第17話 部活への勧誘

 高校のクラス担任にハンターになったことを皆に知らされてから、少し周りからの接し方に変化があった。


 露骨に避けるやつは減り、話しかけたそうなやつもいる。


 鮫島とのやり取りで引かなかったことが良い方向に行ったみたいだ。


 いまのところ鮫島は大人しいが、別のことで困っている。


 高校のダンジョン探索部からの勧誘だ。


 ハンターやハンター志望の人が集まっている20名ほどの部活らしい。


 部活としては、こんど俺も参加する高校生ハンター競技会で地方大会を勝ち抜くのが目標らしい。


 部長クラスでもD級ハンターのため、普段は弱いモンスターしか出ないダンジョンなどを探索しているらしい。


 この前の鮫島との一件を聞きつけて、連日勧誘を受けている。


 いまさら高校の部活でランクの低いダンジョンを探索することにメリットは無い。


 断ろうと考えていたら、ギルドメンバーから待ったが掛かった。


 ハンター活動に希望を持っている人の集まりであり、有望な人もいるはず。


 そういう人をギルドに引き入れていけば安定してギルドメンバーを確保出来るのではという案だった。


 これを聞いて、確かに悪くない案だと思った。


 ライズギルドは絶賛メンバー募集中だが、信頼のできない人は入れたくない。


 部活での活動を通して、人となりを一定期間見ることができる。


 ただ、どっぷり部活をやる余裕は無いのが実情だ。


 実現は難しいかと思っていたら、惣次さんが案をくれた。


「九条くんの実力をみせて、アドバイザーという立場でたまに一緒にダンジョンに潜るとかにすれば良いんじゃないかい?」


 これはナイスアイデアだ。


 早速俺はダンジョン探索部の部長に話しを持っていった。


 結果から言うと、条件付きでOKだった。


 俺のハンターランクを告げる前に向こうから話を振ってきた。


 条件と言うのが、俺とダンジョン探索部の代表者が模擬戦を行い、全勝したらというものだった。


 もし俺が1敗でもしたら、素直に入部するという話だ。


 調子にのったやつがやってきたと思われたんだと思う。


 俺はその場で、この条件を承諾した。


 ○


 次の日の放課後、ハンター協会の訓練施設を借りて、模擬戦を行うこととした。


 普通貸切はしていないらしいが、九条くんならということで特別に貸切らせてもらった。


 向こうの代表者は3名で、俺を普段勧誘してくる2年の男子と、部長の3年男子、副部長の3年女子のようだ。


 残りの部員は訓練施設の観覧席から観戦している。


 審判は公平を期すため、ギルド職員の人に依頼した。


 ルールとしては相手に参ったと言わせた方の勝ちだ。


 念の為、こちらの武器は最初の頃使っていたブロンズソードを装備している。


 お互いに準備できたので早速始めていく。


 1人目は2年の男子。

 前衛で剣と盾を使う、オーソドックスな剣士タイプのようだ。


 爽やかなイケメンタイプで、勧誘の際は言葉巧みに俺を部活に引き入れようとしていた。


 部活のレベルも知りたいので初手は相手に譲る。


 真正面から突っ込んできて、剣を振るってきた。


 俺はそれを躱し、様子見も兼ねて攻撃する。


 それがまさかの相手の腹部に綺麗に入り、相手が崩れ落ちた。勝ってしまった。


 鎧があるから大丈夫だと思うが、念の為ヒールで回復させる。


 意識はあるな。


 良かった、少し焦ってしまった。



 気を取り直して、2人目との勝負だ。


 3年女子の副部長で、真面目そうな印象のロングヘアーの美人さんだ。


 槍と盾を装備したタンカータイプのようだ。


 試合がはじまり、様子を伺う。


 さすがに先程の試合をみてたため、真正面から突撃はしてこない。


 むしろ慎重に相手の出方を伺っているようだ。


 タンカーとしての実力が知りたいので、攻撃を仕掛けてみる。


 フェイントを折り混ぜつつ、剣を振るった。


 相手はこちらの動きに何とか対応し、盾で受け止める。


 うん、悪くない。


 攻撃はどうだろう。


 少し隙を作り、攻撃を誘導する。


 隙を的確について攻撃してくる。


 これもスムーズな動きだ。


 十分実力を把握出来たので、俺はバックステップで距離をとり、ウインドカッターを放つと同時に駆けだす。


 風の刃が相手を襲うが、これも盾で受け止めた。


 しかし、その際にこちらへの視線を離したため、俺は死角に回り込み首筋に剣をたてる。


「まいった」


 相手が降参する。


 この人は伸びる感じがするな。


 攻撃も防御も及第点だった。


 ありがとうございましたと礼をする。


 これで2勝目。


 あとは部長のみだ。


 部長はあとがない状況となり、焦っている様子だ。


 少し休憩し、3戦目が始まった。


 部長は眼鏡をかけた知的な雰囲気の人だ。


 杖のみを装備しており、完全に魔法使いという出で立ちだ。


 それを見て俺は最初の立ち位置を先ほどより少し遠目にした。


 どんなふうに遠距離攻撃してくるかを見たいためだ。


 試合開始とともに、相手は魔法を唱える。


 氷の塊がこちらを襲う。


 氷魔法のアイスニードルだな。


 俺は冷静に盾で防御する。


 それを見て、すかさず相手も次の魔法を唱える。


 今度は地面が隆起しつつ、こちらを襲う。


 土魔法のアースクエイクかな。


 これは上へ飛んで回避しつつ、こちらもファイヤーボールを相手の足元目掛けて放つ。


 相手は虚をつかれたようで動けない。


 良かった、当てるつもりで打たなくて。


 黒焦げになっていたな。


 足元に着弾したファイヤーボールをみて、部長は降参した。


 これで全勝だ。


 模擬戦を終え、感想などを言い合う。


 2年の男子からは反則級に強いなと賞賛された。


 部長は少しトラウマになりかけたらしく、外してくれてありがとうと言われた。


 副部長の新木あらきゆうりさんは、非常に勉強になったと言い、また手合わせして欲しいと頼まれた。


 その場で条件を詰めていき、俺の部での立場はアドバイザーであり、時たま一緒にダンジョンを探索し、部員を鍛えるということとなった。


 俺からは、ギルドを運営していること、ギルドでダンジョンを一般開放するのだが部員は無料で使えるようにするということを約束した。


 これには、相手側が驚いていた。


 少なくないお金を払ってダンジョンに潜っていたからだ。


 もっと強くなれるぞと部員全員が俺のアドバイザー就任を歓迎してくれた。


 大会までの残り期間は短いが、少しでも部員を強くしてあげたいと思った1日だった。

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