私、魔法少女のマネージャー〜世界を救う正義のお仕事。影ながらお手伝いをさせてもらいます〜

神伊 咲児

第1話 魔法少女になって欲しい

「あーー。悪いな。これからみんなでカラオケなんだ。お前も良かったらどうだ?」


 それは幼馴染の男の子、響 奏也そうやの言葉だった。

 彼は中学2年生。私より1年先輩なのだけど、幼稚園の頃から仲が良いので、お互い呼び捨てにしている仲だ。


 小学生の時も仲が良かった。何かと一緒に行動したものだ。

 親同士の付き合いもあって、連休を使って海水浴に行ったり、山でバーベキューをしたっけ。


 彼は背が高くてスポーツ万能。所謂イケメンというヤツで、そんな子と仲が良いものだから、クラスメイトからはよく羨ましがられた。


 そんな彼と幼馴染だったのは、なんの取り柄のない自分にとって、細やかな自慢だったのだ。


 きっと、中学でも同じように、私たちは仲が良くて、私は周囲に羨ましがられるのだろう。そう思っていた。


 そう思っていたのに……。


 中学生になって驚いた。


 彼は、イケメンの、その要素は十分に持っていたのだけれど、それが中学になると、ビックリするくらいに開花していて……。

 身長は170センチ後半はあるだろうか。長くスラリとした脚。体型はまるでモデルかアイドル歌手のようで。顔なんかとても端正。キリリとした眉に、高い鼻。目をぱっちり二重で、澄んだ瞳をしている。それに加えて、性格は私とは真逆の陽気で気さくな人柄だ。

 そんな男の子を周りの女子が放っておくわけもなく。それはもうワイワイキャアキャアと。呼んでもいないのに次から次に湧いてくる。3年生の先輩だって、奏也に笑顔を振りまく始末だ。それに、同性にだって大人気。

 陰気な私なんかが彼に近寄る隙はなく。彼の周りにはリア充という見えない壁に囲まれていてるのだった。うう、近寄れない……。

 それでも昔みたいにさ。気軽に一緒に帰れれば良かったんだけどね。丁重に断られた、ということだ。


 まぁ、正確にはカラオケに誘われたのだけれど。何人と行くつもりなのだろう? 少なくとも6人以上はいるだろうか。そんな大人数でカラオケなんて、オタ気質な私ができるわけもなく。知っている歌といえばアニソンオンリーで、そんなことは奏也は知っているので、だから、ヘラヘラと笑って、申し訳なさそうに詫びたのである。


 ああ、虚しい。

 カッコイイ友達の男の子。そんな子が私の幼馴染。それが私のたった1つの自慢だったのに。

 他力本願な自慢をしていたツケが返って来たのかもしれないな。


 でもさ。今季に始まったアニメの話とかさ。奏也と話したかったのに。あんなに周囲に女の子がいたんじゃ、話せやしない。

 良いもんね。新作の漫画を貸してあげないから。私は本が好きで、少年漫画もよく読む。彼には新作の漫画をよく貸してあげたもんだ。だから、貸さないよ、なんて拗ねたら、「悪かったよ。機嫌なおせって」と謝ってきたもんだ。


 ああ、でも、もうそんな関係じゃないのか。

 漫画の貸し借りで一喜一憂していた、あんなに楽しい仲だったのにさ。


 私は真寺野まじの 穂沙ほさ

 13歳の中学1年生。

 眼鏡をかけた、本好きの冴えない女の子だ。


 中学生になって、みんなは部活をやったりしているけど、私は迷わず帰宅部を選んだ。体を動かすのはちょっとね。家でゆっくりとしてる方が私らしい。運動なんて柄じゃないんだ。


 夏休みが終わって2学期が始まると、教室には異様な空気が流れていた。


 〇〇と〇〇、付き合ってるらしいよ。

 などという噂がチラホラと聞こえて来るのだ。小学生の時より格段に進んでいる。


 ああ、私は色恋沙汰には無縁の生き物だからな。読書でもして楽しんでいればいいだろう。


 中学校には図書室があって、色々な本が読めて嬉しい。文字数がボリュームのある本は借りてから家に持って帰る。今は、その本を読むことが、私にとって細やかな楽しい時間となっていた。


