第28話 神擬き

「先輩!」


 琴音は悲鳴に近い声で叫ぶ。

 速く立ち上がらないといけないが。

 体に力が入らない。

 立ち上がるのにも一苦労だな。

 俺は力を振り絞り立ち上がる。

 このまま奥の手を隠したまま、戦えば俺は確実に負ける。

 擬似魔法を出すか……いや異能が安定だ。

 体内に巡る──血液と共と違い、魔素とも違う。

 今までとは違い、確実の異能。

 オーラを全身に、巡らせ異能を全開にする。

 次の刹那、黒嶺の太刀が再び振り下ろされる。

 俺は一歩前進する。

 一太刀の斬撃が俺の体に直撃する。


「ほう?」


 黒嶺は面を喰らった様な表情をしていた。

 体を一歩、動かすだけで体が痛む。

 異能を体に巡らせているが、あまりにも斬撃が多いと流石に対処しきれない。

 俺の異能は便利だ。

 だが、元々溜まっている疲労感に、ダメージも蓄積している。

 長期戦だときついか。

 それならば電光石火の速さで倒す。

 俺は右手に持っている刃物を、強く握りしめ、地を蹴り抜く。

 黒嶺の眼前にまで一瞬で近付き、刃物を斜めに振り下ろす。

 黒嶺はバックステップをし交わしながら、拳を振ってくる。

 黒嶺の拳は俺の顔に当たる直前で止まる。

 再び、面を喰らった様な表情をしていた。

 そこに間髪入れずに拳を叩き込む。

 俺の拳は黒嶺の脇腹に直撃する。


「グッ!?」


 黒嶺の顔が歪む。

 俺はその瞬間を一切見逃さずに、何度も殴打する。

 黒嶺は太刀を何度も振い、拳も振ってくる。

 だが、その攻撃全てが、俺の直前に不思議な様に止まる。

 と、でも思っているんだろ? そんなの当たり前だ。

  異能を使っているんだからな! 刃物を振う。

 黒嶺の顔を切り裂き、上に再び切り上げる。

 黒嶺の顔は縦一文に切れ、血飛沫が流れる。

 俺の顔に血飛沫が掛かった。

 一瞬──視界が奪われる。

 その間に黒嶺は何回も、俺に攻撃を繰り出してくる。

 全てが俺に当たる直前で止まる。

 視界は奪われているが感覚で、攻撃されているか分かる。

 それにしても黒嶺から焦りを感じない。

 どちらかっていうと、俺の方が焦りを感じている。

 普通、ダメージを与えれないならば、焦りくらいはする。

 だけど、黒嶺は一切の焦りもなく、逆に余裕そうだ。

 そろそろケリをつけるか。

 右目は何とか開けれていた。

 刃物を黒嶺の胸部を突き刺し、胸に深々と突き刺さる。

 刃物と同時に黒嶺の胸から鮮血が出る。

 俺は刃物を抜き、軽く黒嶺を押す。

 次の瞬間、黒嶺は仰向けに倒れた。

 ピクリとも黒嶺は動かず、動く気配もない。

 地面にも血が流れ赤く染まっている。

 俺は刃物を振い──血を飛ばす。


「今度こそ終わった」


 これでまだ生きてたり、更にパワーアップして、俺の前に立ちはだかるとかだったら、まじで洒落にならん。

 黒嶺に背を向け、琴音の方に向かう。

 琴音は体を震わせ、怯えた表情をしている。

 俺は琴音の顔を見て、罪悪感しか湧いてこなかった。

 次の瞬間、俺の背筋に悪寒が走る。

 背後を振り向くと、そこには黒嶺が立っていた。


「冗談じゃねぇよー洒落にもならん」


 冗談でも思った事が本当に起きた。

 ガチで洒落にならん。

 黒嶺の姿、形にあまり変化は見られないが、多少は変わっている。

 さっきまでと違い、黒嶺の全身にオーラが巡っている。

 こいつのパワーアップの原理が分からない。

 ただ一言で言うならば神々しい。

 完全にこいつ人間辞めてるな。

 俺も人の事は言えないかもしれない。

 だけど、こいつは現在進行形で成長している。

 一旦琴音を逃がすか? いやそんな時間も隙もないだろう。

 だとしたら──再び短期決戦。

 俺は黒嶺の対面し、刃物を宙に浮かし、逆手で持つ。

 片方の足を前にだし、腰を低くし構える。

 オーラを足と、右手に集中させ踏み込む。

 黒嶺に近寄り刃物を振う。

 一瞬の刹那で黒嶺の体を斜めに切り裂く。

 手応えは合ったが、肉を切った感覚ではなく、何か硬い物を切った。

 次の刹那、音速の拳が俺に飛んでくる。

 オーラを纏っている為、避けるまでもないと安堵をしていた。

 だが、黒嶺の拳は俺の想定を越える。

 オーラを突き破り俺の胸部に拳が届く。

 速さの減速も減力の軽減もされず、黒嶺の放った一撃が俺に直撃する。


「うぅぅぅ、ブ、ファ」


 腹部から上に向かって逆流が起き、俺の口に血が溜まる。

