第4話 相談事

(ハネたらいく?)


(おけ、いくいく)



店でラインの会話をしたのは同じ嬢のしおり


仕事が終わった後、アキは朝ご飯の約束をした。


この店の待機は個室、他の嬢と会う事は少ない。

たまに別の女と顔を合わせても軽い会釈で

知らんふりすることが多いのだ。


でも栞は違った。アキが入店して間もなく店内で出会う。

「新人さん?もう慣れた?」いきなり声をかけられた。

うれしかった。独りぼっちの自分に近づいてくれる人がいた。

それからというものアキは縋り付くように栞に接近した。


ただ、店内であまり私的なおしゃべりはできない。

ラインで話し、仕事が終われば一緒に朝ご飯を食べて過ごす。



栞はこの店で働いて2年目だという。

アキよりも先輩だ。年齢は32歳(と言ってた)

切れ長の目がクールな美女だ。


勝ち気で雰囲気も元ヤンだ。

165㎝の長身に目力がすごくて怖い印象だ。

話せばやさしいし、かわいい所もあるが

心を許さないため第一印象からしてとっつきにくい。

黒い外車に乗ってるような雰囲気がする。


そんなキツめの彼女のキャラからか?

客受けも、栞ちゃん最高か 金返せのどちらからしい。

いい意味でも悪い意味でも店の№1だった。


彼女たちの仕事が終わる。

朝、通勤のサラリーマンやOLが足早に駅に向かう。

その流れと逆らう2人はいつもの喫茶店へ向かう。


「今日はヒマだったねえ~」


「え?栞ちゃんもそんな日あるの?」


「なーに言ってんの?ヒマな時はヒマよ」


笑いながら栞はアキの肩を抱きながら歩く。

長身の栞と小柄なアキ。雰囲気は姉貴と子分だった。


喫茶店に着く。

いつもの2人の席が空いている。

モーニングセットを注文した。

アキは栞に門野の話を聞いてほしかった。


「この間出張でこっちに来た人なんだけど」


それとなく、気になる人が居るとアキが言うと

栞は、やっぱり!という顔をしてストローから

口を離してニヤリと笑った。


「私は読めてたよ~ 最近のアキちゃんさ

 なんとなく沈んでるなぁと思ったもん」


アキは真剣な表情で門野の事を話し始めた。

栞は、カウンセラーのような顔をして

ふんふんと頷きながらチーズトーストをほおばる。


「それでね…」


相手は50代のオヤジだし、惚れるはずがないんだけど

でも、気になるというか、ほんとにリピあるかな?

そんな事も思ってしまう。

いままで働いていてそこまで気になった人は居ない。

どうすればいいんだろう?とか思うの変だよね。

それに正直、向こうが本気かどうかも分からないし…


アキはチーズトーストに手をつけずに一気に話を終えた。


「ガチだね」


栞は話を聞き終わって言った。

完全に惚れてると言う。


「でもおじさんだよ。栞ちゃんだったら、どうする?」


「私だったら、ガチでアタックするわ。いいじゃん。

 いいなと思ったんだし、素直に行くヨ!

 私たちが恋愛したらダメなんて法律ないんだしさ」


アキは年齢差が気になっていた、門野は50は越えている。

父親と言っても通る、やはりカップルにはなれないだろう。

それに自分は風俗嬢なのだ、ちゃんと恋愛ができるだろうか?

その2つが不安でモヤモヤして、その落ち込み様なのだ。


栞は言う。

年齢など関係ない、年の差カップルなんかいくらでもいる。

若くてイケメンでも、性格が悪い男なら話にならない。

イケオジで金持ちだったら最高じゃん。

嬢だとバカにしない男なら絶対に狙えと言う。


「でもお父さんみたいにならないかしら?」


「アタックしてダメだったら終わりでいいじゃん?

 ただの客だったんだなぁ~って感じで。

 付き合ってみないとわかんないよ。ほんとのとこ」


「栞ちゃん、そんな気になるお客さん今までに居た?」


「そりゃ、一度や二度は、いいな~っていうの居たよ」


「アタックしたの?」


栞は自分もイイ仲になった客は居たと教えてくれた。

それこそ人として恋愛はするものだし自分の思いに

逆らわずに行動すべきだと力説した。


アキは優柔不断のところがあってよくクヨクヨ悩む。

そんな時、必ず背中を押すのが栞の役目だった。

この朝の会議でアキは門野を恋愛対象として見ようと思った。


しばらくして、門野が東京に来るという。

メールで日にちを指定して会えるか?と聞いてきた。

それに門野はプレイではなく、食事をしたいという。


デート気分でごはんに行きたい。

もちろん2時間の料金はお支払いするが

内容をディナーデートにしてほしい。

Hは要らない。ゆっくり話がしたいという。

場所も目黒区の某高級ホテルだった。


馴染みになった客とごはんを食べる。

でもそれはラブホで出前を取ったり

客が買って来たスイーツを食べたりする程度だ。


アキは悩んだがOKした。

もう何年も男性と食事なんてした事がない。

プレイ無しで構わないのか?と悩んだが

彼からの要望だからと素直に受け止めた。


でもゆっくり話って…

まさか?プロポーズ?

まだ2回目じゃん。

そんなバカな話無いよね…


門野が来る日が近づくにつれて

アキの想像は膨らむばかりだった。


ホテルのHPを眺めレストランを調べる。


当日の服どうしよう?


アキは当日の服を新調するほどときめいていた。





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