小学校④

 小学5年生の春に宿泊訓練があった。

 山奥の施設に1泊2日で行き、自然の中を歩いたり集団で行動する事の意義なんかを学んだりした。


 『好きなやつ、順番に言っていこうぜ。』


 消灯時間が過ぎた頃、同じ班のリーダー的なやつがそんな事を言い出した。

 そんな奴は居なかった僕は、布団に潜り込んで寝た振りをしていた。


 『俺はやっぱ井藤がいい。』


 浩香の苗字が耳に入って思わず体がびくっと跳ねてしまった。


 『え?お前も?俺も井藤がいいなと思ってたんだ。』


 『まじか。俺も井藤さんが好きなんだよな。』


 同じ部屋に居た全員が浩香の事が好きだと知り、


 (さすが浩香、人気あるなぁ。)


 と思いつつ、何故だか胸の奥がもやもやしたのを覚えている。

 目の前に居ないくせに、寝る間際に他の男子に名前を出され、よく分からない感情を抱かせるような浩香なんて大嫌いだ。

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