第5話 君の会社に用がある(中)
「仮にもあなたの会社ってライバル会社の位置になるわよね。」
「まあ、そうだね。」
「なんでライバル会社社長がわざわざわうちの会社まで来るのかしら。」
「知りたい?」
「………。」
私はちらっと時計をみた。お昼休憩も残すところそんなに時間がない。今から食べ終わるまでの時間を計算すると、そんなに悠長に話している時間は無さそうだ。
「やっぱりいいわ。興味ないから。」
「そんなに興味ありそうな顔して?」
「そんな顔してないわよ。」
「どうだか。」
クスクスと楽しそうに笑っているつばささん。
「いいよ、親切なつばさ社長が君だけに特別教えてあげよう。」
「だからいいって言っているじゃないの。」
「口先ではね。」
「………。」
これ以上言っても無駄だ、私は口をつぐんだ。何が面白いのかは分からないがつばささんは先ほど以上にクスクスと笑っている。
「実はね、君の会社と業務提携しようと思っているんだ。いうなれば共闘って感じ?」
「共闘?」
「うん。近々海外から大きな会社が日本進出をしようとしている、って情報があるんだ。まだ確定じゃないけど、それっぽい会社が来るのは本当らしい。まずは偵察だろうけど。私の会社だけでも負ける気はしないけど、君の会社だと確実に負ける。だから共闘って形を取って、一旦協力する。そして進出を食い止めることが目的。」
うちの会社が負けるって…。はっきり言ったわねこの人。
「随分とはっきりした物言いね。」
「まあ事実だからね。社員の数や質、取引先の量と規模、その他もろもろ加味して冷静に判断した結果だよ。」
それを語るつばささんの表情はいつものふざけたものではなく、『社長』の顔をしていた。
「ってのは建前で。」
「は?」
「君と一緒に働いてみたいから、かな。」
「嘘ね。そんな私利私欲の目的で会社を使うわけないでしょう。私だったら絶対にしないわ。」
「沙織さんならね。でも私だったらするかもよ。」
「そうやって今まで何人の女の子を口説いて来たの?」
「んー……。」
つばささんは指を折っていく
「ごめん、両手じゃ足りないや。」
「でしょうね。」
とは言ったものの、業務提携の持ち掛けってうちの会社の社長がまずは反発しそうな内容ねえ。あっちの会社はともかくうちの会社は確実につばささんの会社に敵意むき出しだろうから。
「うちの会社が『はい分かりました』って承諾するとは思えないけど。」
「んーそれは大丈夫だと思う。これでも人を口説くのは得意だから。」
それは自信満々にいう事なのかしら。
「それはどうかしらね。」
「まあ、沙織さんみたいな難攻不落の城っぽい人もいるからねえ。」
「何よ、その言い方。」
「ふふっ。事実。」
ちらりと時計に目をやるつばささん。
「さて、お互い食べ終わったし、時間も良い頃合だね。君の会社まで案内してくれるかな。」
つばささんは立ち上がった。
「しょうがないわね。」
「とか言いながら嬉しいんでしょう?」
「そんなわけないわよ。貴女とこうして喋っている間に本来なら2~3件の仕事は片付けられたわ。」
「まあまあ、私の会社と提携すればその抱えすぎな仕事の量もなんとかなるかもよ。」
「私は逆に増えそうな気がするけれど。」
「あははっ。沙織さん請け負っちゃう性格だもんね。でも安心して。」
つばささんはドアを開けてカフェから出る私をエスコートする。
「私、好きになった子には最高の環境を提供する派なので。」
「そういう口説き文句は遊びじゃなくて本当に好きになった子にして頂戴。」
「うーん、沙織さんの事なんだけどなあ。」
「はいはい。」
またそんな冗談言って。そう思いながら私は彼女と並んで職場へと向かった。
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