第12話 奇跡

「門野さん、分かってくれた?

 信じてくれるんだね?マジか?」


「いや、オレのほうこそ大人気おとなげなかったよ。

 しおりちゃん、あなたが誠心誠意、悦っちゃんのために

 話してくれたのに、あなたの優しさに対して

 ひどい言葉で返して、本当にすまなかったよ」


「な、なに言ってんの?優しいとかじゃなくってさ。

 私は門野さんの誤解を解きたかったのよ。

  風俗嬢はドロボウって思われるのは嫌だもん」


「いや、ほんと許して、ごめんね」


「でも分かってくれたし気分いいわ。

 お酒買ってこよ!ちょっと行ってくるわ。

 あとは悦っちゃんと話してね!」


「おいおい。待てよ、急に代わってって

 悦っちゃんに話の流れが分からないだろう?」


「大丈夫よ、ずっとスピーカーだったんだから

 悦ちゃんもずっと聞いてたよ」


「え~まじか?」


「隠し事なくていいじゃない?」


門野は悪態をついたことを反省した。


「悦っちゃん、ほら、話しなよ。

 私ちょっとお酒買ってくるわ。

 気分いいし、もうちょい飲もう~」


「え、ちょぉっと、待って栞ちゃん」


焦る悦子に家の鍵を受け取り、栞は出かけた。

ドアが閉まり鍵をかける音が聞こえる。

少しの沈黙が2人を包んだ。


「悦っちゃん、話聞いてたんだろう?

 ごめんよ、ガキみたいな態度とって」


門野が優しく声をかけると悦子はまた泣き出した。


門野は泣いている悦子に、返事はしなくてもいいと

前置きをして話をしだした。


正直、金目当てで近づいたんだと思って悲しかった。

やっぱりこんなじじいは結局は金づるなんだと思った。

あの夜、問いただすのが怖くて一人で拗ねていた。

栞に怒鳴られ、自分が君を見下していたのではないか?

と気づいた。許してほしい。


悦子も悪いのは私ですと謝り続けた。


門野が心配だったら直接話をすればよかったのに

つい、財布があったので見てしまった。

信じてほしい。私は本当にあなたを愛しています。

泣きじゃくりながら何とか門野にその思いを伝えた。





* * *



「おい、声かけてこいよ、暇そうじゃん?」


「おめ~行けよ!」


「いや、ダメだって、あの手の女はヤバいって」


「かもな?美人局つつもたせかもよ?」


「で、これから男が来るんだよ」


「カモは見つかったか?ってか?」


男2人が笑いながらチラチラ後ろを向く。

ここはコンビニ外の喫煙所。

店の中のイートインコーナーが見える。


ガラスに面したカウンターに1人の女が座って

缶チューハイを飲んでいる。

背は170㎝近い?全体的に細身の体系。

すらりと伸びたジーンズに黒いパンプス。

パステルブルーのざっくりとしたニット。

手首には男物のスイス時計が光る。

栗色の長い髪がきれいだ。

切れ長の目、鼻筋の通った細面ほそおもての美人。

女優の黒木メイサに感じが似ていた。


女が男たちの視線に気づき顔を向ける。

2人は慌てて背中を向けて逃げた。

そんなシーンは昔から慣れている。

いろんな男に見つめられ目が合えばみんなが下を向く。


こそこそと喫煙所を後にする男を見ていた栞は

いつまでここでヒマをつぶすのか?考えていた。

帰って2人の会話が途切れてもかわいそうだな。

そう思ってここで飲んで時間をかせいでいた。

いっその事、家に帰ろうかな?と思ったが

家の鍵も持ってるし、2人は自分のスマホで話をしている。


しかたない。戻るか…


悦子のマンションは歩いて5分ほど。

駐車場の男たちが遠巻きに栞を見ていた。

彼らの眼差しを置き去りにして歩く。

圧倒的強さで周りをフリーズさせる栞は

ランウェイを闊歩するスーパーモデルに見えた。


年齢32歳(らしい)恐ろしいほどの美人。

手首の時計が歩く度に街灯に照らされてギラギラ光る。

反社の彼が居ると言ったら誰もが[やっぱりね]と納得する風貌。

そのプライベートがまったく見えない謎の女、栞だった。


* * *



その栞はコソ泥のようにそっとドアを開けた。

部屋からは、栞ちゃん?と声がかかる。

え?話をしていない。まさか?ケンカ別れ?


慌てて部屋に入る。


「ちょっと?大丈夫なの?」


「あ、栞ちゃんのスマホだったからすぐ切ったの」


門野が気を遣って切るように言ったらしい。

些細な事だが電話代の事を考えたのだろう。


悦子は完全に誤解は解けた事

当然つきあいは再開する事を伝えた。


コンビニで飲んでた時間は10分くらいだったかな?

まあそれだけあれば話はできるか?

栞は今回の電話が成功したことに満足して

手に持っていたビニール袋から買って来た

スイーツをテーブルに並べた。


「お祝いに食べようぜ~」


「うん」


頷いた悦子は栞に心の底から感謝した。

自分には何の関係もないのに真剣に相談に乗ってくれた。


栞のおかげで門野の本心も読めたし

よけいに距離が縮まったように思った。


2人でスイーツを食べてシャワーを浴び眠る用意をする。

悦子のパジャマを着てソファに寝る栞。

いつの間にか、かわいい寝息が聞こえる。


悦子もベッドにもぐりこむ。


あらためて門野を想う。


本当に素晴らしい人。

奇跡の出会いに感謝。


この時はそう思いつつ、眠りについた


のだが…


アニメソングの歌詞にあるではないか。


「巡り会うため

   奇跡は起こるよ何度でも」



と…。








 

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