3.油断と本性
多くの魔法使いの旅の目的は大きく分けて二つ。
自身の実力を磨くこと……魔法への探求だ。
その二つの目的は大抵、前者から後者へと自然と目的が流れる。
平均以上で独り立ちができるレベルの人間が、自身の外に存在する魔法の探求や開発を行う。
実力ななければ後者は実行できない。
「ここか……」
古きから存在している人工的な地下空洞、迷宮……。
だが世界で迷宮が突破された迷宮は数少なく、逆に突破されていない迷宮の方が多いのが現状だ。
しかも専門家の情報ではまだ未知の迷宮が今発見されている迷宮数の半分はあると証言していて、まぁそれは妄想の域だ。
「ロエール大迷宮……」大迷宮とは迷宮よりレベルも規模もデカい迷宮を指し、有り体に言えば迷宮より困難というわけだ。
そんな大迷宮でも人出入りは多いようだ。
大迷宮の入り口は沢山の人の足跡があった。
「あれ、今日入った人達がいる……相当の実力者かただのバカか……」野外生活が人生の大幅を占めているミーシャは足跡や生物の痕跡を読み取るのは朝飯前だ。
ロエール大迷宮の情報はまだ上層部分しか突破されていない状況らしい、攻略が止まった理由としてはそれはすぐに理解できる。
ボスだ。
迷宮内に一定の層を進めば、それに立ち止まる。
そのボスを倒さないと進めないようになっている。
まぁ攻略が止まる理由の大体がそうだ。
「さぁ、数か月ぶりの迷宮だ! お金にあるものが見つかるといいな~」ミーシャは探索感覚で大迷宮に足を踏み入れた。
「うらぁッ!!」
「よ~し、案外楽勝だな!」ミーシャが入る前に大迷宮に侵入したパーティは一層から二層を順調に攻略していた。
「難攻っていう噂もデマだった可能性もあるかもしれませんね!」
「あぁ、奥に進めば金目のものがあるかもしれねぇからな! さぁ行くぞ!」
このパーティのリーダーである男が先へ剣を向け、その周りの者達が恐れることはなく前へ進んで行く。
そんなパーティの中に一人だけ動きがない者にリーダーの男が気付き、怒りの表情を浮かべる。
「おい、さっさと歩けリーネ! お前の頼みで連れて行ってるんだぞ!」
「は、はい!」リーネと呼ばれた少女は魔法が付与された服を身に纏い、短い杖を握りしめる金髪の少女は初めての迷宮で緊張している様子で男達の後について行く。
だが大迷宮はそんなに甘くはない。
あんな男達でも大迷宮の序盤である一から三層くらいは進めるレベルだ。
そして大迷宮の怖い所は急にモンスターが強くなる点であり、攻略がピタリと止まる原因でもある。
「おい、こっち進めようだぞ!」男のパーティは順調に階段を降り、次の階層へとたどり着いた。
第三階層は迷路のような構造であり、床や壁が長年のせいか植物がこびりついた緑色の世界だ。
地下ということもあり、空気が新鮮だ。
男達は階層の雰囲気で完全に油断しながら迷宮を進むと少し前に横に続く道があり、その奥の行き止まりに宝箱が見えた。
「お、おいリーダー! 宝だぜ――」
その瞬間だった。
横の道からデカい影が見えた時に一人、前に走り出した男の頭が胴体から離れ、吹っ飛ばされた。
ドチャッ!、という音と共に向かいの壁に頭が強くぶつかり、その頭が地面に落ちると同時に胴体も倒れる。
「なッ……」
突然の事でパーティの男達はその場に固まる。
そんな男達の前に現れたのは、人間の二倍くらいの大きさのモンスター……毛皮に覆われ、耳と尻尾が特徴で身体能力も人間を遥かに凌ぐコボルトであった。
「グググ……グワァァァァァッ――――」口を開け、大きく絶叫する。
そのコボルトの咆哮と共に男達は状況に気付き、武器を構える。
「く、クソォォォッ!」
「おい、待て!」前方の一人の男が剣を構え、前に出たがリーダーの男が何かに気付き声を上げた。
その時、パシュッ!と硬い糸の音が聞こえたと同時に男の胴体に矢が刺さる。
「がぁッ――」
一瞬だが男の視線が矢に向けられ、その隙にコボルトが持つ巨大な剣でさっきの男と同様に首を落とされた。
「あぁぁぁぁぁ!!」
目の前に仲間が死んでいく状況に一人の男が叫び、生き残った者達もパニックに陥る。
「おい、囲まれてるぞ!」
「クソ、さっきの咆哮だ!」コボルトは群れで行動する。
コボルトはモンスターランクではBにランク付けされているが、男達では対処は難しい。
人間以上の身体能力と知能がある。
そしてこの大迷宮に存在しているということか、この場所は彼らの慣れ親しんだ所だということだ。
「り、リーダー! どうする!!」
その問いにリーダーの男は思考を回転させる。
どうする?
相手はコボルト、普通に考えれば俺達じゃ手に余る。
クソ、本当に大迷宮は噂通りだったのか……。
そんな男の目にリーネが映り込んだ。
そして男の考えが決まった。
「お、おいリーネ……」男は震えた声を出す。
「は、はい……」
「お前、囮になれ……」震えている声だが、男の目は少女の反論する気力を無くすほどのものだった。
「え……そ、そんな……」
「女を置いていけば、少しは逃げる時間が長引くだろう……」
「え、そんな!」リーネはコボルト、そして仲間からの危険を感じ逃げ出そうとするが、腕を掴まれ、持参していた縄で手足を拘束される。
「よし、行くぞ!!」リーネをそこに置き去りにし、男達は後ろをまだコボルトがいないことを確認し、一目散に逃げていった。
「オイ、アイツ等ヲ追エ!」
最初に現れたコボルトが周囲にいる個体に命令し、リーネに近づく。
「ひッ……」
人間がコボルトに捕まれば、どうなるか粗方予想がつくリーネは拘束されながらも暴れるが、少女の力に縄を解く方法はない。
そして最初のコボルトがリーネに手を出した。
「キャァァァァァッ――――」リーネの叫びが響き渡る。
「グアッ!!」
それは一瞬でコボルトがリーネの目の前から消え、少女に降りかかったのは冷たい氷の欠片だった。
あのコボルトが突如氷に押され、吹っ飛ばされたのだ。
するとザッ、ザッと後ろから小さな足音が聞こえ、リーネの目に映る。
「コボルト……君は少し人をちゃんと見た方がいいよ。まぁ、あの男達と一緒に逃げなくて幸いだったのかもしれないけど……」
白い少女。
「き、綺麗……」
目の前で靡く銀髪にリーネは見惚れてしまった。
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