たがためにひかる

硝水

第1話

「わたし、死んだらダイヤモンドになりたいの」

 大きくなったらお花屋さんになりたいの、と同じトーンで彼女は言った。そのための貯金もしている。だから今日は、せっかくの休みなのにどこにも行けなくてごめんね、まで一息で。

「ダイヤモンド好きだっけ」

「ううん」

 洗いたてのTシャツの裾をもじもじと弄びながら、つむじが揺れる。艶やかな黒髪が胸許を滑り落ちる。

「ならなきゃいけないの?」

「ならなくてもいい、でも、なったほうが都合がいい」

 ああそうだろうな、と思った。人気のサロンで完全おまかせの彼女の爪は普遍的に輝いていて、その指先は時に自らの皮膚を切り裂く。

「わたし、わたしじゃなくなりたいの」

 ダイヤモンドになって、炭素の塊になって、みんなが美しいと認める揺るぎない価値に。そうじゃないからこそって僕は、言えないままでいる。

「ダイヤモンドは嫌いだな」

 彼女が一生、いや死んでからもずっと、自信なんかつけなきゃいいのに、そうすればずっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

たがためにひかる 硝水 @yata3desu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