第9話 DIYに向けてお買い物

 6月と期末テストはあっという間に過ぎ去り、待ちに待った夏休みがやってきた。


 梅雨も明けて、いかにも夏、って感じの青空にぽつぽつと積雲が浮かんでいる。

 

 んで、俺は今、朝一からホームセンターの入口に立っている。開店時刻の5分前か、ちょっと早く来すぎただろうか。


 「おはようございます、猫村くん」


 でも、女神はそこで俺のことを待っていた。

 薄い藍色のフレアスリーブトップスと白のロングスカートを身に着けていて、女神の異名に違わず上品な雰囲気だ。


 「うん、おはよう。今日はアイデア色々出してもらえると助かります」

 「分かりました。頑張ります」


 花野井さんは自分の手をぐっと握りしめて、頑張ろうという意志を伝えてきた。


 


 俺たちはホームセンターが開店するやいなや、まっすぐペットコーナーに向かう。

 まずは実際に猫たちがキャットタワーを使っているのを見てみないと。

 

 「2匹目買いたいな……」


 子猫たちがお互いの尻尾が揺れるのに反応してじゃれ合っているのを見ながら、頬を緩ませて呟く。


 「あの子、可愛いですよね。……あ、もちろんどの子も可愛いんですけど」


 花野井さんもガラスに顔を近づけて言う。少し近すぎたのか、ガラスが曇ってしまっている。

 猫好きがふたりいると、子猫から目を離せなくなるのは分かり切っていたことだけど、俺たちはその場から動けなくなってしまった。

 

 「そういや、俺たちの本来の目的って……キャットタワー見ることだったよね」

 「すっかり忘れてましたね」


 俺が声をかけると、花野井さんは顔をこちらに向けて柔らかな表情を見せる。

 10分ぐらい経ってからようやく、俺たちは何をしにここにやってきたのか思い出した。


 

 「……結構大きいものが多いですね」

 「うん。猫は高いところが好きだから、大きいキャットタワーが多いんだと思う。……それで、1人で運びこめないかなと思って自分で作ろうかと」

 「……なるほど」


 俺たちは、実際に売られているキャットタワーをいくつか観察しながら話す。


 自分で作ったほうがきなこのこと考えて色々付けられそうだ、という理由もある。


 「もふもふした、柔らかい素材を使った方が良さそうな気がします」

 「うん。木材の上にカバーとかかけようかな」

 

 カーペットとか買って木材に合わせてカットする、っていうのもありだ。

 座布団を買ってそのまま使う、というのもいいな。ずっとそこで寝てばっかりで上に上がらなくなる恐れはあるが。


 「じゃあ、そろそろ材料の方を探そうか」

 「分かりました」

 

 そして俺たちは木材が売ってある場所にやってきた。


 水に強く、腐りにくいチークの板を数枚買うことにした。チークの黒っぽい色は、俺ん家の家具の色にも合いそうだ。


 「カバーって、こんな感じのでもいいですか?」

 「めっちゃ理想的、ありがとう」


 俺が板を選んでいるわずかな間に、花野井さんはふかふかの小さなマットのセットを見つけてきてくれた。


 「あとは……きなこが喜んでくれるオプションを付けるか」


 木材とカバーがあれば、キャットタワーの7割が完成するが、それだけなら市販のものを買って根性で1人で運びこめばいい話だ。


 残り3割の部分に、きなこのことを考えた世界に1つだけのキャットタワーとしての役割を担ってもらいたい。


 「あと小物とか色々探していい?」

 「はい。とりあえず猫村くんに付いていきます」


 まず、俺はきなこが寝られる場所を確保しようと、座布団をカートに入れた。

 あと、ハンモックを付けたいな、と思う。それじゃあ、布も入れよう。


 色々道具を揃えてから、こんなもんかなと思ってレジへと向かう。


 ……今さらだけど、キャットウォークも付けたいな。そのための金具とか、買いに戻らないと。

 花野井さんに断りを入れて、俺は再び売り場に戻る。


 「猫村くんって……本当に猫が大好きなんですね。遊んだりすることを考えて、材料とかも選んでて」

 「うん、かなり好きな自覚はある。まあ、花野井さんが、クロのこと大事に思ってるのと同じだと思うけどね」


 俺は花野井さんに笑いかけながらそう言う。


 「たしかに、そうですけど……」


 花野井さんは、少し頬を赤くして下を向いたあと、顔を上げて俺の瞳をまっすぐ見つめる。

 俺も、その吸い込まれそうな、綺麗な瞳を見つめ返す。


 「猫村くんの、そういう優しいところ……素敵、だと思います」


 花野井さんは、じっくりと言葉を選んで褒めてくれる。最後の方は、恥ずかしさからか、顔を下げてしまっていたけど。


 「……ありがとう」


 俺も照れてしまって、花野井さんのことをきちんと見られない。


 「い、いつ作りますか?」


 花野井さんは、慌てて俺に質問してくる。


 「明日からさっそく作り始めようかなあ」

 「連絡してから、手伝いに行きますね」

 「うん。よろしく」


 俺は笑顔で頷く。明日からの作業も楽しみだ。


 


  

 

 



 

 

 

 





 

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