第37話 桜舞い散るその時に
目が覚めると白い天井が目に入ってくる。
俺はナースコールを押して看護師を呼び状況を説明してもらった。
どうやら俺は一か月ほどねむっていたようだ。
なので日付は1月24日
もう少しで1月も終わりこれから二月が始まろうとしている。
そして、俺はもう次の桜を見れるのか怪しいそうだ。
刺されてから寿命は縮まったと聞いてはいたが、まさかここまで早いとは思っていなかった。
看護師さんの説明を聞き終わり、白い壁に囲まれ、静寂が漂う部屋に一人残され考える。
「あと、1か月あるかわからないのか、」
そう考えると少し死ぬのが怖くなってくる。
だが、いつか死ぬ命だった。
それが少し早まっただけかと思うことにした。
終わりが近いことを知らせるために隆介に電話を掛けた。
「もしもし?隆介?」
「おいっ!一!お前一か月も連絡よこさない上に学校にも来ないわ電話しても出ないわ、一体何考えてやがる!!」
「すまん。」
いつにもまして強い口調で隆介は電話越しに聞いてくる。
そのあとすぐに隆介は病院の場所を聞いて駆けつけてきてくれて話の続きをすることになった。
「とりあえず、何か事情があったと思うし、お前が電話かけてきたんだから何か話したいことがあったんだろ?話してみろよ。」
強い口調で問いただしたと思ったら次はやさしい口調で聞いてくる。
「ああ、実は遊園地にみんなで行った日の帰りに涼葉に告白されたんだ。」
「マジか。月風さんなかなかすごいな。」
「で、辛くなって走ってその場から走って逃げたんだ。」
「そりゃそうか。確かにお前からしたら辛い話だよな。お前自身は好きなのにお前の病気のせいで付き合うことはできないからな。」
そういう隆介の目はすごく悲しいような虚しいような目をしていた。
「で、そのあと苦しくなって気づいたら病院にいた。」
「一か月丸々寝てたらしくてな。連絡もできなかった。すまん。」
「そんなことがあったのか。さっきは怒鳴ってすまなかった。」
そういって素直に隆介は頭を下げる。
やっぱりこいつはいい奴だ。昔から非があるときは素直に謝ってくれて、気遣いも忘れない。
「気にしないでくれ。連絡ができなかった俺も悪いからな。」
「それで、俺を呼んだ理由はほかにあるんだろ?何があったんだ?」
やはりこいつはとても鋭い。
「ああ、実は俺、あと2か月生きられるかどうか怪しいらしい。もう全身にあんまり力が入らなくなってきてて、もう立てるかも怪しいんだ。」
「一、それ本気で言ってるのか?」
「ああ。そうらしい。この状況から助かる可能性は0だ。もって三か月らしい。」
「この事まだ全員にかくすのか?」
隆介は今にも泣きだしそうな顔で俺に問いをなげかける。
「そんな顔すんなよ。俺は今までお前たちがいたから幸せだったし感謝もしてる。それにまだ死ぬわけじゃない。」
「そうだな、、、、」
「あと、あいつらにはこのことを言わないでくれ。」
俺は涼葉の重りになりたくないし、最後に彼女が悲しむ姿を見たくないしな。」
「お前、いや、何でもない。お前は昔からそういう奴だったな。わかった。隠しておく。」
「ありがとう。」
「じゃあ、俺はこれくらいで家に帰るよ。またな一。」
隆介はそういって病室の扉をあけて部屋から出る。
それとほぼ同時刻に彼の叫び声?が聞こえてくる。
「えっっ、、、」
……………………………………………………………………………………………………
その声が聞こえたと思ったら、ある人物が病室に入ってきた。
「柚木。」
入ってきたのは隆介の彼女でもある柚木であった。
「隆介。お前が呼んだわけじゃないんだよな?」
