第2話
「…無いですねぇ」
結果は同じだった。てっきり故障だろうと思い込んでいたが万が一機械の故障だとしてもおかしい、
額から伸びる二つのこぶ"のみ"を認知していないということになるのだ。だが、故障以外にこれは説明がー…。
「あぁ、やっぱり。」
納得行かぬ佐久とは対照的に小山椿は憑き物でも落ちたかのようにあっさりと答える。
やっぱり、とは。
「えーと、本当にすいませんね、うちのが壊れてる可能性が高い。他所で使ってたエコーに空きが出ましたから、そっちでー…」
「もう良いです、"分かりました"から。」
分かったと言う患者と、分かった気でいたが何も分からなくなった医者。なんとも歪な診察になってきた。
「小山さん、病院来たってことは不安があったんでしょう、諦めるのは早いですよ。写らないってのは病気云々の前にあり得ない事なんですよ。だからね、うちのコンピュータが故障しててー…」
「スマホのカメラにも映りませんでした、これ。」
小山はその"こぶ"を撫でながら呟く。
「一昨日帰ってきて鏡を見たらこれが出来ていて、更に大きくなったり何か変化があるかもしれないから記録として残しておこうと思ったんです。でも写真にも動画にも写らなくって。」
なんだか話の流れが変わったな、と佐久は眉を顰めた。
では、これは写真に写らぬ幻のなにか?彼女は自身の額から生える二つの"こぶ"を、摩訶不思議な、医療からはかけ離れた代物なのだと、そう決着付けてしまったのだろうか。もし精神的に弱っている状態なのだとして、見目に特別気を使う年頃の子ならばその方向にいくのも無理はないか。少々哀れになって痩せぎすの彼女を見る。触り心地は確かに骨であった気がするがー…
ふと気になったことを尋ねる。
「一昨日に気が付いたんですよね、なぜ一日空けてから来たんです?お仕事ですか?」
えぇ、色々とやる事がありまして、と答える彼女はすでに外衣を羽織り、帰る準備を始めている。
診察室の扉に手をかけ出て行こうとする小山椿に「何であれ変化があったらまた来てください。診ますから」と引き止めると、彼女は思い付いたように振り返った。
「先生、これって覚悟なんだと思います。覚悟って写真には写らないでしょう。だから私のも、写らない。そういう事なんじゃないかしら」
それだけ言って小山椿は会釈するとさっさと行ってしまった。去り際の微笑は元の造形の美しさを垣間見させた。
覚悟は写らない。だから私のも、写らない。
では彼女は何か覚悟をしたのか。
診察室には、やはり分からぬ私、佐久と、同じく困惑する看護師、彼女の残したなんとも言えぬ空気のみが残った。
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