第34話 奇襲

 俺達は廃墟を出て──外に出る。

 陽が眩しく思わず、俺は手を前に出し顔を隠す様にした。

 その時、琴音が笑いながら俺に言う。


「あんな薄暗い場所に、何日もいれば眩しくはなりますよ?」

「ん? 何日も? 俺は一体どのくらい居ったんだ?」

「正確には分かりませんが、私が先輩を探し見つけるのに3日は掛かりました!」


 琴音は「大変だったんですからね!」と俺に文句を言いながら、何故か安堵の表情をしていた。

 その顔を見て、俺の頬は自然と緩む。

 すぐさまに気付き、手で口元を覆う。

 琴音の方を見るとニヤニヤしながら、こちらを見ていた。

 見られてはいけない奴に見られたな。

 その時、俺の頭にある疑問が過ぎる。

  琴音はまず黒嶺の場所を知っているのか? 俺が案内しろと言った時は応答をしたが。

 実際はどうなんだろう? と、俺は疑問と同時に不安感に襲われる。

 次の瞬間、琴音は俺に物を二つ渡してきた。

 俺が何だこれ? と頭を悩ませている時、琴音が口を開く。


「今手渡した内の一つはトランシーバーです。そしてもう一つはインカムです」


 あれ? トランシーバーとインカムって一緒じゃ……と、思ったが黙っとこう。

 いや待ってそんな事より一番大事な事……


「なんでお前がこんな無線機とか持ってる訳!?」


 俺は琴音に疑問をぶつけた。

 その時、俺と琴音は目を合わせていたが、琴音はすぐそっぽを向く。

 そのまま遠い所を見ながら呟く。


「知らなくてもいい事があるんですよ?」

「とぼけんな、いいから教えろ。なんでお前がこんな無線機を持っているんだ?」


 俺の問いに琴音は諦めたのか、素直に答えた。

 こいつ頑固やけど、基本素直でいい子なんだよな。

 と、意味のない事を考えていた。


「これは私の私物じゃないです! お兄ちゃんの物です!」


 琴音にすごい勢いで捲し立てられた。

 琴音はまだ何かぶつぶつと言っている。

 声があまりにも小さい為、一切聞こえない。


「もう分かったから。この二つでどうするんだ?」

「私が彼奴を誘き出すので、先輩は隙を見てこっちに来て下さい」

「は? トランシーバーもインカムも通信機だろ! 居場所が分かる訳でもない」


 俺の言葉に琴音はニヤリとし、トランシーバーを操作する。

 次の瞬間、トランシーバーの画面にマップが映された。


「これで居場所が分かりますね!」


 琴音は淡々と言う。

 だが、俺の頭にはクエスチョンマークは出ている。

 え? こいつ今どうやった? それよりトランシーバーでマップって映る!?


「まぁ詳しい理由は知らないんですが、私の兄が魔改造して、GPS型のトランシーバーになっています」


 いやそれ、もはや才能の無駄つがいだろ? それにお前の兄貴、ストーカーのプロか何か? と内心で思った。

 口に出すとややこしくなると、思ったからことばにはしない。


「それじゃあ私、行ってきますね!」


 琴音は歩み進め、徐々に走り去り、ギリギリ目視できる程の距離。

 そこで琴音は止まり手を振ってくる。

 次の瞬間、俺の手にあるトランシーバーから音がした。

 見ると、画面のマップに緑色の丸が映っており、それが徐々に進んでいく。

 この丸が琴音が所在地って事か。

 GPSは分かったが、これどうやって通信するんだ? と考えていた瞬間。

 次はインカムから音がなり──急いで耳元に付ける。

 ズズズっと音がすると同時に、琴音の声が聞こえた。

 俺に二つ渡した意味って、トランシーバーはGPS。

 インカムは通信機って事ね。

 結構彼奴も凝った事をしているな。


「ねぇそこで何をしているのクロム君」


 聞き慣れた声が背後から聞こえ、俺は背を振り向く。

 そこにはジャンヌが立っていた。

 相変わらずな様子と思ったが、俺は違和感を覚える。

 顔は笑っているが、目だけは笑っていない。

 それに目の光がない。


「俺に何か用か?」

「ボクが聞いているんだよ?」


 ジャンヌは変わらず笑っている。

 それでもジャンヌから圧力が感じる。

 多分、黒嶺とジャンヌはグルと見ていいだろう。

 もし俺の予想が的中するならば、俺の事を消しにきたか。

 もしそうだとするならば、少しきついな。

 黒嶺との戦闘の前になるべく体力を減らしたくない。

 さぁ一体どうした物か。


「クロム君。悪い事は言わないからあの子と、関わるのはやめな!」


 あの子? 琴音の事か? そうだとするならば、こいつはどこまで知っている?


「私は神秘な神の使い。全てを知っている」


 ジャンヌの言葉に俺は考えるより、さっきに声を出していた。


「どいつもこいつも神の使い……使いってうるせぇ、神秘な神も偉大なる神とか。俺に一体何の用だよ!」

「君が魔王にならなければ良かった。折角神の加護を……」


 ジャンヌの声は途中から、ボソボソとなった。

 俺はその様子に苛立ちが隠せず、ジャンヌの胸ぐらを掴む。


「一々うるせぇ。俺が誰と関わろうとお前に関係ない!」


 俺の言葉にジャンヌから負のオーラを感じる。

 思わず俺はジャンヌから手を離し、一歩後ろに下がる。

 次の瞬間、ジャンヌは狂った様に独り言を呟いている。


「ボクは君の為に動いて、加護も上げたのに」

「お前から俺は加護なんか受けっとていない」


 実際は分からない。

 俺がちょくちょく夢で過去を見る事、それに神の干渉。

 もしそれが加護ならば貰っているだろう。

 まぁそんな事はどうでもいい。

 と、考えを切り捨てた時、インカムとトランシーバーから音がする。


「先輩聞こえますか? 今黒嶺を誘き出しました」


 俺はその言葉を聞き、トランシーバーを見る。

 正確な場所は分からないが、学校の近くっていうのは分かった。

 今度は何処にいる? あの空き地か? それとも校門を少し離れた場所。

 どちらにせよ、今すぐぶっ殺しに行ってやる。

 俺はトランシーバーを握り、地を蹴る。

 ジャンヌの横を通り過ぎる。

 直後、俺は速度を増し、全力で走る。

 数分ともしない内に、校門を目にした。

 トランシーバーの丸はここより、もう少しさっきだった。

 俺はトランシーバーの丸目掛けて走る。

 ひたすら走っていると街中に出る。

 すると、そこには少し距離が離れているが、俺の視線上に琴音と黒嶺がいる。

 俺は極力と自然に気配を消し、黒嶺の横に立つ。

 直後、琴音は俺の存在に気付く。

 反対に黒嶺は全く気付いていない。

 その隙だらけの横面に、トランシーバーを握っている手で殴る。

 パリンとトランシーバーは壊れ、黒嶺は地面にバウンドし、近くにある電柱にぶつかる。


「リベンジしに来たぞクソ野郎!」

 

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