第30話 クロムの敗北

「驚きが隠せない様だなクロム」


 俺の心情を、見透かしたかの様にセルピコは言う。

 剣や刃物で刺される事は何度も合った。

 それなのにセルピコが刺した剣に、俺は動く事が全くできない。

 体──肉体が満身創痍とはいえ、体が硬直した様に動かん。

 さてと、動かないならばどうした物か。

 俺は今完全に不利な筈、それなのに冷静でいる。

 これから死ぬから冷静に居れるのか。

 さっき死ぬ訳にはいかないと、意気込んだのにこの様か。

 クロムの人生はここで幕を閉じるのか。

 次の刹那、俺の脳裏に琴音の顔が過ぎる。

 復讐の為に琴音の情報は必要。

 俺は情報を得る為に琴音を、利用をする為にこの場面。

 後、遊園地で防衛省の特殊部隊との戦闘で、巻き込んでしまった。

 俺がこの瞬間死ねば、琴音はきっと殺されるだろう。

 黒嶺からすれば簡単に殺せる予定だった。

 それに人外を越えた姿を、琴音には見せるつもりはなかっただろう。

 だから正体がバレた琴音を消す。

 琴音は死ぬ──本当にそれでいいのか? 俺の家族いや存在も消された。

 その中で俺の存在をずっと覚え、未だに慕ってくれている。

 そんな琴音を俺は一々巻き込んだ。

 それなのに死ぬのを見過ごすのか。


「……じゃ駄目だ。それじゃあ駄目だ!」


 黒嶺は不思議そうにしていた。

 どうやら俺が心の内にしていた事を、口に出していた様だ。

 その不思議に思っている事を、すぐ分からせてやるよ。

 俺は腹筋に思い切り力を入れる。

 背後にいるセルピコは剣を抜こうと、力を入れるが決して剣は抜けない。

 セルピコの様子に黒嶺は顔を曇らせる。

 次の瞬間、俺はノーモーションで肘打ちをする。

 手応えあり! その証拠として俺の腹部に突き刺さっている剣から、力は抜ける。

 後ろ回し蹴りすると同時に背後を見る。

 セルピコの脇腹に後ろ回し蹴りが直撃する。

 腹部に突き刺さっている剣を抜く。

 セルピコは脇腹を抑えてうずくまっている。

 まだ威力は死んでないか。

 勝つ事はできないだろう──それでも琴音を逃かす為の時間稼ぎができる。

 右手に握っている刃物を投擲しする。

 セルピコの肩に突き刺さる。


「琴音俺の声が聞こえるか? 聞こえるならば逃げろ!」


 俺は大声を出し、琴音に伝える。

 琴音は返事する事もなかったが。

 走る音が聞こえる。

 次の瞬間、黒嶺は走る音の方に方向を変える。

 行かせるかよ! 俺は左手で握っているセルピコの剣を振う。

 斬撃を黒嶺に飛ばし、地面を強く踏み込む。

 黒嶺の懐に潜り──体勢を低くし蹴る。

 俺の蹴りは黒嶺の足元に当たり、体勢が崩れる。

 黒衣の服を引っ張り、黒嶺に馬乗りをする。

 剣を地面に突き刺し、ひたすら連打で殴り続ける。

 黒嶺はガードをしているが、隙があれば反撃をしようと試みている。

 だが、黒嶺の片手には未だに太刀が握られている。

 それと反対に俺は何も握ってない。

 ただの素手だ。

 俺が攻撃の手を緩めない限り、黒嶺は反撃をする事はできないだろう。

 琴音が今何処にいるのかも分からない。

 琴音の気配を感じなくなるまで、俺は黒嶺を足止めする。

 次の瞬間、頭部に鋭い痛みが走る。

 と、同時に俺の体が横に倒れる。

 黒嶺は隙を付いて、俺から逃げ出す。

 く、痛てぇな、ただでさえ体がボロボロなのに、頭部に鋭い痛みを走らせるかね? 俺は呆れながら体を動かす事に必死だった。


「図に乗りやがってこのゴミ屑め!」


 黒嶺は怒声を上げながら、俺に何度も蹴りを入れてくる。

 こいつ追撃をしてきやがる。

 骨が何度も軋み──肉体が悲鳴を上げている。

 黒嶺は攻撃を止め、俺の腕を掴み立たせてきた。

 セルピコと対面しており、そこで俺はある事に気付く。

 セルピコから異様な気配を感じる。

 その気配に俺にとって身近な物。


「お前禁忌を手にしたな」


 俺の声は掠れていた。

 掠れた声でセルピコに問う。

 だが、セルピコは一切答えず沈黙を続けていた。

 直後、黒嶺がセルピコの代わりに口を開いた。


「そいつはお前の問いに答える事はない。禁忌に付いて聞いても答えない様に禁忌によって支配されているからな!」


 黒嶺の奴、禁忌について知っている。

 俺は黒嶺の言葉、目の前にいる異様な気配。

 その二つを聞いて一つ、疑問しかない。

 セルピコは俺が確実に殺した。

 それなのに禁忌の力を手にしている。

 誰か、協力者がいる。

 それは偉大なる神か、それとも黒嶺のなのかは分からない。

 セルピコは地面に突き刺した剣の元に歩み、引き抜いて俺に向ける。

 俺は黒嶺に腕を掴まれ立たされている。

 体には力が入らない。

 セルピコの一振り──斬撃を防いだり、避ける事すらできない。

 絶対絶命だな。

 体に力が入らないが声は出せる。


「ディメンションに眠る聖魔セデスを、我が肉体を照らせ」


 俺の詠唱を聞いても黒嶺達は動揺をしない。

 その方がありがたい。

 次の刹那、俺の体に白と黒の粒子が纏う。

 黒嶺達は周りを見渡している。

 俺の詠唱が何か、確認をしている様だ。

 探しても無意味だ。

 聖魔セデスは俺にしか見えない。

 俺の為の詠唱の力だ。

 俺の肉体に多少の力が湧いてくる。

 黒嶺に掴まれてない反対の手で黒嶺の太刀に触れる。

 太刀を無理やり動かし、黒嶺の体が切れる。

 それと、同時に後ろ蹴りを叩き込み、黒嶺から距離を開く。

 俺は右手の手の平を地面に付ける。

 次の瞬間、地面に大きな亀裂が走った。

 それと同時に俺の体が宙に浮く。


「レイデン」


 俺は一言を呟くと、手の平か強烈な衝撃波が生まれ、次に膨大な爆発が起きる。

 爆発によって俺の体は上空まで飛ぶ。

 その中で再び空に向かって同じ事を繰り返す。

 空で衝撃波と爆発が起き、俺は勢いよく飛ぶ。

 これが唯一……俺も琴音も死なない方法。

 勝負として完敗だ。

 これじゃあ負け犬だな。

 と、考えながら身を任せている。

 何処か遠く、体を休めれる安全の場所まで飛ぶ事を祈る。

 

 

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