫トンネル作ってもらいたいかな」
俺は板に棚受けを固定する作業の手を止めて、お願いする。
「分かりました、頑張ります」
ふと作業をしながら花野井さんの方を見ると、きなことクロのサイズを測ろうとメジャーを持っていた。
真面目というか天然というか。
ついニヤケそうになるのを我慢しながら、棚受けをつけた板の上にラブリコを挟んで固定した。
「2つ作ってみたんですけど、どうですか?」
きなことクロのどちらも通過できるサイズの穴が側面と上面に開いていて、繋げて使えそうだ。
「ありがとう。本当に助かるよ」
「あとは……何かありますか?」
「いや、もうあと俺が頑張るだけかなー、高いところをいじらないといけないし」
俺がそう言うと、花野井さんは何かを取りに行った。なに取り行ったんだろ。
「この椅子があれば、届きます」
「まあ、気をつけてね?」
花野井さんも俺の作業をサポートしてくれる、ってなったところで仕上げに入っていくことにした。
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