第36話 接戦の戦い
やはりと言うべきか、俺と黒嶺の間に決定的な実力差が見えない。
あの時の戦闘によって、ある程度の攻撃パターンや癖を見つける事はできた。
その事により、黒嶺の攻撃を一方的に受ける事も苦戦もない。
それでも、お互いの力は似た者同士。
このままインファイトに持ち込んでも、勝負を付ける決定打はない。
もし黒嶺が太刀を出した時、俺は対抗する武器はない。
いや違う。
対抗する物はあるが、あれを使ってしまえば俺は壊れるだろう。
その可能性がある内はまだ使えない。
「おいおいどうした魔王よ? さっきから近付いたり離れてばっかりだぞ?」
黒嶺は俺に手招きの様な事をしてくる。
実に下らない挑発だ。
まぁ黒嶺が言う事にも一理はある。
一つの戦術として、今のヒットアンドアウェイがある。
しかし、それでは中々有効打にならないのも事実。
黒嶺は俺より戦闘経験はない。
それでも俺と互角以上に戦っている。
それは彼奴の戦闘能力──センスが高いからできる事。
つくづくムカつく野郎だ。
彼奴は昔から全て器用にこなしてきた。
と、少し考えていた時、黒嶺が提案をしてきた。
その提案はこの勝負の結末を左右する物。
「やめだやめ。このまま肉弾戦をしても勝敗は付かない。だから、魔法合戦と行こうぜ!」
魔法合戦、この勝負の結末を左右する。
そして俺が負ける可能性が高い──戦い方だ。
でも、俺はこの提案を受け入れるしかない。
このまま意味のない長期戦をしても、無駄なだけだ。
だったら俺は賭けに出る。
黒嶺の奴、魔法が使えるのか? まぁ俺に吹っ掛けるくらいだ、相当な自信があるだろう。
俺は擬似魔法を放とうと、準備をしていた。
だが、その時、俺の中である事が引っ掛かる。
こいつがこんな意図も簡単に、俺に勝つ可能性がある事を提案してくるとは思えない。
もしも俺の方が魔法を得意と考えても不思議ではない。
もし、俺が彼奴ならば……。
「……馬鹿がよ! 俺が魔法合戦に付き合う訳ないだろう?」
黒嶺は意気揚々にいい。
俺との距離を詰め、何もない空間から太刀を取り出した。
そして──そのまま振り下ろす。
太刀が振り切られる前に、黒嶺の右手を掴み、もう片方の手で簡易的な発勁を放つ。
黒嶺は数メートル吹き飛び、太刀を地面に落とす。
俺はその太刀を拾い上げ、黒嶺に視線を送る。
「お前ならば魔法ではなく、不意打ちとして太刀で攻撃するだろ? 俺がお前の立場なら同じ事をした。なぁ腹黒野郎」
「ぶっ殺してやるよ!」
黒嶺は怒りを露わにし、クロスレンジの距離に侵入し、強烈な拳を出してくる。
俺は一歩──後に下がり、黒嶺の拳を躱す。
黒嶺の拳は空を切ると、同時に風圧が遅い掛かってくる。
黒嶺は次の攻撃を繰り出そうとするが、俺はそれより先に太刀を振り降ろす。
黒嶺の肩から腰まで切り裂く。
血飛沫が俺に掛かる。
相変わらず、この太刀はとんでもない威力だ。
これで斬られると、考えたらとゾッとする。
まずそもそもこんな太刀、俺は異世界でも見た事がない。
偉大なる神の代物か? だとしたら合点が行くか。
次の刹那、黒嶺が太刀を、握っている手を掴んでくる。
そのまま奪い取ろうと力を入れる。
俺はその手を振り切り、蹴り上げる。
俺の蹴りが黒嶺の顎に直撃し、膝を付く。
トドメを刺そうと太刀を振り上げた。
その瞬間、俺の脇腹に強烈な痛みが走る。
脇腹の方を見ると、魔素を消し去る刃物が刺さっている。
俺はこの刃物に刺される運命でもあるのか? と、他愛のない事を考えていた。
次は頬に鋭い痛みが走り、俺は吹き飛ぶ。
地面にバウンドはしなかったが、倒れ込む。
意識外の攻撃の為、俺は太刀を落としてしまう。
再び、黒嶺の手に太刀が握られる。
脇腹に刺さっている刃物に集中していたから、奴の拳に全く気づけなかった。
なるべく攻撃を喰らわない様にしていたが、結構な威力の殴打を貰った。
これ以上貰ったりすると、流石に死ぬ。
なるべくダメージを貰わない様に、戦う戦術をしないと。
俺は脇腹に刺さっている刃物を抜き、黒嶺と向き合う。
「魔王どうした? お前の実力はその程度か?」
言ってくれるね、この程度で終わる程。
まだ弱くなっていない、
刃物を強く握り……地を蹴りる。
今度は俺がクロスレンジに侵入し、刃物を首元に逸らそうとする。
カキーンと刃物同士が当たる音がする。
俺の刃物は黒嶺の太刀により、防がられる。
すぐさまに前蹴りをし、直後、後ろ回し蹴りをする。
黒嶺に見事当たる。
次の瞬間、黒嶺から強力なエネルギーを感じ取れた。
直後、黒嶺がエネルギー波を放出する。
ほぼゼロ距離で……これ直撃したら必ず死ぬ。
やばいな──でもこの程度では意味ない。
エネルギー波は俺に直撃する。
「なんでお前、無傷何だ!?」
黒嶺が驚愕をしていた。
束の間──黒嶺の体に無数の斬撃が襲う。
黒嶺と初めて対戦をした時の俺の様に、致死量に近い血飛沫が舞う。
「これが理由さ。もうお前では俺に勝てない」
別にこれは慢心でも何でもない。
これは黒嶺に対する最強の対抗策であり、諸刃の剣。
もし一つでも原理を理解でもされたら、俺はこの戦いは完全敗北する。
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