第48話 もう一人の自分
「お邪魔します。」
俺はそういって隆介の家に足を踏み入れる。
中に入って俺はまず玄関前まで来ていた柚木に声をかける。
「久しぶりだな柚木。」
「うん。久しぶりだね一。」
少し顔色が悪いな。
やっぱり自分に正体不明のストーカーに付きまとわれていたらこんな風にもなるか
「いきなり邪魔して悪かったな。隆介から事情を聴いたものでな。」
「ううん。こっちこそ迷惑かけて本当にごめん。」
「お前も隆介も同じようなこと言いやがって。こんなの迷惑のうちに入らねえよ。」
だが、柚木がこんなにもなるくらいなのだから今回のストーカーは相当に厄介でありしつこいのだろう。
「でも、お前にストーカーができるなんて久しぶりだな。中学のころ以来か?」
「うん。そうかも。高校に入ってからは隆介とかも一緒にいたからこういうのはなかったんだけどね。」
やっぱりしおれてる。
…………………………………君…………………………………を…………………………だから。
…………………………………なないで。
なんなんだ。
これ。
今はこんなこと考えてる暇なんてないのにずっと頭の中のノイズが消えない。
頭が痛い。
視界が霞んでいく。
意識を保つことができない。
「ツッ」
「一。大丈夫か?」
その声を聴いたときには俺の意識は闇に沈んでいった。
「おい。いつまで呑気に寝てやがる。」
声が聞こえる。
だが、この声は聞いたことのない声だ。
隆介でもなく、柚木でもない。
隆介の家に俺たち以外の誰かがいる?
(まさか、ストーカー!?)
そんなことを考えて俺は目をあける。
今まで考えていたことは根本から間違っていることに気づいた。
「やっと起きやがったか。」
声のした方向に目を向けるとそこには”俺”がいた。
「は?」
理解が追い付かない
俺はさっきまで隆介の家にいたはずなんだが。
ここは隆介の家などではなく見たことのない空間。
家具やインテリアなどはなく真っ白な空間
まるで人間が生活しているようには見えない
「よお。一。俺が誰だかわかるか?」
俺と同じ声でそう問いかけてくる”俺”
「俺なのか?」
「まあ、俺ではあるんだが正確に言えば俺は涼葉の知っている俺だ。」
涼葉?月風さんのことか?
となるとこいつはすでに病気で死んでしまった陰野一ということになる。
そして月風さんの思い人でもある。
「生きていたのか?」
「変な質問だな。俺は生きてもいないし死んでもいない。まあ、死んだ過去が消えているのは涼葉のおかげだがな。」
今の俺とは違い落ち着き払った俺を見ているとなんだか変な気持ちになってしまう。
「じゃあ、お前はなんで今現れたんだ?」
俺は今一番の疑問を晴らすことにした。
「簡単な話さ。お前の人格はもう少しで消える。」
どういうことだ…………………………
「俺の人格が消える?それってどういう事なんだ?」
「簡単話さ。俺は違う次元の俺だが涼葉がお前にその話をしたことによって俺の意識、存在がより濃くなってしまったんだ。だからあと少しでお前の人格は消えてしまう。」
申し訳なさそうな顔で告げる俺
でも、正直俺が消えることに何も思うことは無かった。
何故なら、きっと俺は抜け殻だったからだ。
ずっと違和感があったし生きている気がしなかったのだ。
それに月風さんは俺ではなく”俺”のことが好きなんだから。
「そんな顔しなくても俺は拒否したりしないし、そのほうが月風さんは幸せだろう。でも、一つだけお願いがある。」
「なんだ?」
「この件だけは、ストーカーの件については俺の手で解決させてくれ。頼む。」
俺は頭を下げる
「頭を上げろよ。わかった。ストーカーの件が終わったら俺はお前と入れ替わることにするよ。」
「ああ。それでいい。」
「じゃあ、一つだけアドバイスだ。ためらうなよ?お前は知らないだろうが人間逆上して簡単に人のことを刺してくる。だから、何かあったらためらわずに殴るなり蹴るなりしろ。」
真剣な眼差しで”俺”は告げる。
「わかった。アドバイスありがとう。」
「ああ。じゃあ、頑張っていってこい。」
”俺”がそういうと俺の視点は暗転したのだった。
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