第39話 帰らない一とたった一つの願い

 あれから一日たった。


 今日は柚木ちゃんと清水君と一緒に一君のお墓参りに行く日だ。


 一君が亡くなってからちょうど3年目の命日である。



 彼が私のことを助けてくれて亡くなってから3年が経つということだ。


 毎年私たちはこの日に欠かさず3人でお墓参りに行っている。


 きっとこれから先も何があっても変わらないと私は思う。

少なくとも私はきっと通い続けるんだろう。




 私は本で見たことがある。


 曰く、人間の感情は時間が経過するほどに風化していくものだと。


 でも、私の一君が好きって気持ちは3年が経っても風化することはなった。


 なんなら、彼に対する気持ちが大きくなっていくような感じだ。


 風化どころか増している。


 彼の声が聴きたくて仕方がない。


 もう一度。たった一度でもいいから一君の声が聴きたい。

 声を聴いて話したい。


 でも、この願いは3年たった今でも叶うことは無かった。




「おーい。涼葉ちゃーーん?」




 気づけば玄関で柚木ちゃんが叫んでいた。


 かなり深く考えていたみたい。

 柚木ちゃんの声が聞こえなかったようだ。


 身支度はしっかり整えていたのですぐに玄関に向かう。




「ごめん。柚木ちゃん。それに清水君も。」


 急いで玄関に向かって扉をあける。


 すると、いつものように笑いかける二人の友人の顔がそこにはあった。

 三年前から成長こそしているが二人の笑顔は相変わらずまぶしいものだった。




「ああ、気にしないでよ!月風さん。今日はあのバカの命日だ。君が悲しい顔してたらあいつが悲しむしな。」


 私、そんなにひどい顔してたかな?


 でも、清水君がそういうならきっとそうなんだろう。


 気を付けないと。


 清水君の言う通り一君が悲しんじゃう。




「そうそう。一の奴は私に何も言わなかったし、、、、、、」


 柚木ちゃんは少し不機嫌な様子でつぶやく。

 彼女は一君の幼馴染だったからなおさら病気のことを相談されなかったことが今  でも許せないらしい。

 

 正直な話私も許せていない。

 彼の性格上私にためを思ってくれていたのはわかるけど、相談してほしかった。

 今となってはもう全部遅いけどね。


「じゃあ、いこっか。」




「「うん!」」




 二人同時にうなずいた。




 昨日も歩いた道を今日は3人で歩く。


 昨日よりも気持ちが軽い。

 いつも一緒にいる人たちがいるからだろうか。




 少し歩いたら昨日も見た悲願の木が見えてくる。


 悲願の木が見えてきたころから少しずつ私は”あの日”のことを思い出していた。


 一君が最後に私を守ってくれたことに始まり、それまでの日々を思い出していた。

 もっと早くこの気持ちに気づけてたらこんな思いもしなくて済んだのかな?


 そんなことを涼葉は考えるがすべてはもう遅いのだ。




 すぐに3人でお墓に向かう。


 その間、彼の昔の話で少し盛り上がった。

 

 昔の一君を私は知らないので楽しかったし、一君の意外な一面を知ることができた。




「おい。一?見てるか?俺達はそこそこ元気にやってるぜ。お前んとこはどうよ?」




 清水君がお墓に向かって話しかける。


 でも、やっぱり返事は帰ってこない。




「一?私たちもう大学3年生だよ?しかも、私達あと一年で結婚する予定なの。」




 少し涙ぐみながら柚木ちゃんもお墓に語り掛ける。

 やっぱりみんな彼のことを忘れることはできなかったのだと改めて思う。


 それでも、返事は帰ってこない。


 本当なら、




「マジかよっ!お前ら結婚すんの?マジかよ!?絶対式に呼べよな!」




 とか言ってたんだろうなって思う。

 一君のことだ。きっと結婚式のスピーチをやるって言って騒いでいたんだろうなぁ。




「一君。あなたが私を助けてくれてから3年もたっちゃった。こんなこと言っても君には届いてないよね?」




 自分で言っておきながら涙が出てくる。


 そうだ、彼はもういない。


 彼の声が再び聞こえることもない。


 会話することも、遊ぶことも、触れ合うことも。


 何一つできない。




「大丈夫か?月風さん。いや、すまん。大丈夫なわけないよな。」




 そう言って謝る清水君も泣いていた。


 普段めったに涙を見せない清水君が涙を流していた。

 我慢しているようだが瞳からは涙が流れていた。



 やっぱり、毎年笑顔でお墓参りしようとみんなで誓うけど、その誓いが果たされたことは一度だってない。


 みんな悲しくて泣いてしまう。


 私たちは毎年毎年ここに来る途中、今年こそは泣かないとみんなで言ったのに、

 やっぱり結局は泣いてしまうのだ。




「ううん。ごめん。泣いちゃって。」




「いや、私も泣いてるし。」




「俺も泣いちまってるからな。」


 みんなで謝りあう。


 ねえ、返事をしてよ。一君。


 何度でも心でそう願うけど、この3年間果たされたことはない。




 みんなで一君のお墓を後にすると悲願の木に向かう。


 そうしてみんなで昼食を食べる。


 これもいつもの恒例行事。




 でも、今回は柚木ちゃんと清水君に用事があるらしく先に帰ってしまった。


 だから、今回は私が一人残る形になる。




 私は悲願の木の下で一人願う。


 「一君を生き返らせてください。」


 この願いももう何度したかわからない。

 悲願の木といわれているのに私の悲願は一度もかなったことは無い。


 詐欺だよ...

 名前だけなんだな~本当に。


 この木に本当に願いを叶えてくれるのなら私のたった一つの願いを叶えてほしい。

 本当に。


 それ以外は何もいらないから。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る