第52話 事件の真実
「もしもし?どうしたんだ隆介。」
「一!!柚木と連絡がつかない!家にもいないし大学にもいなかった。」
電話に出ると大きな声で焦りながら彼は言う。
「おい、マジかよ。」
「大マジだ。いま走り回って探しているが一向に足取りすらつかめない。」
一番やばい状況だ。
「わかった。俺も探してみる。」
そういって俺は電話を切り走り出した。
だが、それから一時間
俺達は何の手がかりも見つけ出せずにいた。
「一、どうしよう。」
顔を真っ青にして彼は電話越しに問い掛けてくる。
「おい、隆介諦めんな。まだなんかあったわけではない。」
「そうだな。だが、やみくもに探しても何も出てきそうにない。」
「だな。とりあえず俺は人気のなさそうな倉庫街を探してみる。」
「じゃあ、俺は大学付近を探してくる。」
「わかった。何かあったら連絡をくれ。」
「ああ。お前もな。」
「もちろん。」
そういって俺達は電話を切って走り出した。
そうしてたどり着いた倉庫街
どうやら俺の推測は正しかったようだ。
そこには黒い大型の車が数台止まっていた。
すぐに今の場所を隆介に連絡し俺はその倉庫に踏み入った。
「誰だ!」
聞こえてきたのは男の怒号
視界に入ってくるのは約10名の男と谷山太陽そして、
”縛られた島崎 柚木”だった。
「お前たちは何をしているだ?」
俺は感じたことのない怒りに握りしめた拳を震わせていた。
今まで生きてきて感じたことのない感情だった。
「なんでこの場所が分かったのかを聞きたいところではあるが、ここで何をしてるか教えてやるよ。」
そういって前に出てくる明るい髪の男が語り始める。
「俺たちは、いい女をさらってここで誰にも言えないようなことをしてるんだよ。」
あいつの言う”誰にも言えないようなこと”はこいつの汚い笑顔を見れば容易に想像がつく。
「なんでそんなことをっ」
「そんなことはどうでもいいんだよ。お前は何をしに来たんだ?混ざりたいのか、邪魔したいのかどっちなんだ?」
「そんなの柚木を助けに来たにきまってるだろ!」
「じゃあ、消えてもらわないとな。」
そういって、明るい顔をした男の後ろから凶器を持った男が数人出てくる。
クソッ
これじゃあ、分が悪い
「行け!お前ら。あいつは一人だ。やっちまえ。」
髪の明るい男がそういうと一斉に凶器を持った男たちが襲い掛かってくる。
その手にはナイフや金属バットなどが握られており当てれば一発で気絶してしまうだろう。
気絶しなくとも相当な痛手を負うことは容易に想像できる。
隆介がこちらに到着するには最短でも30分はかかるだろう。
つまり、俺は今から30分もの間こいつらから逃げ切る必要があるということになる。
なおかつ、柚木に被害が出ないようにこいつらのヘイトを稼ぎ続けないといけない。
そこからは地獄のような状況になった。
四方から凶器を持った男たちが襲い掛かってくる。
いくら、昔に柚木をストーカー奴らを撃退していたとはいえ、この量と凶器をもった相手とやりあったことは無い。
しかも、どの凶器も俺を殺すために振り下ろされているため、一回でもあたってしまうとよくて気絶。最悪死んでしまう。
そんな攻撃を数十回躱していると柚木が目を覚ます。
「え、ここどこ?は、一!」
彼女は目を覚ました途端に声を上げる。
無事なことに安心したが今柚木に話しかけられる余裕はない。
「お前は黙っとけ!」
明るい髪の男が柚木にさるぐつわのようなものを取り付ける
「おまえ!何やって、」
俺はとっさに柚木のほうを見る。
いや、見てしまった。
「何よそ見してんだよ。」
そう、後ろから声が聞こえたときにはもう、
金属バットが俺の後頭部に直撃していた。
「あがっ」
途端に視界が暗くなる。
意識が遠のく。
(く、そ)
…………………………………………………………………………………………………
俺は、柚木を助けられなかったのか。
そう考えていると、視界が明るくなる。
見たことのある真っ白な世界
そこに座っていたのは
”俺”だった。
「派手にやられたな。」
「俺はどうなるんだ?」
「そんなこと俺に聞かれてもわかんねえよ。」
「柚木は、」
「このままだとやばいだろうな。」
「一つだけどうにかする方法がないわけではない。」
「それは何なんだ?」
藁にもすがる思いで俺は”俺”に問い掛ける。
「約束とずれてしまうが今俺と意識を交代することだ。」
「そうしたら、柚木を助けることができるのか?」
「ああ。それに関しては約束しよう。」
「わかった。俺の体を使ってくれ。」
「本当にいいのか?」
「ああ。もちろんだ。それで柚木が救えるのなら。」
「わかった。」
そういって”俺”は椅子から立ち上がった。
「じゃあな。」
彼はそういってこの世界から姿を消した。
きっとこれで俺に意識は終わりを迎えるのだろう。
もしかしたら、”俺”のようにこの真っ白な空間で過ごすことになるのかもしれないが。
でも、もうあいつらに干渉することはできないのだろう。
そう思い俺は静かに目を閉じた。
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