第88話 牽制(2)

 ハンター協会での他ギルドからの妨害現場を押さえた俺は、相手の那古野なごやギルドのギルドホームへ向かう。


 外に待機していた車に乗り込む。

 茅森さんと流石くんにも来てもらう。


 車に乗るなり、女のハンターが口を開く。


「あんた、馬鹿な真似はやめて、私たちを解放した方がいいよ」


 もう男のハンターは何も話さない。言っても無駄だと思ったのだろう。


「うちのギルドマスターとか相手にしたら、すぐ倒されちゃうよ」


「そうなるなら、それでも構わないですけどね」


「へっ?」

 俺の返答が予想外だったのか女は間抜けな声を出す。


 車が協会を出発してから、20分ほどで停車する。那古野ギルドのギルドホームへ着いたようだ。


 そこは小さな雑居ビルだった。


 俺は男たちを連れて、車を降り、ギルドホームの中に入る。


 中に入ると、すぐに声が掛かる。


「どちら様で?」

 受付の女性が気怠そうに話す。


「ライズギルドの九条が来たとギルドマスターに言ってください」


 女性は俺が九条だとわかると驚いたのか直ぐに電話をかける。ハンターの女も驚いている。

「もうすぐギルドマスターが降りてきますので、少々お待ちください」


 数分して、男性が上の階から降りてきた。


「こんにちは。ギルドマスターの佐原です。本日はどのようなご要件で?」

 笑顔で話しているが、焦っている印象を受ける。


「うちのメンバーがこちらのハンター3人から嫌がらせを受けたので、少し伺わせてもらいました」


 佐原は後ろの男たちをみると、一瞬顔が引き攣った。


「そうですか。ただハンター同士のいざこざなんて日常茶飯事じゃないですか?

 いちいちギルドマスターを訪ねられても困ってしまいますねー」


 無理やり有耶無耶にしようとしてるのかな。


「そちらから謝罪の意思はないということですかね?」


「まず本当に嫌がらせがあったのかも分かりませんしね」


「ここに証拠の動画があります。

まだしらを切りますか?」


 動画というキーワードが効いたのか、佐原は明らかに狼狽し始めた。


「…少し話し合いませんか?」

 佐原はこの期に及んで、話せばどうにかなると思っているらしい。


「謝罪を受けてからですね。話し合いはその後です」


 佐原はうぅっと唸っている。

 というかギルドマスターって強いんじゃなかったのか?

 見た感じ強くなさそうだけど。


「…お前達、謝罪しろ」

 佐原は折れたようだな。


「えっ、だってギルドマスターが」

 女のハンターが何か言おうとした所、周りの男たちが女の口を押える。


 ハンター3人が茅森さん、流石さんの前に立つ。


「すいませんでした」

 頭を下げる。


「2人はこれでいい?」


「僕は大丈夫です」

「私もいいです」


「2人がいいなら、これでいいですよ。

じゃあこちらは帰りますので」


 俺の言葉を聞いて、佐原は驚いている。

 もっと厳しい要求をさせられると思ったのだろう。


「まぁ、次はないですけどね。覚えておいてくださいね」

 俺がそう言うと佐原は何度も頷いた。


 俺たちは外に出ると、車に乗り込みライズギルドのギルドホームへ戻る。


「想像よりあっさりしてました」

 茅森さんが感想を言う。


「もっと、色々やると思ってた?」


「はい、正直相手のギルドホームへ行くなんてちょっと怖かったです」


「そうだよね、ごめんね。付き合わせちゃって」


「いえ、解決できたのは良かったですし、ああいった経験もなかなか出来ないので貴重だと思いました」


 そう思ってもらえたなら良かった。


 とにかくこれで月夜見ギルドへ少しは牽制になったと思う。


 まだやってくるようなら、とことん付き合うけど、まぁないだろうな。


 ここからは、またギルドメンバーの補強や育成に邁進まいしんしていこうと思う。

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