中学校②

 うちの中学は3年生の丸一年を受験勉強に充てる為か、修学旅行は2年の時に行く事になっていた。

 行き先は九州北部で、長崎、熊本、大分の観光地を回るルートらしい。

 2年で僕は浩香と違うクラスになっていたのでどう足掻いても浩香と一緒に行動する機会は無かった。


 1泊目の晩、同じ部屋の連中があの時と同じように『好きな子言おうぜ』と言い出した。

 以前は寝た振りをしてやり過ごせたが、今回は何でもない雑談からいきなり話題転換されて誤魔化す事も出来なかった。


 『俺はやっぱ井藤さんかな。』


 『あーだよな。俺も井藤さんが好きなんだよなー。』


 『うわー競争率高ぇー、俺も。』


 相変わらず浩香の人気は凄かった。


 『宝城も井藤さん?』


 突然僕の方に話を振って来られて少々動揺してしまう。


 『ぼ、僕は……初多はった……さん?』


 慌てた僕は、長崎の街を案内してくれたバスガイドさんの名前を言った。

 一瞬の静寂の後、『はったさんって誰?』『うちの学校にいた?』『今日のバスガイドじゃね?』という流れから爆笑の渦が起こった。


 『お前、あんな大人の女が相手してくれるわけねぇじゃん!』


 『宝城、お前マジ面白ぇな!』


 別に面白い事を言おうとしたわけじゃないし、本当にバスガイドさんが好きになったわけでもない。

 ただ、何となく『浩香が好き』と言うのはノリに流されたような感じがして天邪鬼が発動してしまっただけだ。

 目の前に居もしないのに僕に嘘を吐かせる浩香なんて大嫌いだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る