社会人④

 浩香の唐揚げは絶品だった。

 店で出したら売れると思った。

 しっかり味が付いていて柔らかくてジューシーで、どこか懐かしい味だった。


 『やっぱおばさん正斗の母のレシピが一番よね。』


 どうりで懐かしい感じがしたわけだ。

 浩香はわざわざ僕の為に馴染んだ味であるうちの母の味付けを教わって来たらしい。


 久し振りに作りたての料理を堪能した頃には外はもう薄暗くなっていた。


 『陽が落ちるの早くなったね。』


 と言う浩香の言葉に、帰りの電車の時間が気になった。


 『電車の時間、大丈夫なのか?』


 『んー、明日は会社休みだし泊まっていこうかな。』


 『あぁ、別にいいよ。』


 『じゃあ泊まっていくね。』


 『あぁ。』


 何気なく答えてはみたが、一呼吸置いて考えて(それはマズいだろ!)と冷静な考えが戻って来た。


 『あ、いや……ちょっと待って……それって……』


 『ん?やっぱりダメ?追い返す?』


 言い方がズルい。

 その流れで浩香を帰らせたら僕が浩香を追い出したみたいに思われる。


 『お、追い返すんじゃなくて……その……』


 『幼馴染が泊まっていくだけじゃん。昔はよくお互いの家でお泊り会したし。』


 『それ幼稚園の頃だよな?もう僕達大人だよ?』


 『何か問題ある?』


 『大ありじゃないかな!?』


 そう言いつつ、久し振りに会えた浩香とまだ一緒に居たい気持ちの方が大きくて、それ以上強く言えなかった。

 浩香はにっこりと笑ってうんうんと頷いていた。

 突然押し掛けてきてその上強引に泊まっていこうとする浩香なんて大嫌いだ。

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