第86話 誕生日パーティー

 6月。小雨が降る中、高校からギルドホームへ向かって歩いていると、民家の庭に紫陽花あじさいが咲いているのがふと見えた。


 紫陽花か。母さんが好きだったなぁ。


 6月~7月は紫陽花を色んなところで見るので少し心がチクッとする季節だ。


「あっ、紫陽花綺麗だね~」

 亜希さんが紫陽花を見て言った。


 さっき心に刺さったとげがスっと抜けた気がした。


「そうだね、紫陽花はさ、母さんが好きだったんだ」


「そうなんだね、綺麗だからね」

 亜希さんはそう言いながら微笑む。


 去年までは紫陽花を見るのが少し億劫だったが、今年は亜希さんが隣に居てくれたのでそんな気持ちにならずに済みそうだ。


「そういえば今度の土曜日って蓮くんの誕生日だよね?」


「そうだよ」


「皆で誕生日パーティーしようよって言ってるんだけど、どうかな?」


「嬉しいな、ありがとう」


「じゃあいつもどおり、ギルドホームでというか蓮くんのおうちね」


 誕生日パーティーか、両親が居た時はやってくれていたな。懐かしいな。


 俺は週末が楽しみになる。




 ○


 土曜日になる。

 誕生日パーティーは午後からなので、午前は少し体を動かそうと思う。


 ギルドホームに天霧くんが来ていたので声を掛ける。


「天霧くん、おはよう。少しダンジョン探索でもしないかな?」


「九条先輩、おはようございます!

 行きたいです!あと、誕生日おめでとうございます」


「ありがとう」


 よし、じゃあ行くかな。

 俺たちはライズダンジョンにはいり、下層へ進んでいく。



 地下7階へ到着する。ここまでくる間に結構な数のハンターをみた。ライズダンジョンは今日も盛況なようだ。


 地下7階に到着する。すぐにサンドワームが出てくる。


 天霧くんがすぐに近づき、攻撃を仕掛けていく。的確にサンドワームを追い詰めていく。俺も攻撃を加えていく。ほどなくしてサンドワームを倒した。


 倒した後に天霧くんに聞いてみる。


「この前サンドワームを茅森さんと流石くん2人で倒したよ」


「そうなんですか?凄いですね。あの2人って初心者でしたよね?」


「そうなんだよ。流石くんがアーチャーとして覚醒した感じで、茅森さんもそれにまけずについていった感じかな」


「これは負けてられないですね。僕ももっと頑張らないと追い抜かれちゃうな」


「俺も負けないように鍛えないとな。

 やっぱり、下からの突き上げがあるとやる気が出るね」


 そんな感じで話しつつサンドワームを倒し、さらに下へ向かう。地下9階のトレントキングを倒して、地上へ戻ろう。


 地下9階へおり、下への階段を目指す。そこにトレントキングがいる。


 途中出てくるトレントは天霧くんの剣術ですぐに倒れていく。


 天霧くんの剣術も鋭くなってきてるな。


 進んでいくと大木が見えてきた。

 俺たちはすぐさま攻撃を仕掛けていく。


 俺がファイヤーストームを放つとトレントキングが怒り出す。


 大量の木の実を飛ばしてくるが、今の俺たちに通用する攻撃ではない。


 俺も天霧くんも木の実を避けて、トレントキングに近づいていき、剣で切りつけていく。

 トレントキングにじわじわダメージが蓄積されていく。


 だんだんと反応が鈍くなり、対応が楽になる。


「もう少しで倒せそうだね。天霧くん、最後いく?」


「先輩いっちゃってください!」


 最後、俺はファイヤーソードで胴体を切り裂く。そしてトレントキングは絶命した。


「やっぱりファイヤーソードの威力は凄いですね!」


 俺たちは目標のトレントキングを倒したので地上へ戻る。


 帰り道は最近起こったことなど色々な話をしながら歩く。


「誕生日パーティー楽しみですね」


「そうだね、久しぶりに誕生日パーティーなんてやってもらうから、不思議な感じだよ」


「九条先輩は皆から慕われてますからね。

 そりゃ開かれますよー」


 そう話していると地上へ着いた。ちょうどお昼くらいだ。


 そこからは天霧くんと軽くご飯を食べて、コーヒーを飲みつつ休憩していると皆が集まってきた。


「蓮くん、こんにちは。お誕生日おめでとう」

 かれんさんが来たようだ。


「ありがとう、かれんさん」


 その後も来た皆がおめでとうと言ってくれた。メンバーの殆どが来てくれている。


 皆が準備をし始めるとすぐ部屋の雰囲気が変わっていく。


 準備が終わり、パーティーが始まる。


「はい、では九条先輩の誕生日パーティーを始めたいと思いまーす!

 司会はわたくし小鳥遊たかなし宝条ほうじょうが務めます。よろしくお願いします」


「よ、よろしくお願いします」


 小鳥遊さん、こういうとき人が変わるな。

 普段とのギャップが激しい。


 瑠衣さんは小鳥遊さんに誘われたのかな。司会とかやるイメージがないな。


 会が進行していく。メンバーから普段の俺に対して思っていることとかが話される。


「蓮くんは、いつもギルドの皆のために考えて行動してるのが凄いと思っています。

 ただ、無理はしないで欲しいです」


 亜希さんからのコメントだ。嬉しいな。

 亜希さんからのプレゼントは傘だった。新しいのが欲しかったんだよな。


 他の人からも褒められ、プレゼントを貰う。皆の誕生日にお返ししないとな。


「私は蓮くんに助けてもらって、ライズギルドに加入出来ました。

 あのままの生活をしていたらと思うとゾッとします。

 本当に蓮くんは人のために何かできる人だと思います。私も亜希ちゃんと同じで無理はしないで欲しいなと思っています」


 瑠衣さんからだ。あの状況なら俺じゃなくても助けたと思うけどな。そう言ってもらえるのは嬉しいな。

 プレゼントはコーヒーカップだった。大切に使わせてもらおう。


 出席者の皆から褒められてお腹いっぱいなっているところで、双葉さんのお手製のチーズケーキが出てくる。

 切り分けて皆で食べる。うん、とっても美味しい。


「じゃあそろそろ終わりの時間となります。最後に我らがギルドマスター九条蓮から一言貰いましょう」


 あはは、小鳥遊さんキレキレだな。


「今日は本当にありがとうござました。

 久々に人に誕生日を祝ってもらって凄い嬉しかったです。

 まだギルド設立してから1年も経っていないけれど、皆大切な仲間です。

 これからも皆のためにギルドを運営していきたいと思うので、皆また力をかしてください!今日はありがとうござました」


 皆から拍手をもらう。


 本当に去年からは考えられないほど幸せだと思う。

 皆の為にも、もっと頑張っていこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る