第33話 高校生ハンター競技会 全国大会(2)

 無事、決勝トーナメントに進出した俺と高槻さんは昼食を食べに会場近くのファミレスに来ている。


 そこで定食を食べつつ、予選の話などをしていた。


 高槻さんは聞いてこないけど、心配してくれているのが態度からわかる。


「心配しなくても大丈夫だよ、もう落ち着いてるから」


 俺たちはファミレスを出て、近くを流れる川を見ながら少し歩く。


「午前に話した男性は俺の父親の弟なんだ。両親が亡くなって、落ち込んでいた俺の面倒をみてくれて。そして、叔父さんの娘が美優なんだ。

 少しの間、こっちに住んでいたけど、やっぱり実家が恋しくなった俺は1人で実家に戻って。そこからもたまに会ってはいたんだけど

 最近は疎遠になってたんだ」


「そうなんだ」


 高槻さんは静かに聞いてくれる。


「叔父さんをみて、昔のことが一気に甦ってきて、ちょっとナーバスになったみたい」


 そういった瞬間に高槻さんに抱きしめられていた。


「ちょっ、高槻さん!?」


「辛かったら、私を頼っていいんだよ」


 彼女はそう言って、抱きしめる力を強くした。


 俺は彼女の優しさに甘えた。


「ありがとう…」


 俺たちは少しの間そのままの体勢でいた。


 心が落ち着くのを感じる。


 そして、どちらともなく離れた。


 お互いに顔が真っ赤だ。


「高槻さん、ありがとう」


 俺の気持ちは落ち着いていた。


「ううん、私もいつも九条くんに助けられているから」


 そう言って高槻さんは微笑む。綺麗だ。


「よし、午後から頑張って明日に繋げないとね」


 俺はそう言って会場の方へ歩き出す。


 高槻さんも後ろから着いてくる。


 会場につき、決勝トーナメントの組み合わせを確認する。


 高槻さんとは別トーナメントだ。


「九条くんとは反対側。九条美優さんはこっちの組にいるわ。次は負けない」


 高槻さんが珍しく闘志を露わにする。


 1回戦が始まる。


 俺の相手は槍と大盾を持つタンカーの3年生男子のようだ。


 試合開始の合図とともに相手が駆け出し、こちらに突進してくる。


 槍での強烈な突きが俺を襲う。


 俺は冷静に盾で受け止める。


 次の瞬間、盾を通じて電撃が俺を襲った。


 さすが全国大会、強い相手がいるな。


 俺は一旦距離をとる。


 あまり近づくと同じことをやられるな。


 魔法主体でいくことにする。


 俺はファイヤーボールを放つ。


 相手は盾で受け止める。


 俺は間髪入れずウインドカッターを放ち相手を足止めする。


 ファイヤーストームを放とうとするが、寸前で止める。


 あれは威力があり過ぎて、もしかしたら即死の可能性もある。


 さすがに放つのは、躊躇われる。


 俺は結局剣術で圧倒することにする。


 まずは相手に近づき、剣を振り下ろす。


 相手が大盾で防御する。


 反撃の糸口を与えないように連続で斬撃を与える。


 相手が防御に必死になっている隙に横に回り込み、首筋に剣を置く。


「まいった」


 ふぅ、勝てた。


 もう少し粘られたら面倒だったな。


 高槻さんはさくっと勝っていた。


 2時間ほど間が空いて2回戦が始まる。


 次の相手は火と水の2系統を使いこなす魔法使いの3年生の女子だ。


 いかに接近戦に持ち込めるかだけどうまくいくかな。


 ダメなら魔法で応戦するかだけど。


 試合が始まる。


 相手は開始早々に火の矢を数発放ってきた。


 俺は落ち着いて避けつつ、相手の様子を伺う。


 とりあえずウインドカッターで応戦するか。


 相手もちょっとステップが怪しいが避けた。

 

 俺は一応近づけるか試してみる。


 俺が近づこうとすると、相手は広範囲の水魔法で応戦してくる。


 ぎりぎり避けられるか?俺は何とか水魔法を避ける。


「なっ!?」


 相手が驚きの声をあげる。


 広範囲の水魔法が避けられると思わなかったようだ。


 俺は避けつつウインドカッターを放ち、相手に近づく。


 そして、剣を相手の首筋にあてがうと相手が降参したため試合終了だ。


 よし、これで明日に繋がった。


 俺は高槻さんの試合の様子を見に行く。


 高槻さんの相手はタンカータイプのようだ。


 相手の鉄壁の守備を崩しかねている感じだ。


 魔法も決定打にはならないみたいだ。


 高槻さんは少し考えると、魔法を唱える。


 高槻さんの剣からたちまち冷気が漂い始め、刀身が凍ったようになる。


 アイスソードか。


 これが高槻さんの奥の手だな。


 高槻さんは相手に近づき、剣を振り下ろす。


 相手は盾で防御するが、接触した箇所から凍っていく。


 相手の盾が凍ってしまって持てない。


 盾を失った相手は高槻さんの連撃に為す術なく敗れた。


 こんな奥の手を持ってたなんて。


 やっぱり高槻さんは強い。


 俺が戻ってきた高槻さんと話していると1人の女子が近づいてきた。


 懐かしい顔だ。


「蓮!」


「美優、久しぶりだね」


「高槻さんの試合を観戦してたら、蓮を見つけてびっくりしちゃった」


「最近実家にダンジョンが出来てね、ハンターになったんだ。俺も地区代表なんだ」


 俺はそう事情を説明する。


「そうなんだね、蓮もハンターになったんだ…」


 美優は少し複雑な表情になる。


「もしかして、まだあの事故のことを…」


「美優、その話しはやめよう。いまは競技会に集中したいんだ」


 俺は静かに言う。


「ごめんなさい。そうね、いまは競技会に集中しないとね」


 そう言うと美優は離れていった。


 その後俺と高槻さんは予約していた旅館に向かい、戦いの疲れを癒した。


 旅館で浴衣に着替え、ゆっくりしていた。


 今日は色んな出来事があったな。


 この競技会が終わったら美優と話すかな。


 まずは明日優勝する。

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