第81話 アイビスギルドとの交渉

 アイビスギルドとの話し合いの日になった。


 俺は宝条さん、剛力さんと合流し、剛力さんの事務所の車でアイビスギルドへと向かう。


 一応、剛力先生の秘書という設定なので、スーツを着ている。慣れないなぁ。


「宝条さん、緊張してますか?」

 俺は宝条さんに声を掛ける。


「正直少ししてますね」


「大丈夫ですよ、剛力先生はこう見えてあの政治家の黒田先生の弁護士でもありますからね。ねっ、剛力先生」


「ハハ、この状況は負けることはないと思うよ。ただ向こうが我を忘れたりすると困ってしまうがね。その時は九条くんにお任せするよ」


 少しだけ宝条さんの顔に余裕が戻ってきた。


 そんな話しをしつつ過ごしていると、アイビスギルドのギルドホームへ到着する。


 建物に入り、受付に用件を伝えると、応接室へ通される。かなり広い部屋だな。


 中に入り、10分ほどで男性が3人入ってくる。1人が椅子に座り、残りの2人は後ろに控える。


 俺は小さな声で宝条さんに確認する。

「椅子に座ったのが、ギルドマスターですよね?後ろの2人は分かります?」


「そうです、座ったのがギルドマスターです。後ろの2人は数少ないB級ハンターです。どうして2人が同席するんでしょうか?」


 確かに、何か変だな。


 話し合いが始まり、自己紹介を行う。

 ギルドマスターの木下というらしい。


 剛力さんが宝条さんが受けている嫌がらせについて話し、ギルドからの脱退を要求する。


「成程、そちらの言い分は分かりました。

 だが、本当に宝条は脱退したがっているんですかね?

 実は私と宝条は付き合ってましてね、いま少し喧嘩をしてしまっているんです。

 瑠衣、少し喧嘩しただけで人様を巻き込んではダメだよ。謝るから機嫌を治しておくれ」


 木下は支離滅裂なことを言い出した。

 もうだいぶ拗れてしまっているようだ。


「違います!付き合ってなんかいません!!」


 宝条さんがすぐに否定する。


「話になりませんね。では、法廷で争いますか?」


 剛力さんは話し合いにならないと悟り、裁判で争うことに方針を変えたようだ。


「法廷は少し困りますね。

 そうだ、良い方法を思い浮かびました!

 貴方達がいなくなればいいんですよ!!」


「あなたは自分が何を言っているのか分かっているんですか?」


 剛力先生も不味いと思い始めたようだ。


「分かってますよ。おい、やってしまえ!

 宝条は生かしておけよ」


 後ろのB級ハンター2人が飛び出してくる。2人とも剣士タイプのようだ。

 俺は指輪に魔力を通し、亜空間から剣と盾を取り出し、剛力さんとの間に立つ。

 相手を牽制しつつ、宝条さんにも剣と盾を渡す。


「宝条さん、部屋の中で剛力さんの近くにいてください」


 宝条さんは頷き、剛力さんを連れ、少し後ろに下がる。


 俺は狭い部屋を利用しつつ、後ろの2人を守る。

 簡単に制圧できると思っていた相手2人が焦って突っ込んでくる。

 俺は2人にファイヤーボールを放つ。

 避けたら部屋が燃えると思ったようで、2人とも火の玉を受け止める。

 その隙に手前の1人にファイヤーソードを唱え、剣で斬り掛かる。

 相手の盾ごと切り裂いた。俺は首筋に剣を立てつつ、もう1人を牽制する。


「動いたらどうなるかわかりますよね?」


 そう言うと二人とも武器を下に置いた。


 一連の流れを見ていた木下は顔面蒼白だ。

 部屋から逃げようとする。


「それは美しくないな」

 木下はドアを開けた瞬間ヒデキに捕まった。


 木下とB級ハンター2人を警察へ引き渡すため、縄で縛る。B級ハンターの方はハンター専用の魔力が通った縄だ。


「ナイスタイミングだったね、ヒデキ」


「電話で状況が分かっていたからね、簡単なことだよ」


 俺は携帯をヒデキと通話状態にしておき、ヒデキにはすぐ駆けつけられる場所に待機してもらっていた。


「保険のつもりだったけど、頼んでおいて正解だったね」


「掛けて損にならない保険なら掛けるべきだろうね」


 俺たちは話しながら警察が来るまで時間を潰す。


 宝条さんが近づいてくる。


「あの、本当にありがとうございました!!

