4.VS コボルト

「あの……」

「ん? あぁ、ちょっと待って……」ミーシャは懐から短剣を取り出し、少女が拘束されている縄を切る。


 最初のコボルトが攻撃を受けたことで他のコボルト達が姿を現し、完全に囲まれてしまった。

 だけど白い少女ミーシャは冷静に周りを見渡し、杖を構える。


「さっきの男達は恐らくやられたよ。コボルトの群れはゴブリン並の数だからね」

「そ、そんな……」少女は自分を置き去りにした男達の事を悔やむ。


 それは何故なのかとミーシャは疑問に思うが、今は目の前の事を片付ける必要がある。


「グググ……魔法使イ、カ……」氷に吹っ飛ばされたコボルトが少女に近づく。


「言葉が通じるのなら、下がりな! さもないと命の保証はできないよ?」

「グググ……オマエ達!! ヤッチマエ!!」


 ミーシャの忠告にコボルト達は無視し、攻撃を仕掛ける。


「じゃあ今日の肉になれ!――《獄炎雨ヘルフレイム・レイン》ッ!!」とミーシャは中位魔法を詠唱した。


 すると上空からゴォォォッと音が鳴り、獄炎が大地に降り注ぐ。


「え……うわぁぁぁぁぁッ!!」


 リーネの想像以上の魔法効果範囲と見たことのない強力な魔法を見て、身の危険を感じ、ミーシャに抱き着く。

 

「大丈夫、術者に魔法が当たるなんて聞いたことないよ? まぁ、初心者ならあり得るかもしれないけど……範囲攻撃は術者を中心としてるからそこから動かなければ大抵は当たらないよ!」

「そ、そうなんですか……」リーネは魔法の知識が低いようだ。


「グワァァァァァ――――」

「グワァァァァァ――――」


 獄炎の雨が降り始めたすぐにあちこちでコボルトの悲鳴が聞こえる。

 

「クソッ! ヨケロォォォッ!!」

「ぐッ……ギャァァァァァッ!!」事態を把握し、コボルト達は慌ただしく《獄炎雨ヘルフレイム・レイン》を避ける。


 だが中位魔法の広範囲攻撃は一度避けたとしても次の地点に炎が降り注ぐ。

 生き残ったとして無傷じゃ済まない。


「熱い~」リーネは地獄のような惨状を目の当たりにしながら、《獄炎雨ヘルフレイム・レイン》の影響で辺りの温度が上昇する。


「だったら、抱き着くな」

「だ、だけど一寸先は炎ですよ~」


「待って! あと少しで魔法効果が切れるから……」


 少しの間で二人の周囲は真っ赤な世界に変化する。

 だがそんな獄炎の雨の中で一つの影があった。


「グググ……イイコトヲキイタ……」片言な言葉でしゃべる一体のコボルト。


「最初の奴か……群れの中で一体くらいはそんな奴等は存在してもおかしくないな」

「オレハ、リーダーダ。オレハ、ナカマタチノタメニィィィッ――――!!」身体に残る力を振り絞り、高速でミーシャに接近する。


 確かに身体中に古傷があり、戦闘経験はありそうだ。

 中位魔法から生き残ったのも凄いが、まだ高速で動けるほどの力が残っているなんて……。


「生き残ったのは褒めてやるが、――《氷矢アイス・アロー》ッ!!」


 あの体力なら下位でも十分殺せる。

 即座に詠唱し、ミーシャの目の前に水色の魔法陣が展開し、そこから複数の鋭利な氷が放たれる。


「グォォォォォッ――――!!」


 だがリーダーコボルトは避けることはなく、腕を前に構え、《氷矢アイス・アロー》を受ける。


「流石戦士だな……少し、使えるかも……」

「シネェェェェェッ――――!!」


「きゃぁぁぁぁぁッ!!」リーダーコボルトの迫力でミーシャの後ろに隠れる。


「――【万能領域】、展開――――」小声で呟いた後に自分で名付けた自称『絶対有利スキル【万能領域】』を発動させた。


 味方にバフ、敵にデバフを大幅に付与する。

 その対象はミーシャ自身でも操作可能だ。


「グォォォォォッ――――」

「ッ――――」


 すぐ後にゴンッ!と物理的な音が響いた。


「ガッ――――」


 その音の正体はバフで強化されたミーシャの杖でコボルトは頭を殴られ、目の前に倒れた。


「え……えぇぇぇぇぇッ!! あの~、何をしたんですか?」

「ん、ただ殴っただけだけど……この距離ならいくら私でも魔法は間に合わないからね」


「へ、へぇ~……」辺りは《獄炎雨ヘルフレイム・レイン》で地形はボコボコになり、煙が立っていた。


「こ、殺したんですか?」

「いや、少し聞き込みをしたいと思って……ってか肉……」


「あ……何にも残ってないですね……」

「クソッ……」


 こうして万能の魔法使いミーシャは新米魔法使いの少女リーネと出会った。

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