中学校④

 3年生になると、いよいよ本格的に受験生の雰囲気が漂い始める。

 公立の中学校なのだが僕らの年次に赴任してきた学年主任がやたらと上位校進学率を謳う人らしく、3年生だけを集めた学年集会で壇上に立ち、


 『この1年は勉強以外の事は考えるな。ゴールデンウィークも夏休みもあると思うな。今までの人生の全てを注ぎ込め。』


 と、熱いを通り越して暑苦しい演説をかましていた。

 とは言え、学年主任がどう言おうと夏のイベント類は普通に開催されるわけで、例年通り僕は浩香に誘われて夏祭りに行くことになった。


 西の空がオレンジ色に染まり始める夕方、僕は浩香を迎えに……と言っても目の前の家なのだが……浩香の家のインターホンを鳴らした。

 玄関が開いて姿を現したのは、紺色の中に色とりどりの金魚が泳ぐ浴衣を着た浩香だった。


 『お祖母ちゃんに見立ててもらったんだけど……どうかな?』


 『うん……いいと……思う……』


 『よかった。』


 目の前でくるりと向きを変えたりポーズを取ったりする浩香に見惚れてしまっていると、ふと視界にニヨニヨとした笑顔でこちらを見るおばさん浩香の母が映り込み、慌てて目を逸らした。


 『そ、そろそろ行くか?』


 『うん!』


 僕は浩香の家に背を向けてそそくさと門扉を抜けて外に出て祭り会場の神社に向かって歩きだした。

 カラコロと下駄の音を鳴らしながら着いて来る浩香が隣に並び、僕の手を取って繋いだ。


 『手を繋ぐのも久し振りだね。』


 『そ、そうだな……』


 『いつから繋がなくなったんだろうね?』


 『さ、さぁ?てかもう中学生だし、普通はつ、付き合ってる相手としか繋がないもんなんじゃないのか?』


 『そんな事ないよ。私、友達とかとよく繋いだりしてるよ?』


 『そ、それは女の子同士だろ?僕は男だぞ……』


 『私と手を繋ぐのは嫌?』


 『そ、そんな事は……無い……けど……ほら、誰かに見られたら困るだろ?』


 『え?別に私は困らないけど?』


 『え……』


 浩香は困惑する僕に『ふふっ』と笑い掛けると、繋いだ僕の手を引いて神社の方へと引っ張って行った。


 (さっきのって……どういう意味だ?)


 大勢の男から好意を寄せられるような浩香が僕と一緒に居て変な噂を流されたら困るだろうに。

 そんな常識的な事も理解しない浩香なんか大嫌いだ。

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