第49話 ”陰野一”
”俺”は確かにあの時死んだはずだったのだ。
悲願の木の下で涼葉に看取られながら息を引き取ったはずなのに、
気が付けば目の前に涼葉がいた。
しかも、俺の知っている涼葉とは少し違い幾分か大人びた涼葉だったのだ。
俺は彼女に声をかけようとするが俺の声帯から言葉を紡ぐことは叶わなかった。
(なんで、)
大人びた涼葉は今の俺に病院に行くことを進めていた。
そこで俺は気づいてしまった。
俺は、いや、今の俺は子供のころの俺だったのだ。
だが、今の俺ではこいつの考えていることもわからなし逆にこいつの意識や行動に干渉することもできなかった。
つまり、俺はこれから起きることをみることしかできないということだ。
そうしてわかったことだが、こいつは相当ませたガキだってことが分かった。
涼葉に忠告されているときの受け答えなんか聞くに堪えなかった。
そうしてこいつは病院にいって不治の病が見つかった。
まあ、この時点では不治ではなかったためすぐに手術をして病は治ったのだった。
ここにきてさらに気づいたんだがなんで涼葉はこの時代の俺に出会うことができたのだろうか?
しかも、少し大人びているがあの人はきっと俺の知る涼葉に間違いないはずだ。
発言からもそのことが想定される。
なおさら彼女はどうやってこんなに昔の俺と接触できたのだろうか?
それにあの時死んだはずの俺の意識がなんであるんだろうか。
どちらにせよ、今の俺には何もできないしこいつが見ているものしか確認できないんだから気楽に行こうか。
呑気だとは思いながらも結局何もできないんだからそう考えるしかできないだろう。
あれから結構な時間が経過したが俺の知る未来とはかなりかけ離れていた。
もともとは中学で病気のことを知りこの時点では治らないことを知らされ、
生きる気力を失いかけていたしそれに加えて虐めにもあっていたため、高校は親元を離れて高校に通っていた。
だが、こいつは違った。
中学でも明るく友達も多かったし勉強もスポーツもかなりできていた。
それでも、隆介とは親友だったし柚木とも幼馴染だった。
いつもこの三人で行動していたし、仲が良かった。
だが、こいつは虐められてもいないし何回か告白もされていた。
何故だか全部断っていたが…………………………
そして、高校で親元を離れることもなく隆介とも柚木とも同じ高校で俺が経験したこともないような青春を過ごしていた。
だが、高校が俺と違ったため涼葉と出会うこともなければ、谷山太陽に刺されるようなこともなかった。
涼葉のことは気がかりだが今の俺にはどうすることもできないのが気がかりだ。
そして、高校でもそれなりに優秀な成績を残していたし、女子からそれなりにモテてもいた。
だが、こいつが高校生活において誰とも付き合うこともなかった。
隆介たちは俺が知っている通りに海で告白し付き合っていた。
この流れは涼葉がいないことを除いて俺が知っていることと変わらなかった。
俺はこいつの視覚しか共有することができないから何を聞いてるかを知ることはできない。
だが、この後もキャンプに行ったり遊園地に行ったりと俺がたどった過去を涼葉がいない状態でたどっていた。
こいつも大学生になった。
ここからは俺が知らない世界ではあるのだが、こいつが大学に行くにあたって引っ越した家が昔に俺が住んでいたアパートだった。
ここまでくると俺は少し薄気味悪いものを感じた。
実際、今までのこいつが過ごした時間では今まで俺が経験したことを涼葉なしで体験している。
こいつは涼葉のことを知らない。なのに涼葉のためにみんなでいった場所に行っているのだ。
その最たる例がまさに遊園地だ。
あれは、俺が刺されたときの退院祝いみたいなもんで行ったのに。
その真相を知るにはまだ何かが足りないような気がしてならない。
こいつが大学生になって二年が経過した。
隆介と柚木も同じ大学で楽しそうな大学生活を送ってた。
そんな日常に変化があった。
その変化とは、俺の前に涼葉が現れたことだった。
この涼葉は俺が過去に見た大人びた涼葉だった。
そして、涼葉を見た途端こいつの聴覚が俺に共有された。
「ああ。やっと会えた。声が聞こえる。」
俺は届かないと知りながらそんな言葉を紡ぐ。
それから涼葉は今までのことをこいつに話し始めた。
曰く涼葉は過去に戻り俺を助けたこと。
そして、現在に戻ってきてこいつに会ってこいつは涼葉について何も覚えていなかったこと。
それを話し終え彼女は遊園地に誘うことを約束した。
そうして、こいつが涼葉と遊園地に行ったことで俺はこいつの意識に少しだけ干渉できることになった。
隆介の相談を聞き隆介の家に行ったとき俺は確信をしていた。
きっとこいつはもう長くない。
俺の意識が涼葉に出会ったことによってより鮮明になってしまった。
そのことを俺はこいつに説明した。
こいつは快く承諾したが、隆介の事件が解決するまで待ってほしいと言われた。
だから俺はこいつに助言を残すことにした。
これからこいつがどのように事件を解決するのか。
そして、俺がこの世界に戻ったらどうやって涼葉と再会しようか。
果たしてこいつは無事にこの事件を解決に導くことができるのだろうか?
と、何もない白い空間で俺は物思いにふけるのだった。
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