中学校③

 修学旅行最終日は別府温泉を巡って硫黄の匂いを浴びた後、バスで博多まで行って新幹線で帰るルートだった。

 新幹線に乗ると、周りの連中は旅の疲れからか発車よりも先に寝てしまう奴も大勢居たが、僕は何となく物足りない気分が残っていて寝付けずに居た。

 気分転換に席を立ち、ドアのある所へ行って丸い窓から流れる景色を眺めていた。


 『旅は楽しめた?』


 突然背後から声を掛けられて振り返ると浩香が笑顔で立っていた。


 『ぼちぼち。』


 浩香は『そっか。』と言って僕の肩越しに窓の外に視線を移した。

 僕も元の立ち位置に戻って窓の外を眺めながらズボンのポケットに手を入れると、指先に紙の感触とそれに包まれた硬い物が当たった。

 長崎の土産物屋で買ったネックレスだった。

 僕はそれをポケットから出し、くしゃくしゃになった包み紙を破いて中身を出すと、浩香に渡した。


 『何これ?クロスのネックレス?』


 『やる。』


 『え?いいの?』


 浩香は渡したネックレスのトップを掌に置き、銀色に鈍く光る十字架をまじまじと見ると、クラスプ(留め具)を外して首の後ろに回して器用に留めた。


 『どう?』


 胸の前でクロスを指に掛けてポーズをとる浩香。

 『どう?』と訊かれてどう答えればいいと言うのか。


 『いいんじゃない?』


 『やった。ありがと。』


 そう言った浩香はニコニコしながらクロスをブラウスの中に落とし込み、服の中に落としたクロスをぎゅっと握ってから首元を整えてもう一度僕に笑顔を見せた。

 その笑顔に僕の心臓がドクンッと高鳴ったが、気取られまいとすぐに視線を外して窓の外を見た。

 笑顔だけでこんなにも心臓をバクバクさせる浩香なんて大嫌いだ。

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