第20話 別れの決意
夜ヒマ?
電話が早い
栞からのラインだった。
門野は帰国してから
大体9時~5時の就業時間だった。
夜ならいつでもいいと返信した。
約束の夜、ライン電話。
「えっと、まず結果から言うね」
この子は頭がいいな。
門野は感心した。
仕事柄部下のほうれんそうを見ているが
ほとんどがダラダラとプロセスと言い訳を話す。
結果を聞く頃には何の報告か?忘れるような
そんな報告もたまにあるものだ。
栞はまず結果から話をすると言う。
「うん、でどうだった」
「仕事でね、新人の子と出会ったの。
というより悦っちゃんの下に付いたのよ。
4歳年下の子。その子がどうも気になってるね」
「私もさ、会えてなくて電話だったのよ
なんか忙しいとかでさ、会えなかったの。
私を避けてるというのではないと思うけど
だから詳しくは聞けなかったけどね」
そうか…やっぱりな。
門野は自分の読みが当たった事が少しうれしかった。
この年になってある程度の洞察力はあるし
先見の明があるとまでは言わないが
人並以上に物事を見る目はあると思っていた。
栞ちゃんとも会えないってことは
本当に忙しいのかな?
でも、やっぱり悦ちゃん、気になる子がいたんだな。
これは早めにお別れだなと門野は思った。
それとなく栞が尋ねる
「ねえ、こんな事私が聞く権利はないけどさ。
門野さんどうするつもりなの?」
「うん、オレ、お別れするよ。お別れというか
会えないふりして、このまま消えるよ」
「でも、まだ悦っちゃん、付き合ってないし
今は会社の同僚くらいの関係だと思うよ」
それもそうだと門野は思った。
だが、オレがこうして悦ちゃんとつきあって
最後までいけるだろうか?
正直自分としては結婚も夢見たりしたけど
芸能人じゃああるまいし、20歳差の結婚なんて。
現実に彼女も考えていないだろう。
栞はそれを聞いて不満げだった。
恋愛に年齢は関係ないし、愛しているなら
身を引く必要なんてない。おかしな遠慮だと言う。
門野は言う。
現実問題、遠くの50代より近くの4歳年下だ。
やはり結婚、その後の生活を考えると
その気になる子と付き合うのが自然だと言う。
門野は自分を客観的に見る事ができた。
栞は納得しながらも門野があまりに弱気で
不甲斐ないではないか?とおかんむりだ。
門野は重ねて言う。
「もし、その4歳年下の子が悦っちゃんの過去を
認めて受け止める男なら大賛成。
もし、悦っちゃんの過去を蔑んだりする奴なら
オレは別れないつもりなんだ。
新しい彼氏の腹の座り次第だよな」
「なるほどね、まあそれは分かるというか
門野さんらしいよね」
「でもさあ、私も、悦っちゃんの相談から始まって
門野さんともこうして話してさ、2人の事が
当然気になるわけよ」
「うん」
「だから、お節介かもしれないけどさ
悦っちゃんの気持ち、はっきり聞きたいわ
いい?門野さん、どう?」
「オレからすればありがたいよ、お願いします」
「OK!まかせなさい!」
* * *
栞は例の居酒屋へ悦子を呼び出した。
「私を避けてるの?」
鶴の一声で悦子は馳せ参じた。
栞は大好きな姉であり、親分だった。
軽く飲みつつ美味しい食事。
話の流れで栞がそれとなく尋ねた。
「門野さん元気?」
たったその一言で悦子は泣き出した。
「なになに?ケンカ?」
悦子はおしぼりで目を押さえながら
まるで小学生が母親に相談するように見えた。
新人の男の子に惹かれている。
自分と同じ不幸を抱えた人。
仕事をしていて、一緒に歩みたい
支えていきたいと思う気持ちが止められない。
門野さんが居るのにどうしよう?
栞はやっぱりと思うとため息が出た。
悦子はその態度に栞が自分を見捨てたと思い
ますます号泣する。
飲めばキレるかもしれない。
普段より酒を減らして悦子を慰めながら話す。
結局、門野は愛しているが、彼もほおっておけない。
自分は人として最低だ。こればかり繰り返す。
栞は思った。これ、本気だからこそこうなってるんだと。
でもこんな状況だと悦子自身答えは出せないなと思った。
門野さんはこれを見越して、自ら引くと言ったのか?
さすが、あの年になるとすごいなとへんな感心もした。
「ねえ、門野さんに別れるように言ってあげようか?」
栞は真顔で尋ねてみた。
「えー?ダメーーーー」
そう言うと、また大号泣。
お店のスタッフが心配して(ひょっこりはん)のように
のぞきこんだくらいだった。
この日はとにかく話にならなかった。
栞は別れ際にこう言った。
「とにかく門野さんか、彼か?ケリつけなきゃだめ。
ほんと、それしなきゃ人として終わるよ」
* * *
栞は初めて悦子を突き放した。
だが栞は気づいていた。
この子は答えは出せない。
きっと門野さんが引くだろうな。
この日のすべてを栞は門野に伝えた。
門野には申し訳ないなとは思ったが
そこはやはり悦子が可愛いのだ。
答えはあなたが悦っちゃんに与えてやって
あの子が選ぶのはどっちか?
門野に導いてもらうしかないと思った。
「そうか、ありがとう。
じゃあ、また様子みて悦っちゃんと話すよ」
栞は話の内容は尋ねなかった。
きっと自ら身を引く別れるつもりだ。
そう思ったから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます