第53話 最強降臨 そして因縁の決着
俺はそうして目を覚ます。
どうやら、殴られてから時間は経っていないようだ。
だから、俺は油断して近づいてくる男の顔面を蹴り飛ばす。
久しぶりに体を動かすからちゃんと動くか不安だったがこの体は健康な分
昔の体よりも思った通りに動いてくれる。
(期待以上だ。)
そして、柚木のいる方向に目を向けるとそこには柚木だけではなく、”涼葉もいた”
やっぱりか。
俺の”予想”はどうやら間違っていなかったらしい。
こうなってくるとすべての辻褄があったように思える。
俺はすぐさま近くにいた男たちをなぎ倒していった。
どいつもこいつも素人がただ武器を持った程度で弱い。
つまり、今の俺の敵ではない。
昔に鍛えた技術を使いその場にいた男をなぎ倒していく。
一刻も早く涼葉の下へ行くために。
ああ、本当に良かった。
昔、病気だからってあきらめずにいろんな武術を学んだ甲斐があったというものだ。
人生何があるか本当にわからない。
だが、武器を持っているため細心の注意を払う必要がある。
いくら素人とはいえ適当に振り回した凶器が当たってしまえば致命傷になりえることもある。
油断してそのようなことになっては目も当てられない。
凶器に気を配りつつ二分足らずでそこにいた男たちをなぎ倒す。
「どうして、お前がそんなに強いんだ!」
張り裂けんばかりの声で怒鳴りつけてくる明るい髪の男、
いやすべての元凶”谷山太陽”
「どうして?お前なら多少は知ってるんじゃないのか?」
「どういうことだ?」
少し顔を青くしながら彼は俺に問い掛けてくる。
こいつなら知っているはずだ。
「知ってるだろう?あの時俺に付いたあだ名が何だったのかお前なら知っているだろう?」
「だから、何のことなんだ!」
再び俺を怒鳴りつけてくる。
弱い犬ほどよく吠えるとはよく言ったものだ。
「ああ、もういいよ。そういう演技は。」
呆れた男だ。
こんなにもくだらない演技を長々と続けるとは。
正直もう付き合ってられない。
こんなことをしでかしたんだ。情状酌量の余地はないだろう。
「。。。」
黙り込む谷山太陽
「お前は全部知っているんだろう?俺のことも、そこにいる涼葉のことも。」
俺がそういうと谷山太陽は笑い始める。
この笑い方。
やはり間違いないのだろう。
「いつから気づいてたんだぁ?」
そういって楽しそうに笑い声をあげる。
その声には少しばかりの狂気を孕んでいた。
先ほどのような明るく少しやんちゃな男という印象はなりを潜めて、今目の前にいるこの男は俺が知っている谷山太陽であった。
「そうだな、柚木にお前の話を聞いた時からだな。」
「どういうことだ?というか、お前はいつから”お前”になったんだ?俺が昔確認したときには”お前”ではなかったはずだ。」
そうなのだ。俺が大学一年生になったときにこいつは俺に接触してきた。
それもわざとらしく。
あの時の俺は特に何も気にならなかったが最近のことをすべて踏まえるとこいつの行動の意味が分かったのだ。
こいつはわざわざ俺が昔の俺であるのかどうかを確認していたのだ。
まあ、あの時こいつが俺にどんな話をしたのかはわからなかったが。
「ああ。そうだな。俺が目覚めたのはちょうど今だよ。」
「どういうことだぁ?」
「お前の手下に殴られたときに意識が戻ったんだよ。正確には譲ってもらったんだがな。」
「ははははは。意味わかんないことを言いやがって。」
一の言ったことが理解できない様子で谷山太陽は高笑いを始める。
「お前こそ、こんなことして何のつもりだ?」
「ああ、ありていに言えば復讐かな?」
「しょうもないことをしやがって、」
復讐とはいってもすべては逆恨みの癖に。
「しょうもなくなんてないさ。お前と月風のせいで俺はあの後牢屋でかなりの時間を過ごすことになったんだよ。」
「それは全部お前の自業自得だろう?」
「んなのしらねえよ。まあ、お前がもとに戻ったのなら俺の復讐は完全な形で成功することになる。」
「そんことさせるわけがないだろう?」
そういって俺は拳をかまえる
だが、谷山太陽は柚木と涼葉の方向に向かう。
「何をする気だ?」
「あ?当たり前だろう?復讐をするのならこいつら二人を殺してからのほうが都合がいいんだよ。」
不味い。
このままじゃ二人が殺されてしまう。
どうすれば、
その時、柚木と涼葉が縛られている場所に一人の人物が現れた。
「隆介!その二人を連れて今すぐ逃げろ!」
「あ?どういう状況かわからねえがわかった。」
そう言うと彼は二人を連れて走り去った。
連れてというよりは担いでのほうが正しいか。
「ちっ。本当にお前らはいちいち余計なことを。」
忌々しそうにつぶやく谷山太陽
ありがとう隆介。
これで思う存分こいつと殴りあえる。
