8.ボス攻略

 洞窟の階層を二人は静かに進む。

 探知系魔法――《罠探知トラップ・ディテクション》――《鉱石探知オーア・ディテクション》――《存在探知イグジスタンス・ディテクション》は正常に作動している。


「《存在探知イグジスタンス・ディテクション》が反応していないということは、大丈夫だな」

「下層なのにモンスターがいない……」


「攻略組のおかげだろう」


 洞窟の一本道を進んで行くミーシャとリーネは気付く。

 空間がだんだんと広がっている。

 この奥に恐らく広がった空間があるのだとミーシャは察する。

 

 その時だった。


「行けぇぇぇぇぇッ!!」

「やぁぁぁぁぁッ!!」


 攻略組の声が聞こえてくる。

 前方には光が差す。


「行くぞ!」ボスを攻略する光景を見たいという興味に突き動かされ、ミーシャは走る。



 光を抜けると空間は予想以上に広がる。

 空間の奥にまだ見えないボスと対峙している。


「ここがボス部屋か……」

「うわぁ~……師匠、見てください!」リーネが目を向ける天井をミーシャは見ると釘付けになる。


 その天井は虹色に輝き、ボス部屋全体を照らしているようだ。

 この空間の広さは入り口から見て、攻略組で隠れている距離だ。

 天井の高さも高く、入り口の左右に二階に上がる階段がある。

 

「広いし、しかも結構気が利いてるな……」

「え……?」


 ミーシャは階段の先を指差す。

 高さ的には二階にはなるが、空間を沿って道を形成されており、向こうの恐らく先へ包む道の上を繋いている。

 上に上がるメリットは剣士にはないが魔法使いには少しある。

 だがただの二階の道だ。

 敵の遠距離から逃げ場はない……気が利いてるって言ったが、考えれば意味ないかもしれない。


「上に行くよ!」

「は、はい!」


 階段を上がり、奥へと進む。

 

「グォォォォォッ!!!」

「ん?」


 人間ではない咆哮が聞こえる。

 

「ギャァァァァァッ――――!!!」


 今聞こえた人間の絶叫は恐怖に染まっていた。


「師匠!!」と恐怖を感じ、リーネはミーシャを呼ぶ。


「……」ミーシャはしゃがみ、鉄の柵の間から戦場の光景を見渡す。


「うぅぅ……」未熟でも生命の本能か分からないが、戦場の状況を感覚で理解しているようだ。


 まぁ、それが普通の反応だ。


「……あれは!」


 難攻大迷宮の最初のボスモンスターは巨大なコボルトだった。

 ボスフロアに設置されたモンスターは魔法的に出現する。

 魔法的なシステムで幾度も……。

 前回受けたダメージがなく、最初の時までに戻っているという疑問から迷宮学が広がり、今では魔法的なことだと丸く収まった。


「ギガントキングコボルト……」


 その名の通り、通常のコボルトの十倍以上の大きさだ。

 物理的にも人間の剣士職が数だけで押すことは困難だ。

 それくらいで攻略できるわけではないはずだが……。


「押されている。リーネは! 知らないか」

「え、なんですか!?」


「前回攻略組が挑んだ時はいつっていう質問なんだけど……」

「い、いえ……」


「だよね。だけどリーネも分かるでしょ! この戦場、攻略組が押されている。前回の人材には鎧の人間だけだった……何かしら改善して挑んだはず……」

「でも、押されています……」


 一つ思う所は改善の問題と戦術の失敗だろう。

 人数は変わっていないということは戦術は防御か……。

 ミーシャは戦場を見るとやはり防御が硬い人間が盾になって、後ろから刃を刺している。


「……バカか?」


 正気かと呆れるが、すぐに相手について知るために世界モンスター大図鑑を魔法書を開き、ページの中から分厚い本を取り出す。


「え~と、コボルトコボルト……」


 ギガントキングコボルト。

 キングとついている個体にはギガントコボルトより大きな違いがある。


 それは広範囲的に大地を操ることができる。

 

「ん~」とリーネもミーシャに近づき、ギガントキングコボルトのページを見る。


「えぇぇぇぇぇッ!!!」と丁度、大きな違いの文を見て、絶叫を上げた。


「うん、何だ!? 子供がいるなんて!!」

「おい! 情報独占で口留め料請求されるかもしれないんだぞ!!」


「い、いやでも……ピンチですよ?」

「でも、私達が戦闘に参加する理由なんて……」と戦場を見渡し、考える。


 ある!!

 迷宮内のボスを討伐すれば、宝物が手に入る!!


 ギガントキングコボルトの手には巨大な剣を持っている。


「ギャァァァァァッ――――」


 今の絶叫で戦場に目が向く。

 状況は防御が遂に砕け、その所に二撃をキングが振りかぶる。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ――――!!!」


 その刃が通るであろう線上に一人の人間。


「師匠!!」

「ッ――――」


 リーネが叫ぶと同時に鉄の柵を踏み台にし、高く飛ぶ。


「――――【万能領域】、展開!!」


 その姿を攻略組の視界に入る。


 そして巨大な刃が人間に近づく間に着地し、純白の杖を大きく振るう。


 ガコンッ!!、と衝撃音が鳴る。

 巨大な刃が近づく瞬間に目を瞑った男達は目を開ける。


「なッ――――」

「グゥゥゥ……」


「ハァァァッ――――」力を杖に流し、前に足を踏み出し、杖を上に思いっきり振り上げる。


「グワァァァァァッ――――」


 絶対有利スキルのおかげで筋力もキング以上の状態であるミーシャの押され、後ろにバタリと倒れる。

 

「な、何だお前!!」

「何で子供がここに!!」


「そんなことより後ろに下がって!!」


「な、何だと!!」

「たかが子供に――」


「あ~も~!――《空間移動スペース・ムーブメント》」とミーシャが唱えると男達は瞬間的に入り口の前まで移動していた。


「嘘、だろ? 空間移動だと!?」

「隊長、あの少女、只者では!!」


「あぁ、だが攻略組である我々が……」そう悔やむ隊長の男だが今現在の戦況として攻略組の半数以上が負傷している。


 続行は不可能ということは誰もが分かる。

 攻略組の男達は自然と前方の戦闘を見るしか他にはなかった。


「さぁ、久しぶりに”戦闘”というものをやろうじゃない!!」そう言い、ミーシャはやる気満々で杖を構えるのだった。


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