第35話 再戦

 黒嶺は電柱にもたれ掛かりながら、立ち上がる。

 直後、雷鳴の速さで俺に近付き、拳を振ってくる。

 怒り任せの攻撃の為、意図も簡単に避ける事ができた。

 俺はスライドステップし、カウンター気味に拳を振り被る。

 再び黒嶺の横面を捉えると同時に、腹部に膝蹴りを叩き込む。

 次の瞬間、黒嶺の顔が歪む。

 俺はその隙を見逃さず、頭目掛けて鉄槌を振う。

 鈍い音が周囲に響く。

 黒嶺は横にバタッと倒れる。

 あまりにも手応えがあり過ぎる。

 最初にこっちが奇襲で不意打ちをしたとは、いえあまりにもでき過ぎている。

 こいつわざと、俺の攻撃をガードせずに喰らった。

 と、少し疑問の中で確信をする。

 その時、黒嶺がバッと立ち上がると、同時に周囲から様々な声が聞こえる。

 俺は声がする方に視線を向けると。

 さっきまでいなかったのに人々が集まっている。

 まるで烏合の衆だな。


「どうした魔王よ! 怖気付いたか?」

「自惚れるな」


 黒嶺は拳を振ってくるが、カウンターで殴る。

 黒嶺の拳は当たる直前で俺の拳がさっきに当たる。

 黒嶺は一歩──後方に下がり、一丁前に構えていた。

 こいつ一体何が狙いだ? 何故躱せる攻撃をわざわざ受ける? 到底理解ができない。

 次の刹那、黒嶺の蹴りが飛んでくる。

 俺は黒嶺の蹴りに対して右の蹴りを合わせ、お互いの蹴りが交差する。

 くそ、足が少しも動く気配がない。

 だとするならば……。

 黒嶺の顔面目掛けて頭突きをした。

 黒嶺は予想外の行動の為か──それともわざとなのか。

 直撃する。

 再び訪れた好機だと思い、連打や蹴りを混ぜ、黒嶺にダメージを与える。

 黒嶺は避ける事も防ぐ事もない。

 何だか拍子抜けだなと思っていた。

 だが、その中で俺はひっそりと嫌な予感を感じとる。

 次の刹那、嫌な予感が的中する様に鋭い拳が俺に飛んでくる。

 俺は顔を横に傾け、直撃は免れたが、頬から血が滴れる感覚がする。


「ちっ! 全然当たらんなくそめ」

「そんなの当たる訳ねぇだろ!」


 俺は黒嶺の言葉に強気でいるが、さっきのまぐれに過ぎない。

 もし嫌な予感を考えていなかったら、俺は今の一撃をもろに喰らっていただろう。

 そう考えると少し恐怖感を覚える。

 ……それでもこのヒリヒリ感。

 命の取り合いの緊張感──やっぱ戦闘はたまんねぇな! 次の瞬間。

 黒嶺は大きく後方に下がった。

 彼奴急に後方に下がりやがって、ノーモーションの殴りを、叩き込もうと思った。

 もしかして俺の狙いに気付いたのか? それならばあんな大きく、後方に下がるのは合点がいく。


「流石は魔王か!」

「あ? さっきから喧嘩でも売ってんのか?」


 黒嶺の言葉に見物客になっている人間達が、騒ぎ始めた。


「え? あれが魔王?」

「だとするならばこっちの兄ちゃんが、魔王を撃退した勇者か」


 ああ、本当にめんどくさい事が起きたな。

 それに完全に対立した──俺が魔王で、黒嶺が勇者。

 魔王を撃退した勇者か、琴音が見せた映像とも合点がいく。

 まぁこれはこれで面白い。

 元勇者の俺が魔王認定され、現代の勇者と対面している。

 あれ? じゃあ琴音はどうなるんだ? と頭を悩ませていたら、俺の耳に怒声に近い声が響く。

「前見て危ない!」

 俺は自然と下を見ていたが、一つの声の通り。

 前を向くと、黒嶺が蹴りのモーションをしていた。

 あ、これをまともに喰らえば、ひとたまりもないな。

 俺は何故か、不思議なくらい冷静でいた。

 身を翻し、黒嶺の蹴りを間一髪で避ける。

 何とか避けれたけど、声がなかったら避けれなかった。

 つうかあの声、琴音だろ! 琴音をメディア探している途中。

 黒嶺が突拍子もない事を言ってくる。


「お前琴音とはどういう関係だ?」

「は? いきなり何だお前? 勇者様は世間話をする程、余裕なんだな!」


 俺は黒嶺を煽るが全く動じない。

 その中で俺は黒嶺の言葉の意図が、分からなかった。

 俺と琴音の関係性はこいつは知っている。

 それなのに一々聞いてくる意味。


「俺を煽っても無意味だ。それにお前と琴音はただの先輩、後輩の関係ではない。お前琴音の事好きだろう?」


 黒嶺は意味不明な事をニヤニヤしながら言う。

 俺はその発言に真顔でいると思う。

 それ程、黒嶺の発言は不思議であり、意味不明。

 とはいえ、言葉を返さなければ、俺が琴音を好きという話しで進められる。

 いや面倒臭いからそれでもいいのか。

 だが、あのニヤニヤした顔だけは、陥没するくらい殴ってやりたい。

 だけど、簡単にそれはできない。

 そこが一番腹立つな所だ。

 このまま殴打で進めるか? それとも蹴りか。

 今の所、俺も彼奴も本気ではやってない。

 異能とオーラはまだ完全には使えない。

 思っていたより体のダメージは深い、

 だけど、それを言い訳にする程、俺も落ちぶれてはない。

 この状態でも俺は黒嶺を倒す。

 俺は前進し、黒嶺にタックル気味でぶつかる。

 黒嶺は真正面から受け止め、俺に肘打ちをしてくる。

 片手を離し、その肘を受け止める。

 このままタックルの態勢ではダメだ。

 それにしてもこいつの体、岩みたいに動かない。

 一旦離れた方がいいな──俺は黒嶺の足をしつこく蹴る。

 次の瞬間、黒嶺の大振りの攻撃がくる。

 それを機に一旦距離を空ける。

 このまま態勢が悪いままインファイトしても、俺が不利なだけだ。










  

 















 

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