 読書に熱中すると、時間が過ぎるのが早い。夕食を食べてから何時間か経ったろう。時計を見ると11時を回っていた。


「ああ、もう寝なきゃな」


 そんな時だ。

 窓から見える夜空に、一筋の光が見えた。


「うわ! 流れ星だ! ラッキー!」


 などと、喜んでいると、その光は私の部屋へと入って来た。


「ええええええ!?」


 窓をすり抜けて私の部屋へと入る。


 どういうこと!?


ベチャン!


 と、何かが壁にぶつかった。


 それは真っ白いぬいぐるみ。


 犬? 猫? 狸かな?

 よくわからないけど、モフモフの人形だ。


「なんでこんな物が空から入って来たんだ?」


 しかも壁をすり抜けてさ。


 と、触ろうとした瞬間である。


「こんにちはポン!」


「は……?」


「僕の名前はポンニャンだポン!」


「喋ったぁあ!?」


「えーーと? 君は地球人だポン?」


「な、な、なんで、ぬいぐるみが喋ってるの??」


「僕はぬいぐるみじゃないポンよ! ポンニャーラ星からやって来たポンニャンだポン!」


「えええええええええ!?」


 う、う、


「宇宙人なの!?」


「自律支援型ロボットだポン」


「へ、へぇ……」


 よくわからないけどロボットなんだね。


「僕は地球人の味方だポン。みんなを助けに来たポン」


 助けに来た?


「何から私たちを助けるの? 別に日本は平和だよ?」


「宇宙犯罪獣コワルバーがこの星に逃げているという情報が入ったポンよ。僕はそいつを捕まえるために来たんだポン」


 宇宙犯罪獣コワルバー……。

 犯罪をする獣ってことかな?


「なんか物騒だね」


「うん。体長5メートルを超えるモンスターだポン。地球人を餌にするんだポン」


「怖っ!!」


「だから、犠牲者が出る前に捕まえないといけないポン」


「じゃあ君は警察なのかな?」


「正式には、宇宙銀河パトロール魔法少女部隊だポン」


「なんか凄っ!」


「宇宙犯罪獣の逮捕を専門に扱っている部隊だポン」


「へぇ……」


「それで、捜査には現地の協力者が必要なんだポン。適性者をマザーコンピュータが見つけ出して、君の家に来たんだポン」


「えと……。どういうこと?」


「君は適正者なんだポン!」


「なんの?」


「魔法少女だポン!」


 はいい!?


「このスタータクトを使えば、魔法少女スターブラックに 変身お着替えデコチュールできるポン!」


 そう言って星型のアクセサリーが付いた指揮棒を見せた。

 おそらく、これが彼の言うスタータクトなのだろう。

 これを使って、魔法少女に、


「で、でこ、なんだっけ?」


変身お着替えデコチュールポン!」


「何それ?」


「0.3秒で君の衣服を分子レベルで再構築。特殊な衣装に変身させることだポンよ」


「わ、私が……。魔法少女になるってこと?」


「そうだポン! ミニスカートの可愛い衣装だポンよ! 女の子に大人気ポン!」


 いやいやいや。


「なんでモンスターと戦うのに可愛い衣装を着る必要があるのよ?」


「見た目は可愛くても性能は宇宙一だポン! 最強の身体能力。鋼の防御力を兼ね備えているポン!」


「へ、へぇ……」


 でも、だからってミニスカートの可愛い衣装でモンスターと戦う意味はわからないけどね。それに私はアニメ好きだけどさ、魔法少女より恋愛系が好きなんだ……。


「君は適任者として選ばれたポン! 魔法少女になって欲しいポン!」


 と、言われても柄じゃないんだよね。

 それに面倒臭そうだし。


「お断りします」


「えええええええええポン!?」



──

公募用作品です。

全4話。

12000文字程度。

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