「卑怯なことは無しだ。昔の因縁にここでけりをつけようじゃないか。」
「いいだろう。月風は逃したがお前にだけでも復讐してやるさ。」
「だが、一つ聞かせろ。なんでお前は犯人が俺だってわかった?」
「なぁに、簡単さ。俺は過去に戻ってから意識だけはあった。だからここまではもう一人の俺が体験してきたことを視覚だけだが共有していたんだ。」
実際、涼葉に救われてからの長い間俺はずっとこの世界を見てきた。
俺が歩んだことのない世界を俺はずっと見ていた。
「なにがいいてぇ?」
「俺はそれを見て思ったんだ。過去の記憶を持った奴が関与しなければ大体の未来は変わらないんだ。」
俺が、昔住んでいたアパートに住んだように、みんなで遊園地に行ったり、海に行ったりキャンプに行ったり。涼葉がいなくても同じ道をたどっていた。
ただ、過去の記憶を持った奴だけはイレギュラーな行動をしていた。
「つまり、何もしなくても俺は昔住んでいたアパートに住むことになったし、遊園地にも行った。これは今の涼葉が関与していなかったからだ。だが、お前は違ったんだ。お前に過去の記憶がなかったらお前の友人はお前のことをあんなにほめたりしないからな。今まで見てきてわかったんだが、過去の記憶があるものが関与しない限り未来はあんまり変わらないんだ。だから、お前は高校時代に涼葉に何らかの接触を図っていないのはおかしいんだ。それに、お前は告白を断られて爽やかな笑顔を浮かべるような人間ではないよ。もし、お前がそんな人間だったなら今こんな状況にはなっていないからな。」
だって、爽やかな笑顔をして引き下がるのなら涼葉を虐めたりはしなかっただろう。
逆恨みで復讐なんてこともしなかったはずだ。
「そういう事か。ミスったな。そんなことでバレるなんてな。」
「もう何も奪わせない。涼葉も柚木も。」
「ならやってみせろ、陰キャ!」
そういって彼はナイフを片手に突進してくる。
「しねぇぇぇぇぇ!」
谷山太陽は俺に向かってナイフを振りかざしてくる。
だが、所詮は素人
その軌道は読みやすく避けることは容易だった。
俺は体を少し捻ってすれすれでナイフを躱す。
必要最低限の動作だが、相手の意表を突くにはそれで十分だった。。
「なっ」
太陽は驚愕の声を上げる
が、当然のことだろう。
こいつは昔からずっと俺のことを見下していたんだから。
「お前は昔から俺のことを見下しすぎなんだよ。昔、俺に付いたあだ名は”最強”だっただろ?あの時お前の手下を全員ボコしたときに付いたあだ名なんだがな。まさか知らなかったとはな。」
俺はそういいながら谷山太陽に蹴りを繰り出す。
だが、谷山太陽はそれを避け再び俺にナイフをふるう。
ただの素人のはずなのに、運動神経は化け物並みかよ。
これじゃあ、隆介といい勝負するんじゃねぇか?
俺もその攻撃をかわし態勢を整える。
さすがにカウンターまで仕掛けてくるとは思わなかったな。
下手したら足に怪我を負っていたかもしれない。
「避けられるとは思ってなかったよ。」
「お前こそ。あのあだ名は知ってはいたがはったりだと思っていたのに本当だったとはな。」
少し呆れたように肩をすくめる谷山太陽
そしてすぐさまナイフを構えなおす。
「今度こそ死ねよ。」
殺気のこもった声で告げる太陽
そういってナイフを振るう。
今回もぎりぎりで躱そうとするが、ナイフの動きが急に変わりナイフは俺の腕に当たってしまった。
「ぐっ」
幸いかすり傷程度で済んだが、今のは危なかった。
これが首に届いていたら今頃失血多量の致命傷だった。
冷たい汗が背中を伝う。
「あぶねぇ」
「ちっ。今のは仕留めたと思ったんだがな。」
残念そうに肩をすくめる。
俺は今一度気を引き締めなおし拳を構える。
次の瞬間
ナイフを握りしめた太陽が俺に向かって突撃してくる。
間一髪のところでナイフを躱して太陽の腹部に膝蹴りを叩き込む。
「がっ、」
太陽は小さなうめき声をあげるが決して倒れることは無かった。
「いってえなあ。クソが!」
再びナイフを構えた太陽が一に切りかかる。
次は顔を狙って来た。
俺は頭を少し後ろに下げて回避を試みるがナイフの切っ先が頬をかすめる。
頬からは赤い雫がぽたぽたとしたたり落ちていく。
「これも避けるのかよ。」
忌々しそうにつぶやく太陽。
「こんなところでお前なんかに殺されてられないんだよ!」
「そうか?でも、お前にはここで死んでもらう。」
再度太陽はナイフを構えて突進する。
だが、今度は完全にタイミングを合わせてカウンターをみぞおちに
叩き込んだ。
「ぐふっ。」
太陽は情けないうめき声を上げながら倒れてしまった。
この時、ようやく陰野一と谷山太陽との因縁に終止符が打たれたのであった。
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