 そしてそのまま口から血を吹き出す。

 なんだこの威力? 異常に重く、芯を抉るような威力。

 オーラ以前に俺の異能を貫通した。

 これは普通の殴り──パンチではない。

 何か、これ程の威力の理由がある。

 それを探して対応する。

 俺の異能が簡単に破られる訳がない! 俺は攻撃を繰り出そうと、腕を動かすが。

 黒嶺は殴打をし間髪入れずに連打をしてくる。

 その一撃、一つ一つが重く──鋭い、確実に相手を殺す為の一撃。

 体が軋む。

 俺の体は自由が聞かず、前のめりで倒れ込む。

 倒れ込む瞬間に、黒嶺の顔が緩んでいるのが分かった。

 さっきもそうだ、俺は短期決戦で勝負を付ける為に焦る。

 それと反対にこいつは余裕そうだ。

 その一つ、一つの表情、仕草がしゃくに触るんだよ!

 俺は体を捻り、刃物を黒嶺の脇腹に深々と突きさす。


小癪こしゃくな真似を!」


 そうか──小癪か、初めて見せる不愉快そうな表情。

 片足を前に出し踏み止まる。

 手に止めている刃物を横に切り裂く。

 次の瞬間、黒嶺の顔が歪むと、同時に勢い良く血飛沫が舞う。

 どうやら俺の攻撃が、完全に効かない訳ではない。

 多少のダメージは通る。

 だったら俺がする事は! 素早い斬撃を黒嶺に繰り出す。

 黒嶺の体にあまり傷が負わない。

 だが、所々血飛沫が舞う。


「調子に乗るなゴミ屑が!」


 黒嶺は鬱陶しそうに拳を振ってくる。

 体を翻し、拳を躱して斬撃を飛ばす。

 今は威力より速さを重点だ。

 俺は無数の斬撃を出し、黒嶺を追い込む。


「調子に乗るなと言っただろゴミ屑が!」


 黒嶺は雄叫びを上げ手を合掌する。

 次の瞬間、黒嶺の背中に大きな光の輪が出現する。

 それと同時に金色のオーラが具現化し、黒嶺の体を纏う。


「光の輪といい、その金色のオーラ。神様気取りか?」

「そうだな」


 俺は皮肉のつもりで言ったが。

 黒嶺は認め、信じられない事を言い始める。


「強いて言うならば俺様は偉大なる神の使いだ!」


 自慢そうに黒嶺は言う。

 俺はその言葉を聞いて、満身創痍である体に力が入る。

 ドンっと轟音が鳴る。


「どうやら本気を出すみたいだな」


 黒嶺は俺の顔を見て、嬉しそうにニヤニヤとする。

 本気? さっきから本気は出している。

 オーラを全快にしてないだけだ。

 だが、今はオーラを全快にし、お前を討ち取る。

 バックステップをし、黒嶺から距離を取る。


「あんま得意じゃないんだけどな。剣技・円雷一刹」


 刃物からオーラを放出させ、強く踏み込む。

 次の瞬間、刹那の速さで黒嶺の周りを動く。

 動く際に刃物を動かし、円を作る様に動き回る。

 きっと黒嶺はこれこそ、小癪だと思っているだろう。

 次の刹那、俺の刃物が放出しているオーラが、雷に変化する。

 一定の距離離れた真正面に立ち、黒嶺へ一閃する。

 次の瞬間、バチバチと黒嶺の体に電流が流れる。


「グゥゥ」


 黒嶺はコンクリの地面を巻き込みながら、後方に後ずさる。

 オーラが雷に変化している為。

 電流が具現化している。

 次の刹那、黒嶺の背中にある光の輪が光り、電流が消え去る。

 黒嶺は膝が崩れ、汗をかき、俺を物凄い形相で睨みつけてくる。

 その表情から怒りが露わになっている。


「調子に乗るなと言ったよな? ブチ殺してやるよ!」

「初見で俺の剣技を喰らい、片膝を付くだけか。流石は偉大なる神の使いだな」


 俺は不適な笑みを浮かべ、黒嶺に語り掛けた。

 まるでピキピキと鳴る様に、黒嶺の顔に血管が浮きでてくる。

 どうやら奴さん、本気でイラついているみたいだ。

 だったら上等。

 俺は握り拳を作る。

 今度は黒嶺が踏み込み──俺の眼前に現れる。

 拳を再び、連打で振り被ってくる。

 怒りで拳に力が入っている為、見えやすくなっている。

 俺は拳を避け、受け流す。

 ガラ空きになっている黒嶺の腹部に、拳を叩き込む。

 拳はめり込み、黒嶺は顔を歪ませ、血を吹き出す。

 一歩、一歩と下がる。


「俺の前で偉大なる神の単語を、出したのが間違いだったな」


 俺の言葉に黒嶺は答えない。

 だけど、俺に強烈な殺意を飛ばしてくる。

 それだけは分かる、どうやらまだ続ける気だ。

 こんな終わり方では駄目だ。

 完全な決着を付ける。

 

 

 

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