恋人

永久賞味期限

恋人

「私と付き合ってください!」


 小学校の時から学校が一緒の幼馴染に告白され、俺は戸惑っていた。


 彼女は、俺と会うと必ず話しかけてきたし、何にも用がない時も手を振ってきた。なので、自然と彼女の好意に気づいていたが、高校2年の夏、なぜこのタイミングで告白してきたのかわからない。


 そんなことを考えつつ、俺は彼女の告白に返事をすると、その子は弾けた笑顔を見せた。よほど緊張していたのか、喜びながら涙が溢れていた。


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 その夜、彼女からこんなメールが来た。


『私のこといつから好きだったの?』


「いつから」というのは前提が勝手に決められている気がするが、これだけ長いこと近くにいて、告白をOKしたので不自然ではないのだろう。そして俺は大体の時期を送った。


『ん〜、中学の時ぐらいかな。』


 その答えに彼女は、


「あ〜、私が一番アタックしてた時期だ!』


 と、確かにそんな気もしてきたので肯定の言葉を送った。


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 次の日の学校での休み時間。


 彼女とは同じクラスというのもあり、休み時間はよく話す仲になった。いつものように話していると、こんな話題になった。


「初デート、どこ行こっか。」


 とてもウキウキになっている彼女の問いに俺は、


「映画とかいきたい。みたい作品あるんだよね〜。」


 すると、俺の回答に彼女は納得したのか、元気な声で、


「いいね!ザ、デートって感じで楽しそう!」


 と、とても嬉しそうだった。


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 デート当日。


 俺は普段外出する時の服を着て待ち合わせ場所にきた。すると、早くきたのか彼女がおしゃれな姿で待っていた。その服装があまりにも似合っていたのでつい、


「その服かわいいね。」


 と、褒め言葉から会話が始まってしまった。その言葉が嬉しかったのか、彼女は一瞬ほっと息をつくと、


「ありがとう!」


 と、満面の笑みで微笑んだ。


 そのあと二人でカップルは半額というイベントがされていたペアポップコーンを買い、映画館へ入った。


 上映中、彼女が手を繋いできたので、ポップコーンを片方の手で取る羽目になった。

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 映画終わり


 近くのカフェテリアで、映画の感想を言い合ったりして、時間を潰した。ドリンクは、彼女は紅茶で、俺はコーヒーを頼んだ。好きなものが違ったため、喧嘩になるのかと思いきや、好きなところを言い合ったりして共感し合った。彼女の俺への想いは本物らしい。




 帰り、俺たちはホテルに行くことになった。彼女は初めてだったらしく、その手つきはぎこちなく、とても興奮した。


 その夜、何度も何度も愛し合った。行為中、俺は彼女のことをたくさん可愛がった。


「かわいい。」


 というと、彼女は手で顔を隠したが、手の隙間から見える肌が赤く染まっているのが分かった。


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 それから、学校帰りに彼女の家で毎日した。俺が頻度を減らすと、彼女は求めてきた。


 週に一度のデートは必ず行った。


 俺はこの関係に慣れてきた。


 これが恋人かと、実感した。彼女のことを、ちゃんと愛せていると思った。


 これが愛だと、そう思った。


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 彼女と付き合って、1年が経過した。受験というのもあってか、することは少なくなっていった。


 デートも一ヶ月に一回になり、会う回数が減ったが、想いが無くなったわけではない。毎日メールのやり取りはしているし、文章を見るにあの頃の熱はまだまだ健在のようだ。




 その日は、彼女の家で手料理を作ってくれるらしいので、久しぶりに会うというのもあってか、少しウキウキしていた。


 玄関に入ると、彼女は笑顔で出迎えてくれ、ハグもした。


 手土産として、彼女が初デートの時に好きと言っていたコーヒーを持参した。

 それを渡すと、彼女は一瞬びっくりしていたが、嬉しそうに


「ありがとう!」


 と言った。どうやらお気に召したようだ。これだけ長いこと付き合っていると、彼女のことは手にとるように分かった。




 彼女が作ってくれたのは、肉じゃがだった。一口食べると、程よい塩加減がとてもおいしく思えた。俺はお礼の意味を込め、彼女に感想を伝えた。


「ん〜、美味しい!」


 彼女は終始ご満悦そうに微笑んでいた。


 俺は雑談がてら質問した。


「今日親は?」


 と、彼女は少し間を置いて。


「今日は両方とも残業だって。帰ってくるの深夜とかになりそう。それがどうかしたの?」


 俺は特に意味がなかったので、曖昧に答えた。


「いや、まあ、なんとなく。」


 なんだか嫌な予感がしたので、話を変えるために部屋を見渡した。すると、一つの花が目に入った。俺はとっさに、


「あの白い花ってなんていう名前?」


 と聞くと、彼女は、


「ああ、あれはゼラニウムっていう花だよ。」


 俺は特に興味がなかったが、話題を広げるために質問をした。


「なんか花言葉とか合ったりするの?」


 彼女は悩んでいるのか、しばらく沈黙が続くと、彼女はこう答えた。


「ゼラニウムの花言葉は、信頼。」


 それを聞くと、俺は脳死で答えた。


「へえ、今の俺たちみたいだね。」


 と、彼女は微笑んだ。


 そして、何かを思い出したのか彼女は冷蔵庫へ向かうと、


「この間親戚にたくさんみかんジュースもらっちゃってさー。つぶつぶ入ってるけど飲む?」


 と聞いてきた。肉じゃがを食べていて、合わないだろと思ったが、水分が欲しかったので受け取ることにした。


 彼女は床に座ると、みかんジュースの入った容器を俺の方に置いた。俺はありがとうと伝え、蓋を開けようとした。すると、


「振って!」


 と、彼女がいきなり叫ぶので驚いた。一瞬なんのことかわからなかったが、みかんジュースを振ってから飲んでということに気づき数回振ったが、彼女は頷くどころか次から次へと涙を流した。


 俺が何度振っても、彼女が頷くことはなかった。

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