少し声のトーンを落として尋ねる。
「そんなわけないだろ!俺がそんなことをするわけがないだろ。」
「まあ、そうだな。で、どうして柚木はここにいるんだ?」
「えっとね、隆介が焦ったような顔して走ってたからついてきてみたの。」
「なるほどな。」
「すまない。一。俺の不注意だった。」
「謝んなよ隆介、こんなこと誰も予想できるわけないだろ。怒っちゃいねぇよ。」
「で、そんなところでおびえてないで俺になんか聞きたいことでもあるんじゃないのか?」
俺がそう問いをなげると柚木は顔をあげて俺に問いをなげる。
「今まで何してたの?涼葉ちゃんすごく心配してたんだよ!」
やはり彼女は友達思いだ。きっとこの二人が一緒だったから今まで頑張ってこれたんだろう。
もうすぐ死ぬからなのか本心を話してもいい気がしていた。
「俺は、涼葉のことが好きだ。」
「じゃあ、なんで逃げたの!!」
柚木は俺に詰め寄りその疑問をぶつける。
「俺はもう死ぬんだよ。」
俺の言葉が静かな病室に響き渡る。
数秒間の沈黙があった。
その沈黙を破ったのは柚木だった。
「どういうこと?私そんなこと聞いてない。あっ、冗談でしょ!もーそういう冗談はやめてよね。二人とも?なんで黙ってるの?」
「柚木これは冗談なんかじゃない。れっきとした事実なんだ。」
苦しそうな顔で隆介は説明してくれる。
「うそ、」
そういって目じりに涙を浮かべる。
「隆介は知ってたの?」
「うん。成り行きで知って、でも、一に誰にも言わないように言われたんだ。」
「一。本当なの?」
「ああ。もう2ヶ月持つか怪しいらしい。もって3ヶ月って言われたよ。」
「そうなんだ。」
そういって暗い顔をする二人
「そんなに暗い顔すんなって。今すぐ死ぬわけじゃないんだからさ。」
「そうだよね!!」
「そうだな。」
「あと、柚木。このことは涼葉には言わないでくれ。」
「なん、」
「柚木。こんな時くらい一の頼みを聞いてやってくれよ。」
「でも、いや、うん。わかった。このことは誰にも言わない。」
「ありがとう。」
この後は俺が眠っていた1ヶ月の話を聞いたり雑談したり、二人は今どんな感じに付き合ってるのか聞いてみたりした。
2時間ほど雑談した後に二人は帰っていった。
「あの二人やっぱりいい感じだな。末永くお幸せに。」
俺の独り言に帰ってくる言葉はなく白い壁に吸い込まれていった。
時が過ぎるのはやはり早いものであれからもう一週間が経過した。
だが、どんどん体には力が入らなくなっていった。
自分に死が迫る感覚はこんなものなのかと恐怖もあり少し新鮮でもあった。
だが、まだ歩くことはできたし、声を出すこともできた。
今のうちにやっておかないと。
そう思って俺はスマホのカメラを起動させる。
……………………………………………………………………………………………………
それからさらに1週間が経過した。
もういろんなところの感覚がマヒしている気がする。
だが、動画は取り終わった。
これ以上することがなくなった。
今はもうバレンタインくらいの時期だろうか。
俺の物語じんせいが終わるのはもう近いのだろう。
よくドラマなんかで自分の死ぬ時期がわかるといっていたが俺は本当だったのだと改めて実感した。
どんどん時は過ぎていくどんどん体は衰えていくのを感じるがまだ歩ける。
そんな時いきなり柚木から電話がかかってきた。
「もしもし?どうした柚木この前隆介と見舞いに来てくれたばかりだろ?」
「いやっ?一もやるなぁ~と思って。」
「何の話だ?」
「いや、涼葉ちゃんを桜の木の下に呼び出したんでしょ?涼葉ちゃんが言ってたよ。」
何の話だ?
