第43話 時渡の代償
俺の名前は陰野 一
極々平凡な大学二年生だ。
これといって取り柄もないし、秀でたものもない。
運動はそれなりにできるし勉強だってある程度はできる。
まさに平凡といった形容が似合う大学生だ。
一つ言うことがあるとすれば友人に恵まれているという事だろうか。
清水 隆介
俺の唯一といっていい親友だ。
いつも笑顔で明るくて一緒にいるだけで元気になれるような奴だ。
あいつとは中学のころから知り合って高校、大学まで一緒。
もう長い付き合いだが、いまだにあいつといて不快に感じたことは無い。
そして、あいつには彼女がいる。
高校の中盤位に三人で海に行ったときに隆介が告白して付き合った彼女がいる。
そいつの名は島崎柚木
俺の幼馴染で幼稚園からずっと一緒にいる。
そんな彼女と俺の親友である隆介が付き合ったのだ。
俺としては心から嬉しいし祝福もしている。
でも、だからこそ俺はおかしく思うのだ。
だってあいつが告白したとき俺のそばにはもう一人いた気がするんだ。
かけてはならないかけがえのない人がいたような気がする。
だが、何度もこのことを隆介や柚木に話したのだがそんな人はいなかった。
と、言われてしまった。俺も確証があるわけではないし彼らの発言を否定することはできなかった。
それに、俺にもそんな人がいたという確証はないため二人がそういうならきっとそうなんだろう。
「そういえば、あの人は元気にしてるんだろうか?」
そう。俺の命を救ってくれた人。
なぜだか知らないが俺に病院に行くことを進めてくれたお姉さん。
今では顔も名前も思い出すことができないが。
今の俺はあの時のお姉さんが声をかけてくれたから生きているといっても過言ではない。
「まあ、考えても無駄かな?」
そう思い俺はもうひと眠りすることにした。
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「じゃあ、一君の家に行ってみよう!」
私はそう思って一君の家に向かって歩みを進めたのだった。
一君の家に向かっているときに私はとあることに気づいたのだった。
私のスマホの中に入っているはずの一君が最後に残した動画が消えていたり、
清水君と柚木ちゃんと撮った写真などのものも全部が消えていた。
まるで、そんなことはもともとなかったかのように。
少し私のなかに焦りの感情が湧いてくる。
「私のことを忘れていたらどうしよう。」
焦りとともに不安がこみあげてくる。
でも、会ってみないと何もわからない。
だから、私は一君の下に向かうのだ。
そうして私は一君の家の前までたどり着いた。
後はインターホンを押すだけ。
それだけで私が3年間ずっと聞きたかった彼の声が聴ける。
でも、その一歩
インターホンを押すというだけの行為なのになぜだか私の指は動かなかった。
押すことが怖かった。
「これを押すだけで彼の声が聴ける。」
「なのに何で、、、、、、」
いや、ここで押さなかったら私が過去に戻った意味が無くなってしまう。
だから、私は何としてでも彼に会わないといけないんだ。
私は覚悟を決めて指を動かし、そのインターホンを押した。
「ピンポーン」
無機質な機械音が響き渡った。
そこから数秒間
あたりには静寂が響き渡った。
この数秒がとても怖かった。
扉の向こう側から足音が聞こえてくる。
そして、扉が開かれる。
「はーい。」
その声は間違いなく私が3年間ずっと聞きたかった声で
涙が出てくる。
「一君。久しぶりだね。」
…………………………………………………………………………………………………
「すいませんが、どちら様ですか?」
残酷にも涼葉が最初に聞いた一の声はそんな言葉だった。
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