第4話 君の会社に用がある(上)

「八雲さん、これお願いしてもいいですか?」

……また仕事増やしてきて…この人は。

「八雲先輩!どうしましょう。やり方が分からなくて。」

……この前言ったじゃないの。何度言えばいいの。

「八雲さんこのお休みって変わってくれたり出来ないかな?親戚の結婚式があって。」

……もっと前から言いなさい。

「八雲さん、これどうしたらいいですか?」

……私以外にも聞ける人いるでしょうが!そこにも!そこにも!

「八雲さん、すごい顔してますけど、お昼休憩どうします?私たちは近くの店でランチしようかなーと思って!良かったら一緒に!」

……今までのやり取り見てた?この仕事量で悠長にランチ取ってたら残業確定よ。


私は出来る限りの笑顔を作る。


「大丈夫、ちょっと仕事が立て込んでいるので今日はコンビニでサクっと済ませます。」



はぁああああ…。化粧室で大きなため息が出る。この仕事量尋常じゃない。繁忙期なのもあるが、それだけじゃないような気がする。とりあえず、軽く化粧直して、職場のビルの一階に入ってるコンビニに寄って、昼食を買ったらさっさと食べて仕事を片付けないと。


頭の中で仕事の優先順位を考えながらコンビニに向かう。


「えっと…。」


レジが滅茶苦茶混んでいる。そうか、最近会社の近くで工事が始まるって聞いたような気がする。その工事の人たちもここのコンビニにお昼ご飯を買いに来ているのか。


あれ、ちょっとまって。そういうことならお昼ご飯になりそうなものも品薄だったり……


「あー…やっぱり。」


棚は見事にほぼ空になっていた。残っているのは今の気分ではないものばかり。どうしようか。飲み物だけで飲み切ろうか。


そんなことを考えていたところだった。


「あれ、沙織さん。偶然だね。」


振り向くとそこにいたのはつばささんだった。


「そうね。」


つばささんは私をじっと見ると、フッと笑った。


「ねえ、沙織さん。お昼休憩は何時まで?」

「何?」

「いいから教えて。」

「13時までよ。」

「了解。じゃあ、あと40分はあるね。じゃあ、行こうか。」

「は?ちょっと、何?」

「お昼ご飯御馳走するよ。最近うちの会社にも入ったカフェなんだけど、この近くにも店舗があってね。美味しいんだー。」


つばささんは私の手を取ると歩き出した。


「ちょっと待ちなさいよ。」

「時間がもったいないから無理。」

「仕事が立て込んでいるのよ。食べながら片付けないといけないの。」

「休憩はしっかり休まないと仕事の効率落ちるよ。」

「そんな悠長なことは言ってられないの。離して。」

「仕事に大事なのは『余裕』だよ。沙織さん。」


つばささんは私の腕を離すことなく歩いていく。


「そんなこと言ってもねえ。」

「さてついた。」


つばささんが手を離す。

そこには洒落たカフェがあった。つばささんはそこのカフェ店員と顔見知りなのか、それとも店員が彼女に惚れているのか、あれよあれよという間に席に案内されてサービスでドリンクが出てきた。


「さて、どれが食べたい?私のお勧めはこれ。」


つばささんがメニュー表を指す。そこには野菜とサーモンが入っているサンドだった。


「多分好きだと思うよ。」

「……根拠は?」

「さっきの会話から仕事で疲れている、仕事には早く戻らないといけない、だから食べやすくて手ごろなサンドイッチ系が良さそうだし、顔色が良くないから野菜等がしっかりとれるものの方がいい、あと今出してくれたサービスのドリンクと一番相性がいいのがこれだったから。」

「………。じゃあそれで。」

「今日は素直だね。」


つばささんは、うん、と頷くと店員に注文をしてくれた。


「それで、貴女はどうしてコンビニにいたの?近くで仕事でもあったの?」

「あったというか、これから『ある』んだよねえ。」


なるほど、つまり仕事前にコンビニに寄ってたってことね。


「へえ。」


私はドリンクを口に含んだ。


「まあ、用があるのは沙織さんの会社なんだけどね。」


はい?


吹き出すかと思った。私はつばささんの顔をみた。

彼女は楽しそうにニコニコと笑っている。



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