ヒカリとヤミ

アカサ・クジィーラ

第1話① ヒカリとヤミ


ある日、十五で誕生日を迎える少年がいた。彼が十五になるそのときに彼の持つが目覚めた。後にその力は世界へ広まり、十五になった者の約3割がその力を得ることとなった。ごく少ない特異な力を持つ者は神から選ばれし民であり、人々から尊敬または誹謗の的となった。のちに彼らは将来ヒーローとなって世界を救うのだが、この物語ではヒーローはいない。力を持つ者と持たざる者との軋轢から生じたある一つの戦いの物語である。



光、世界の表面を映し出すもの。

能力を活用して人々を守りたいという欲。

闇、世界の裏面に住まうもの。

能力を使い世界を支配したいという欲。





ヒーローはいついかなるときもやってくる


このセリフは僕が好きだった子供向け番組のもの。僕はヒーローになりたかった。十五で手に入れる力によって人を助けたい。黒木くろきヤミ介、力を手に入れられなかった男だ。



ヒーローはエゴイストだ


ある小説に出てきた文言、この異能社会を揶揄した代物であろう。私はいつも本ばかり読んでいた。友達と交流せず、黙って教室にいた。友達ゼロ彼氏なんているわけがない。そんな私を変えたい。十五で力を授かって私をいじめてきた奴らを見返したい。新しい自分になりたい。白林しらばやしヒカリ、力を手に入れられなかった女だ。





国立明誠高校、そんな2人が入学した学校だ。この町で唯一の進学校で、有名大学へ送り出す由緒正しき場所。その学園内でも能力を扱えるのはほぼ数人程度、彼らは学園の安全執行部に必ず入らなければよかった...


「ヤミ〜?」


僕の名前を呼べのは親友で糸目の灰茶はいちゃ夜紅葉よどみである。


「なんだよ、灰茶?」


「なんだよって、元気にしとるか〜って...異能検査から受験やらで忙しくて会えんかったし」


「ああ、十分に」


「そうかい、それよりも惜しかったな〜もうすぐで能力発現の骨密度やったのに...」


「うるせえなぁ、いいんだよ。俺はヒーローになれなかったんだから」


能力発現の目印として十五の誕生日に人間の骨密度が通常の40倍になればわかる。そして、ヤミはあと2%で能力を得られなかった。たった2%の壁は乗り越えられない。カルシウムを取れば誰でも能力を得られると思われていたが、それとは全く無関係だと研究によって理解されたのは数年後の話。


「カルシウム、取ったのにな〜」


「医師志望やから言うけど、あまりカルシウムは関係ねえじゃないか?普通の40倍の骨密度だと常人には到底及びないだろうからさ」


「夢ないこと、言うな〜」


2人は笑った。そんな話を聞いていた1人がいた。


(えぇ〜カルシウム関係ないの!?)


彼女は本読みながら静かに佇んでるが、心中うるさかった。


(せっかく能力発現まで、あと1%でお預けくらったのよ?私、変わりたいだけなのに...)





放課後、灰茶は安全執行部の活動で一緒には帰れないので1人で帰る。なにか後ろをついてきてる気がするけど、気にしない気にしない。まさか灰茶の方が異能を授かるとはな、あまり気にしない人物がゆえなのか...


いつもの帰路、何も変わらない。


ただ違和感を感じていた。ああ、後ろの黒髪ではなくもっと大きくて小さい違和感。ふと右を向くと紅く染まる鳥居が聳え立っていた。


「えっと...ヤミ介くんだよね?」


後ろをついてきた子がきた。


「そうだけど...これ、あんたの能力?」


「ちちちがうわよ!能力持ってないから!」


「そうか...なら、これはなんだ?いつもの帰り道、たどっただけだぞ」


帰路にこんな鳥居はなかった。見覚えのないその鳥居の奥は霧で全く見えない。


「行くか...」


「え..」


彼は勇気を出して、その先へ向かう。彼女も怖がりながら着いてきた。霧に包まれた真っ白な世界を何のあてもなく進む。右も左もわからない。歩いて何分経ったか、ついになにか木製の建物が見えた。


「神社やな〜」


「神社ですねー」


紛れもなく神社だった。賽銭箱に、鐘が吊るされている。彼と彼女は無意識にもそっと5円玉を入れて鐘を鳴らした。手を合わせ、目を瞑る。二拍手一礼。


(世界を救うヒーローになりたいです)


(新しい自分に生まれ変わりたいです!!)


彼らが目を開けたとき、そこは神社ではなかった。鳥居の目の前...いや、鳥居なんてそこにはなかった。元いた場所に戻ってきた2人は顔を合わせ、何も言わず、自分の家へ向かった。背中と相対して。



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