後日

 「ところで、浩香って昔からモテたよな。」


 「そうかな?正斗クンからモテてなかった気がするけど。」


 「それはごめんて。それより小学校の修学旅行でさ……」


 「台風でホテルに連泊した時だね。」


 「そうそう。浩香、男子と何処かに行ったよな?」


 「あー、そんな事もあったね。」


 「あれ、何の話だったんだ?」


 「湖山こやま君だったね。私の事が好きだって言ってきたの。」


 「やっぱりそうか。」


 「知ってたの?」


 「5年の宿泊訓練の時にアイツ、浩香が好きって言ってたから。」


 「そうなんだ。」


 「それで浩香は何て言ったんだ?」


 「え?別に、『そうですか』って言っただけ。」


 「それだけ?」


 「うん、それだけ。だって湖山君もそれしか言わなかったから。」


 「湖山……ヘタレかよ……」



 「中学校の時もモテてたよな。」


 「あー、段々めんどくさくなってきてた頃だね。」


 「めんどくさくなってた?」


 「毎日毎日代わる代わる告白されたら面倒にもなるよ。」


 「そんなモテ期、一度も経験した事ないから分からん。」


 「3年間で学年問わず50人は告白されたんじゃないかな?」


 「ご、ごじゅう!?」


 「途中からめんどくさくなって数えてないけど。」


 「何かゲームのラスボスが言いそうな台詞だな。」


 「だから最後の方は、許嫁がいるので無理って言ってた。」


 「許嫁?」


 「勿論、正斗クンだよ。」


 「は?」


 「私の中では正斗クンしか居なかったからね。(にこっ)」


 「くっ……(あざとい……)」



 「そうだ、これ覚えてる?」


 「ん?クロス?あぁ……確か中学校の修学旅行の時の……」


 「そう。ずっと大事に持ってるんだよ。」


 「でもシルバーメッキの安物だからだいぶ傷んでるな。」


 「それがいいんだよ。」


 「そんなもんか?」


 「そんなもんよ。それとも次はプラチナベースに色とりどりの石を散りばめた私たちの貯金だけじゃ買えないくらいのを買ってくれる?」


 「思い出って大事だよな!」



 「何か学生の頃ってずっと諜報部員みたいな事してた気がする。」


 「諜報部員?」


 「周りが皆浩香の事を知りたがってあれこれ訊いてきてくれって。」


 「あぁ、それなら自分の事言えば良かったのに。」


 「何でそうなる?」


 「私はずっと前から正斗クンのことが好きだったんだから、私の好みは正斗クンじゃないの。」


 「あ、あの頃は浩香が僕の事を好きだなんて思ってなかったんだから。」


 「それに私は正斗クンに訊かれたらいつも言ってたよ。『好きな人がいる』って。」


 「誰なのか訊いても教えてくれなかったじゃないか。」


 「それで『正斗クン』って言ったら私が告白した事になるじゃない。」


 「ま、まぁそうだけど……」


 「私は正斗クンから告白して欲しかったんだよなぁ。」


 「すんません……」



 「正斗クンは何人くらい彼女作ったのかな?」


 「え……あ……いや……」


 「何焦ってんのよ?」


 「あ、焦ってなんかいないけど……その……」


 「2人?3人?」


 「ふ、2人……かな……」


 「ふぅん……私はずっと正斗クン一途だったのになぁ……」


 「マジそれはごめん……」


 「まぁけど、は全部一緒だからいいよ。」


 (ファーストキスは違った気が……)


 「子供の頃にファーストキス捧げてて良かったわ。」


 「え……?」


 「ん?」


 「ファーストキス捧げてって……えっと……」


 「あぁ……(ごそごそ)これ!」


 「これ?……赤ん坊が……ふふっ、ちゅーしてる写真かぁ……って……え?」


 「そ。これ、私と正斗クン。」


 「何でこんな写真があるんだよ?」


 「ママが『可愛い!』って撮ったって言ってたよ。確かお義母さんも撮ってたって言ってたから正斗クンちのアルバムにもあるはずだよ。」


 「マジか。」



 「何であの時突然うちに来たんだ?」


 「唐揚げ食べてもらいたかったから。」


 「何それ?」


 「お義母さんにレシピ教わって何度も作ってやっとお義母さんの味に近付いたと思ったから。」


 「うちの母さんに料理教わってたの?」


 「今更?中学生くらいの頃から教わってたよ。」


 「マジか。」


 「高校の時のお弁当、殆ど作ってたの私だよ。」


 「マジか。」


 「お義母さんからも『正斗の気を引くならまず胃袋を掴め。』って言われてたから。」


 「それ、母さんが楽する為の方便じゃ……」



 「やっとだね。」


 「うん。浩香の家に挨拶行った時におじs……お義父さんに『遅ぇわ。』なんて言われると思わなかった。」


 「そりゃあ20年以上待ってたんだから。」


 「20年って……幼稚園入る前くらいじゃん。」


 「その頃から『正斗クン好きー』ってずっと言ってたし。パパもママもいつ正斗クンが報告来るのか待ちわびてたんだから。」


 「そもそも浩香が僕のこと好きだなんて思ってなかったんだから挨拶も何も無いよ。」


 「私としては20年以上、ずっと想いを送り続けてたつもりなんだけどなぁ。」


 「人を鈍感みたいに言わないでくれ。大体、学校一モテる浩香が平凡な僕の事を好きだなんて思うわけないだろ。」


 「危うく正斗クンの思い込みで私の初恋を失うところだった。」


 「まぁいいじゃんか。こうしてお互いの初恋相手と一緒になれるんだから。」


 「正斗クンのことは私が幸せにしてみせるからね。」


 「それ僕の台詞じゃない?」


 「じゃあ言ってみて。」


 「ぇ……」



 幼馴染同士が結ばれるのは、2020年の調査では1000組の内7組、1%未満だそうだ。

 奇跡の確率とまでは言わないけど、色々あった人生で、こうして大好きな幼馴染と一緒になれた事は、一つの夢が叶ったような気がする。


 そして二つ目の夢は、僕が彼女を幸せにするだけじゃなく、僕が彼女に幸せにしてもらうだけじゃなく、一緒に幸せになっていくこと。


 必ず叶えてみせよう。

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幼馴染なんか大嫌いだ 月之影心 @tsuki_kage_32

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