第52話 B級昇級 模擬戦(2)

 時間となったため、俺は闘技台に上がる。


 前島は先に闘技台に上がっており、装備を見る。剣と盾を持っており、情報の通り剣士タイプのようだ。


 前島と対峙すると、少なくともB級以上の実力はあるのではと感じる。八雲さんよりは幾分か実力は下な気がする。

 ただ、俺は全力で相手を倒すだけだ。


「素直に浜島さんの話しを聞けばいいものを。馬鹿なやつだな」

 前島がそんなことを言う。


 俺はそんな言葉を無視して試合開始を待つ。


「チッ、気に食わない餓鬼だ。すぐに痛めつけてやるぜ」


 闘技台に審判が上がってくる。

 審判はハンター協会の方が担当する。

 前島は審判をみて、一瞬ニヤついた。

 何だ?もしかして審判まで手を回してある感のか?

 直接なにか出来るとは思わないが、注意しておこう。


 試合開始の合図のあと、俺は相手の出方を伺う。

 特に動きは無かったため、俺から仕掛ける。

 接近戦に持ち込んで剣術勝負といくか。

 前島は広範囲の水魔法で接近を阻もうとしてくる。しかし、以前同じ魔法を見たことがある俺はそれを避けていく。


 前島は驚いた顔をして慌てて距離を取ろうとする。

 遅い、もう俺の剣の間合いに入っている。

 俺は剣を振り下ろす。前島は盾で何とか防ぐ。俺は剣で追撃をしていき、じわじわと追い詰める。接近戦は勝てる。

 このまま押し切ってやる!そう決めた俺は更に攻め立てる。

 連撃に前島は堪らず後退する。

「チッ、予想以上に強いな。仕方ない」

 前島はそう言うと、俺の攻撃に対し、盾で防御した際に、口に何かを入れた。


 次の瞬間、前島の体が少しだけ膨らんだ気がする。身体能力を向上するアイテムでも使ったのか?

 間髪入れずに剣での攻撃が俺を襲う。

 早い!!俺はギリギリ盾で防御することができた。


「審判!!いまアイテムを使いましたよ!」


 俺は審判に抗議する。

 だが、審判は見ていない、スキルを使ったみたいだ、と言い相手にしてくれない。

 やはり審判もグルだったのか。

 周りをみると、浜島がニヤついているのが目に入った。

 どこまで腐った連中なんだ!絶対に思い通りにはさせない!!


 俺はファイヤーソードとファイヤーシールドを唱え、全力を出す。


 素早さは相手の方が少しだけ上だが、攻撃力はこちらの方に分がある。


 前島は俺の攻撃を躱す度に神経がすり減っているはずだ。それにアイテムの効果もずっとでは無い。焦っているのは向こうだ。


 攻防を繰り返す度に前島に焦りがうまれてきているように感じる。


 そろそろ、アイテムの効果が切れるのか?前島の余裕のなさをみるとそう思えた。逆に俺には余裕がうまれていた。


 俺は相手を徹底的に潰すために魔法攻撃を仕掛ける。

 八雲さんのことだ、待機しているヒーラーも優秀だろう。

 俺はファイヤーストームを唱える。前島を炎の柱が襲う。

 前島はギリギリで避けることができた。


「助かった…」

 前島の口から安堵の言葉が零れる。俺は再度ファイヤーストームを敢えて少しだけ狙いをずらして放つ。

 前島はまたギリギリで避けることができた。

 前島の顔が恐怖に歪む。

「これ以上はやめてくれ、頼む!!」

 前島は叫ぶ。


「何を言っているんですか?俺を痛めつけるって言ってたじゃないですか」


 審判は前島を棄権させて良いのか判断が出来ず、浜島をみている。


 俺はファイヤーボールとウインドカッターを前島に放つ。前島を火の玉と風の衝撃波が襲う。

「うわっ、やめてくれ!浜島さん、助けてくれ!コイツは強すぎる、化け物だ!!

 散々アンタの頼みを聞いてきただろ?助けてくれ!!」

 死の恐怖から、前島は浜島に助けを求める。


 すぐさま八雲さんが浜島に問い質す。

「浜島くん、どういうことかな?

 詳しく話しを聞かせてもらうよ」

 そう言うと、協会所属のハンターが現れる。そして、雷光放送の三橋さんとカメラマンが現れ、カメラマンは手にカメラを持っている。


「なっ、何をしているんだ!!こんなことをして良いとおもっているのか!?」


 実は事前に八雲さんに許可を得て、この模擬戦全体を動画撮影していたのだ。

 三橋さんに話しを持っていった際に、すぐに会議に掛けてくれGOサインが出た。

 この後超特急で編集作業が行われ、配信される予定だ。


 浜島は喚いているが、構わずハンターは連れていく。


 これをみて審判は前島の棄権を認め、俺の勝ちとなった。審判はカメラを見て青ざめている。


 闘技台からおりた俺をギルドの皆が囲む。

 皆おめでとうと言ってくれる。ここもカメラが撮っている。恥ずかしいな。


 八雲さんが近づいてきて、

「九条くん、B級昇級おめでとう。そして、ありがとう。これでこの支部をもっと良い組織にしていくことが出来る」


 今回の動画が配信されると八雲さんにも避非難がいく可能性が高い。それでも八雲さんは許可してくれた。注目度を高くすることでハンター協会を改革しやすくするためだ。


「お役に立てて良かったです。これからもよろしくお願いします」

 俺はそう言って八雲さんと握手をする。


 アビスギルドの方はというと、前島はギルドメンバーから白い目で見られている。

 今までは問題を起こしても浜島が揉み消してきただろうが、その後ろ盾は無くなった。あのギルドはもうおしまいだな。

 俺の中でアビスギルドへの興味は無くなった。あとは八雲さんがうまく処理をしてくれるだろう。


 その後はハンターライセンスを更新し、晴れてB級ハンターとなった。いま高校生でB級ハンターは俺だけみたいだ。少しだけ誇らしい気持ちになった。


 夜はギルドホームで祝勝会を行った。

 料理は双葉さんが腕によりをかけて作ってくれた。

 メンバー皆で料理に舌づつみをしながら、最近のことを振り返った。


 ひなたさん、双葉さん3人でギルド結成してから、まだ数ヶ月だが様々なことを進めてきたし、今も進めている。

 メンバーも増え、やれることも増えてきた。皆がギルドの成長とともに自らの成長を実感していると思う。

 ライズギルドはこれからも成長するし、俺自身も成長したい。そして、やらなければならないことがある。その為にまだまだ頑張っていきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る