 なんてお礼を言ったらいいか…」


「問題ないですよ。これからはライズギルドで頑張ってくれればそれでいいです。

 一緒に頑張りましょうね」


「はい!九条さん!」


 元気になってくれたようだ、良かった。


「ほー、こうやって虜を増やしていくんだね。無自覚なのがまた恐ろしい」

 何かヒデキが呟いていた。


 警察がきて、事情を説明し俺たちはギルドホームへ戻った。


 あとは剛力さんにお任せした。


 ○


 後日、宝条さんはアイビスギルドから無事脱退できた。


 俺は剛力さんの事務所を訪れてお礼をしていた。


「本当に助かりました。ありがとうございました」


「いやいや、黒田先生から紹介された有望株だからね。仲良くさせてもらうよ」


「前言っていた専属契約の件ですが、お願いできますか?」


「勿論だよ。ありがとうね」


 こうして俺たちはビジネスパートナーとなった。


 今後の計画を考えると剛力さんに頼ることも多そうだ。信頼関係を築いていかないとな。


 ○


 今日は、宝条さんがライズギルドと契約をするためにギルドホームへやってくる。


 会議室で待っていると、ひなたさんと小鳥遊さんに声を掛けられる。


 最近この2人はよく一緒にいる。小鳥遊さんがひなたさんと同じ大学に入ったからだ。


「この辺でハンター志望が入る大学って一つくらいなのよねー」

と小鳥遊さんが言っていたのを思い出す。

その大学にスカウトに行くのもありだな。


「九条くん、また女の子が入るみたいね」

「あなた、また引っ掛けたの?」


 酷い言われ様だ。


「たまたま女性だっただけですよ」


「本当に~?」

 2人からジト目で見られるが本当なのだから仕方ない。


「九条くん、お客様がいらしたわよ」

 受付の瑞希さんから声が掛かる。


「ありがとうございます、ここに通してもらえますか」


「わかったわ」


 少しして、宝条さんが現れると、そこにいたひなたさん達が反応する。


「嘘!?新加入って瑠衣だったの?」

「宝条先輩いつの間に!?」


「あれ?2人もライズギルドだったんですね!

 よろしくお願いします」


 ひなたさんが近づいてくる。

「本当に綺麗な子を掴まえてるじゃない!?

 しかも瑠衣!?うちの大学でもトップクラスよ!どうやって口説いたの?」


 俺はスカウトの経緯を説明する。


「そうだったの?瑠衣、困ってたなら言ってくれれば良かったのに」


「ごめんなさい、先輩に迷惑掛けたくなくて…」


「まぁまぁ、終わったことですし。これから仲間として仲良くやっていきましょう!」


「はー、それもそうね。瑠衣よろしくね!」

「宝条先輩、よろしくお願いします!」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 そこから宝条さんの契約作業を行い、問題なく完了し、これでライズギルドに正式加入となった。


「これからよろしくお願いします、九条くん」


「こちらこそ、よろしくお願いしますね。宝条さん」


「宝条って呼ばれるのあまり好きではないから、瑠衣って呼んでくれると嬉しいな」


「そうなんですか?じゃあ、瑠衣さんで」


 そのあと顔を赤くした瑠衣さんがひなたさんと小鳥遊さんに連行されていった。

 またギルドが賑やかになるな。


 瑠衣さんの加入でまた一つ目標に近づけたと思う。もっと仲間を増やしていきたい。

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