君に命が戻るなら
第38話 傷跡と希望
一君が亡くなってから約3年が経過した。
今や私も大学生
しかも大学2年生
そこそこの大学に入ってそこそこのキャンパスライフを送っていると自分でも思う。
しかも、この大学は清水君と柚木ちゃんと同じ大学だから安心できるし。
でも、やっぱり一君がいない生活はとても味気ない。
そんな日々をもう三年も送っている。
今でも私は一君のことを忘れられないでいる。
あの時私が太陽君に騙されていなかったら彼はもう少し長く生きることがではないか。そんなことを考えていた時期もあったし、彼の後を追って死のうと考えたこともあるけど、そんなことしたら一君に怒られちゃうよね。
そう思いとどまった。
大学2年もあと2か月とかそこいらだ。
そして2月
3年前に一君が亡くなった月に近くって来た。
毎年この時期になると少し悲しくなる。
いつも”悲願の木の下で私をかばって亡くなった一君の顔を思い出してしまう。”
多分一種のトラウマみたいなものなんだろうなぁ~。
ちなみに一君の直接の死因となった谷山太陽は無期懲役という判決がでた。
ほかにもさまざまな余罪が見つかった結果そうなった。
正直私としては死刑にしてほしかった。
当たり前だ。
いくら余命が短かったとはいえ直接の死の原因を作った相手なのだから。
……………………………………………………………………………………………………
「涼葉も今日やる合コン参加する?」
ある日私の通っている大学の教室でそう声をかけてきたのは小南さんだった。
小南さんはいつも合コンなどを開催している人だ。
少し身長が高くて髪は金髪であり同性の私から見てもスタイルのいいイケてるギャルのような人だ。
私は誰とも付き合う気はないのでいつも断ってるけど。
私は一君以外とはそもそも付き合う気がないので一生独身確定だ。
あの時動画で一君は”呪い”と言っていたがそれは違った。
あの言葉があったから私は今も生きてるしこれから先も精一杯生きようと思えた。
だから、私にとってあの言葉は”呪い”ではなく”希望”だった。
「いつもそういってるけど涼葉彼氏いんの?」
少し不機嫌な様子で私の顔を覗き込んでくる。
正直私はこういった人が苦手だ。
高校のころ小南さんのような人が多く周りにいたがすぐに裏切られた。
その経験からか彼女のようなチャラい人は苦手意識を持ってしまう。
「いないけど。」
こんなこと聞かないでほしい。
本当は私だって最愛の人と付き合ってるはずだった。
でも、それは叶わなかった。
彼は三年前に悲願の木の下で亡くなっている。
でも、こんなことを考えていても一君は帰ってこない。
「じゃあ、今日くらいは顔出してよ。」
高圧的な態度で催促してくる小南さん。
しつこい。かなりしつこい。
私は彼氏というワードに反応してしまってかなり苛立っていた。
「ちょっとみなみん!涼葉虐めちゃだめだよ!」
そう言って駆けつけてきてくれたのは高校時代からの親友である島崎 柚木だった。
彼女は大学でも中心的な存在で彼女を慕っている人も多いし、男子からもかなりモテているらしい。
でも、柚木ちゃんには彼氏がいるから男子たちはことごとく玉砕してるけど...
「はーい。涼葉もごめん。」
柚木ちゃんに言われると簡単に謝り引き下がる。
そんなことなら最初から引き下がってほしいよ。
全く・・・
「ううん。気にしないで。」
ほんとはもうやめてほしいけど。
かなりしつこかったし、
小南さんは私に謝ると小走りで走り去った。
「柚木ちゃん助けてくれてありがと。」
「全然気にしないで!それに涼葉ちゃんには合コンに行く意味がないし、危ないしね。」
私たちの事情を知っている柚木ちゃんはいつも私を助けてくれる。
「ありがと。」
あの事件があって以来清水君と柚木ちゃんは私に気を使ってくれている。
ありがたいが少し申し訳なくなる。
でも、3年たっても彼のことを忘れることはできなかった。
私はそれでもいいと思っている。
私にあんなに優しくしてくれて、何度も私を助けてくれたのは彼しかいないし、彼が居なかったら私はきっとここにいない。
でも、やっぱり彼が最後に残してくれたメッセージは救いであり、呪いであり、傷であり、やはり、希望でもあった。
私はそう思う。
それから数週間
私達大学生は春休みを迎える。
でも、私は特にやることがない。
柚木ちゃんを誘おうにも柚木ちゃんは清水君と予定がいっぱいだそうだし誘いにくい。
だから、私は家でゴロゴロするくらいしかすることがない。
だが、それもすぐに飽きてしまった。
暇なので、というのも変だが私は一君のお墓に向かう。
私は時間ができるといつもここにいる気がする。
やっぱり縛られてるなぁ~私。
でも、一君に縛られるならいっか。
少し気持ち悪いことを考えているうちに私は一君のお墓の前まで来ていた。
「一君。私もうそろそろ大学三年生になるよ?ていうかもう私二十歳なんだよ。びっくりしちゃうよね。もうお酒も飲めるし煙草も吸えるんだよ?吸わないけど。」
お墓に一人でそう話しかける。
お墓は悲願の木の近くにあり、悲願の木はお墓からも見える。
いつもこんな風に一人でお墓に話しかけると返答が帰ってこないかと少し期待してしまう。
こんな風にしていればいつもみたいに一君が声をかけてきてくれて一緒に帰る。
そんなもしもを夢みてしまう。
いきなり、
「久しぶり!涼葉。なんか大人っぽくなった?かわいいよ!」
そんな風に穏やかに笑いかけてきてくれないか?
そんなことを考えながらお墓参りをして早3年。
そんなことが起きたのは一度もない。
わかっていても願わずにはいられないのが人間というものなんだと思う。
ソースは私。
「そんなことありえないか。」
私は心の中で少し残念がっている自分にため息をつきながら悲願の木の下に向かう。
今は3月の中旬
にもかかわらず悲願の木には満開の桜が咲き誇っていた。
まるで自分の存在を主張するかのように。
そろそろ帰ろうかな?
私は悲願の木を立ち去ろうとして私は歩き出した。
その時、後ろから声が聞こえてきたような気がした。
「がんばれ。涼葉。」
いつも聞いていて、私が最も聞きたかった声。
「一君?」
とっさに振り返って彼の名前を呼ぶ。
でも、そこには彼はいなかった。
「いるわけないか。」
私は少し自嘲気味に笑いつぶやいた。
「ありがとう。」
そういって私は帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます