第31話 クロムと琴音

「空中に飛んでるとはいえ、体が重く動かない」


 全身が燃える様に熱く、それに激痛も走ってやがる。

 もしこれで彼奴らが来たら確実に俺は死ぬ。

 こない事を祈るしかできない。

 それにしても空は青くて綺麗だな。

 俺はそんな事を考えていたその時、平行線で飛んでいた俺の体が下気味に下がる。

 直後、俺は自分が落下しかけている事に気付いた。

 あの空き地からどれだけ離れたんだ? 結構な距離を離れていると、有り難いんだけどな。

 まぁ現実はそんなに上手くいかないだろう。

 傷を多少回復できる時間帯があればいい。

 琴音はちゃんと逃げられたのか。

 逃げれているといいな。

 と、楽観的に考えていた時、スピードが段々と増していく。

 上半身を軽く捻り下の方を見る。

 さっきまで建物が豆粒程の大きさだったが。

 地面に足を着けて歩いてる時と、同じ──それより少し大きめに建物が見える。

 それより落下するの速いな、もう建物に当たる直前だ。

 次の瞬間、メキメキと嫌な音がしたと、同時に背中に痛みが走る。

 俺は仰向けで落下し、今落ちてきた事によりできた穴を見上げている。


「ここは──ぱっとみ、廃墟だな」


 俺は体を起こしながら、空間を見渡す。

 全体的にボロボロで木製と、コンクリでできている。

 俺が今いる場所には、途切れている布がある。

 空間の真ん中に堂々とソファが合った。

 俺はそのソファの下へ歩みを進める。

 足を進めている度に、ポタポタと滴れる音がする。

 俺の足元に血が滴れている。

 大分血を流してしまったな──よくよく見ると。

 俺が落下してきた場所には、血溜まりができていた。


「止血しないと完全に死ぬな」


 俺は少し半笑いになりながら、ソファの下へ近付く。

 ソファに座ろうとした時、俺の体は傾き、ソファに倒れ込んだ。

 完全に体の自由が効かない。

 救いなのが頭は回る事くらいか。

 さて、できるならば止血はしたい。

 だが、俺の体は自由が効かない。

 一体どうした物かと思考錯誤する。

 俺の異能は万能ではあるが、流石に止血まではできない。

 オーラを使うにしても、さっき程の戦闘で大分オーラを消費した。

 今度こそ万事休すか。

 と、諦めようとしたその時、倦怠感に襲われる。

 視界もボヤけ、頭がクラクラしてくる。

 これで過去の記憶が、フラッシュバックしてきたら確実に死ぬだろう。

 もし俺がここで死んだら二度めの死か。

 視界は次第に真っ暗になっていく。

 段々と瞼が重くなり閉じる。

 その後の記憶は一切ない。

 何回も同じ場面に出会したが、今回は過去の記憶も干渉もない。

 ただひたすらの虚無感。

 それを感じていたが、何処か遠くから声が聞こえる。

 聞き覚えがあり優しい声色。

 まるで暖色様な心地のいい声音。

 別に色が見えている訳でもなく、ただの声だけだ。

 それでも俺は、暖かさに包み込まれている気分になった。


「ここにいたんだ。目覚めてよレイ先輩!」


 次の瞬間、俺は目を開ける。

 すると、そこには琴音が居った。

 目が覚めた時、俺は体を起き上がらせる事ができ、それと同時に死んでない事に不思議だった。

 その時、琴音はモジモジとしており、琴音に視線を向けると。 

 琴音は何か言いたげそうな表情をしていた。

 だが、琴音が口を開く前に俺が先に言葉を出す。


「今すぐ俺の目の前から消えろ。そして二度と俺の視界に映るな」

「いきなり何ですか!」

「これが最後だ。俺の前から消えろ。永遠に姿を見せるなさもないと殺すぞ」


 俺の言葉に琴音は黙り、目尻に涙を浮かべている。

 琴音、お前は今、俺に対して多少の恐怖を覚えているだろう。

 黒嶺との戦闘の時には、もう既に俺が琴音の知っている人間ではない。

 そんな事は分かりきっているだろう。

 直後、琴音はすぅぅぅと息を吸い──俺に言う。


「私は先輩の前から消えません。もし消えて欲しいならば、先輩が言う通りに殺せばいいですよ」


 琴音は俺に啖呵を切った。

 体を震わせ、目尻に涙を溜め込みながらも俺に啖呵を切る。

 本当だったら逃げたくて、仕方ないといった所だろう。

 でも、俺は琴音に右の手の平をかざす。

 直後、俺の手から高圧なエネルギーが生まれる。

 その事に琴音はすぐさまに気付く。

 今すぐにでも逃げないと死ぬ。

 それでも琴音は逃げようとしない。

 俺の手からエネルギーが、放たれようとしたその時。琴音はたった一言。


「殺されるのが先輩ならば悔いはないです」


 琴音は目尻から涙を流し、頬に涙が滴れている。

 次の瞬間、琴音は腕を広げ、前のめりに倒れ込んでくる。

 俺はその行動に呆然とする。

 琴音は身を俺に任せている。

 右手に溢れているエネルギーを消し、琴音を抱える。


「わった……もう分かった。お前の覚悟は痛いほど理解した。お前の知っている事全て話せ」


 琴音は静かに首を縦に振った。

  

 

 

 

 


 

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