「桜の木って何の話だ?」
「え、この町で有名な悲願の木ってところに呼んだんじゃないの?」
「お前は知ってるだろ?俺はもう点滴がないと30分も意識を保てないんだから。」
「え、じゃあ、涼葉ちゃんって、、、」
何かが致命的に不味い気がする。
何かを見をとしているような、
何かを忘れている気がする。
「おい、柚木。」
「なに?一君。」
「”谷山太陽は逮捕されたのか?”」
「いや、されてないと思ったけど、まさか。」
「涼葉が危ない!!」
電話を投げ出し、走り出す。
点滴すらも引きちぎって。
走る走る走る走る
やがて悲願の木にたどり着く。
悲願の木には桜が咲き誇っていた。
その木の下には涼葉がいた。
そして涼葉の背後から谷山太陽が近づいていた。
「涼葉危ない!!」
「えっ。」
谷山太陽は手に包丁を握っておりその包丁を突き出した。
俺は腹部をまたも刺されてしまった。
腹部から血が流れ出る。
だが、俺は何も感じない。
刺されたまま俺は谷山太陽の顔に本気のパンチを叩き込んだ。
案外あっけないもので谷山太陽は簡単に気絶した。
俺はその場に倒れこんだ。
「どうして、一君。」
「久しぶりだな。すず は」
「どうしてまた私をかばって、、、」
「いいん、だ。俺はどうせ、も、う死ぬんだから。」
「どういうこと?」
「はは、そ、んなにゆっくり、はな、すじかんないみたいだ。」
「そんな、うそでしょ!一君!!」
「い、まま、でありが、とうす、ずは」
……………………………………………………………………………………………………
そう言って一君は目を閉じた。
一君は私を助け、満開の桜の木、悲願の木の下でその物語じんせいを終えた。
そのあとはすぐに警察が駆けつけてきて太陽君は逮捕され、一君は病院に緊急搬送されたが病院で死亡が確認された。
もともと一君は長くなかったらしい。
不治の病ってやつだそうだ。
この日から私は家から一歩も出ていない。
出たくなかった。
一君は私のせいで死んだ。
そう考えるたびに自責の念がこみあげてくる。
あの事件から三日がたち家に柚木ちゃんと清水君がやってきた。
二人はどうやら一君の病気のことを知っていたようだ。
だが、一君の意志によって誰にも言えなかったそうだ。
でも、そんなことを聞いても一君は戻ってこない。
大好きな人はもう戻ってこない。あの声を聴くことができない。
なんであの時一君が逃げたのかももう知ることはできない。
あれからあの二人が何かを話していたが全く聞いてはいなかった。
柚木ちゃんから動画が送られてきた。
私はそれを開いてみる。
……………………………………………………………………するとそこには。
「あー聞こえてるかな?聞こえてると信じて話すよ。」
そこにいたのは紛れもない私の最愛の人、もう聞くことがないと思っていた声だった。
「まあ、この動画を見てるってことは俺が死んでるということだね。まずはこの病気のことを話さなくてごめん。許してとは言えないね。」
そういう一君は困ったように笑ってた。
「君と出会ってからの約一年楽しいことばっかりだった。中学のころは虐められてたし、そのころには寿命宣告受けてたからいろんなことがどうでもよくてさ。でも、君と出会ってから毎日が楽しかった。本当にありがとう。キャンプ行ったり海行ったりしていろんな思い出ができた。
ありがとう。
あと、この動画の続きを見るなら覚悟してみてくれ。きっとこの先の動画は君にとっての呪いになってしまう。できれば見ないでほしいけど。俺が死んでも君には支えてくれる人がいると思う。だから、続きを見るときは信用できる人と一緒に見てくれ。」
そういう一君の顔は悲しいような、寂しいような何とも言えない顔をしていた。
そのあと、私は柚木ちゃんを家に呼んで一緒に動画を見てもらうことにした。
「じゃあ、つけるよ?涼葉ちゃん。」
「うん。お願い。」
「これを見てるってことは覚悟してるってことだよね。じゃあ、最初に言わせてもらうよ。
俺は君のことが好きだ。だが、こんな体だ、付き合ったとしても俺はすぐに死んでしまう。
だからあの時逃げたんだ。君を傷つけてすまない。それに、いつも君は俺に助けられてるっていうけど俺のほうが本当は助けられてたんだ。君はいつも俺に笑顔をくれた。君のおかげで残り少ない人生を楽しもうと思えたし君が好きだからいくら自分が傷ついてもなにも思わなかった。
だから、本当に今までありがとう。それから最後に君にこんなことを言ってすまない。
この動画が君にとっての呪いにならないことを祈ってる。」
ここで動画は終わったいた。
気づけば私は目から涙が流れていた。
この少し後に彼の葬式が行われた。
私は一人で悲願の木の下に来ていた。
あの事件からすでに三年が経過していた。
「一君。私頑張るからこの木の上で見守っててね。」
その瞬間風が巻き起こる。
その風で桜が舞い散る。
その瞬間確かに一君が見えた。
そして一言
「がんばれ」
彼はそういっていたような気がする。
彼は、自称ボッチ陰キャは悲願の木の下で私を救ったのだった。
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