第2話① ヤミは這い上がる
あの事件から、数週間。幾度もあの刑事が来たり主治医や看護師の方々が来たりして、ついに退院のとき。それまで関係者以外の見舞いはなぜか禁止だったが、それがついに緩和された。
真っ先に来たのはもちろん灰茶だった。
「やっと会えたな、バカやろ!」
患者であるはずなのにじゃれあいで殴ってきた。
「おい、一応患者だぞ」
「知らねー!心配したんだっつうの!」
彼なりに心配してくれたようだ。
「そんなことより...」
彼は黙り、俺の耳元で囁いた。
「俺だけに言ってくれないか?なんか知らんけど能力授かったんやろ?」
俺は迷った。言うべきか言わないべきか。そんなことを考えるうちにハッとした。そういや、彼の能力は...
「ホンマそうやな、でもなぜ急に能力授かったんかわからんなぁ」
彼の能力、
「大丈夫や、あの刑事さんには言わん。むしろあいつらに言ったら...」
あの刑事二人組に会ったらしい。彼らの思惑は灰茶にはわかってるみたい。
「言ったら?」
「...いや、なんでもないわ。それより早う学校
真剣な顔で俺を見つめ、そのまま帰っていった。
■
翌日、無事に退院を果たし、家に帰ってきた。しかし、今日は日曜なので学校にはいかない。灰茶の言ってたことが気になるが、まず授かった能力を試してみる。
筋肉の増量、血流の活性化、何もかもを見透かす動体視力などがあった。さしずめ自分の能力値を増長させる能力であろう。まるで映画や漫画アニメで見た主人公ヒーローかのようだ。
俺はスーパーマンになれるのか。そんな期待を抱きながら家を少し出てみる。ただの散歩だ。退院してすぐなので鈍っている体をほぐすために。
俺が住む片栗町。ごくごく普通の住宅地だ。その北の方に国道を挟んで通っている高校がある。その南一帯はほぼ家、たまにちょっとしたスーパーマーケットやコンビニがある程度でのどかな住宅街。この町は四方を山で囲まれている。特に有名なのが北の高校の裏山、
退院してすぐだから、そこまでは行かないけど、小さい頃はよく父さんに連れて行ってもらった。思い出ある場所。
父さんはいつもそこで語ってくれた。父さんと母さんがそこで出会い、プロポーズした地だと。この景色は俺の原点に過ぎないと。
そんな思い出に浸りながら数十分、いつの間にかあの銀行前に来ていた。復旧工事をしているらしい。確かに天井、穴あけちゃったもんな...っと思いながらその横を通り過ぎようとした。
「少年!」
どこからか、聞こえてくる声。周りを見ても誰も俺を呼びかけているような素振りはいない。
「少年!」
また聞こえた。でもなぜか懐かしいような...いや、これは俺の心に呼びかけていることに気づいた。
「少年!世界を救え!君ならできる!」
いきなり世界を救えだなんて、できるわけないし具体性もない。どうやって世界を救うんだよ。
「いきなりでごめんな、京介」
俺と全く異なる名前が出てきた。これ、別の人の記憶?もしかしてこの力って、元々は...
「這い上がる闇は、光へ集約する。世界はすべて闇の下にできている。その闇が、基盤が崩れ...」
大事なところでその声は消えてしまった。何やらこの力には謎がありそうだ。
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