第1話② ヤミの能力

あの後、普通に家に帰って晩飯食って風呂入って髪を乾かしベッドへ向かった。いつも通りのルーティーン。母は俺が小さい頃に事故で亡くなったらしい。だから、父が男1人で俺を育ててくれた。父はいつも夜遅くまで仕事をしている。むしろ基本的に夜勤の仕事なので俺とはほぼ会うことはない。それでも自分の家が誰かもう1人の存在を示すように多少の違いが残ってるだけで寂しくない。


そのまま、目をつぶる。



次の日、いつも変わらぬ風景の中、身体に違和感を感じていた。父は隣の部屋で寝てるようだ。俺は寝ぼけた状態で洗面台に立った。そこで鏡に映し出される俺の顔、目の中が赤と青のオッドアイになっていた。加えて少し筋肉が増えた気がする。


もちろん驚いた。俺はグッと手を握ると、力が増す感じがした。その時はあまり深く考えず身支度を済ませ、母の仏壇に祈りをしてから家を出る。


いつもの朝。学校へは徒歩で数十分。その途中、昨日神社があったはずの場所を通ったが、やはりそんなものなかった。きっと夢で、幻想なんだと考えた。だが、今日のある事件で俺は夢を叶える。


登校中、ほぼ校門の目の前。多くのガヤと数台のパトカーが止まっていた。それらは学校近くの銀行の周りにいた。チラッと群衆の間から見れば強盗事件だと...しかも、異能犯罪のようだ。この世界、選ばれた異能者に対しての規制があまり深いところまで行ってないらしい。そのため、悪いことに使う者もいる。


「主犯は鎖の能力、久下剛だ」


警察官の声が聞こえた。俺には関係ない、そのまま通り過ぎようとしたらざわめく群衆。


「おいおい、少女に鎖でぶってないか?」


隙間を覗く。銀行内がよくわかる。主犯と思わしき人物に加え、黒ずくめの連中数名。人質、その少女に加え客数十名銀行員数十名。


「公安ヒーローがまだ来ません!」


この世界では各国に公安ヒーローという形で異能犯罪者に対抗するヒーローが一応存在する。ただ、その公安ヒーローに対して給料が安すぎるとほぼ慈善活動同然だということ。公安ヒーローに対する大衆の妬み嫉妬などによりあまり出動したがらない。


「誰があの子助けんだよ」

「警察は何してんだ?」

「公安ヒーローも来ないしよ〜やっぱ異能者って俺らを見下してんだな」


罵詈雑言が聞こえる。でも、俺は違った。あの子の"助け"を呼ぶ声がはっきり聞こえた。


その瞬間、脚に血流が回る。筋力が増大していく。脚から始まり、腰腹腕...全身に血流が回り出した。そして、地面を蹴り飛ばすかのように群衆を飛び越え数台のパトカーを飛び越え銀行のガラスを打ち破った。この時、俺は何も考えてなかった。ただ助けたいその一心で動いた。


「なんだ?おめぇわよ?」


黒いグラサンをかけた長髪パーマの主犯と思わしき人物。その時、俺が思いついたこと...


超上昇機構スーパーアッパー!!』


奴の顎を下から上へ殴り、超絶なパワーで上昇気流が辺りを吹かせる。奴はその銀行の天井を突き破り、空高く舞い上がった。


これが彼のはじめてのヒーロー活動である。



だけど、そのまま突き上げた状態で俺は気を失ってしまった。目が覚めたときには病院のベッドだった。隣に父がいる。


「よかった、ヤミ助〜お前までいなくなったらと思うと...」


「心配ないよ、父さん」


気を失った俺に心配してくれる父、久しぶりに顔を見た。そんな再開も束の間、ガラガラと刑事たちが2名ほど来た。


「すみませんね、水を差して」


「...」


若手の刑事さんが言う。年寄りの刑事はじっと俺を睨む。


「さっそく質問ですが、本当に異能なんて持っていないんですよね?」


「はい、ヤミ助は確かに異能はないと病院で言われました」


「そちらの方は粗方病院先にも聞きました。私が聞きたいのはその後、何か変なこととか起きてないかって」


かなり鋭い質問。かなりできる刑事さんだ。


「...特には」


ついに年寄りの刑事さんが口を開ける。誤った質問をすればそれは俺を殺すほどだ。


「嘘を言っているようではないな...」


「...では、また後日に来ます。すみませんね、上からの命令で君に異能を持ってるのではと調査を頼まれてね、お手数かけますがまた来ますね」


そう言って、2人は出て行った。


「なあ、ヤミ。父さんに、なんか隠してないよな?」


「隠してないよ」


言い切るように、俺は初めて嘘をついた。



「あの少年、嘘を吐いてる。ご立派な嘘をな」


年寄りの刑事が若手に漏らす。


「なら、上に...」


「まだ言うな。確証がないからな?」












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