第27話 クロムに匹敵する力
『何も答えないんですね」
「お前は元々知っているだろ? 俺が躊躇もなく人を殺す事を」
「それでも私は信じたがったです」
「琴音、目の前で醜い惨事を見ただろ? これが本当の俺だ。俺には時間がない、早くお前の持っている情報を教えろ」
琴音に今すぐ情報を、答えさせるのは酷かもしれない。
だけど、俺が琴音に情が、移る前に復讐を終わらす。
それでも、琴音は頑なに口を開こうとしない。
俺は琴音から情報を得るまで、黙っている気で居った。
あの現場を見て、本気で情報を言おうとしないな。
だからといって、このまま帰してしまえば、こいつは二度と俺の前には現れないだろう。
もしかしたら情報は、些細な物かもしれない。
ジャンヌの方が持っている、と可能性はある。
それでも、琴音が言った言葉が気になる。
こっちの世界に来て、初めて会った時、俺の事を魔王と言った。
偶然なのか──必然なのか。
今現在、世界中に魔王と報道されている。
まるで予言の様だ。
「はぁ、もう一回問うぞ? 情報を教えろ」
俺は少し呆れる様に言った。
一拍置いてから琴音が口を開こうとする。
次の刹那、背中に強烈な痛みが走る。
痛みに耐えながら背後を見る。
すると、そこには俺が殺した筈の黒嶺が立っていた。
しかし、さっき程までの姿、形が変わっている。
パーカーを着た少年ではなく、黒衣の服装。
右手に背丈以上の太刀がある。
太刀の長さはおよそ六尺。
背中の痛みはあの太刀で斬られたのか? 音も気配もなく。
いやそんな事、現代人ではありえない。
それにあの黒衣、俺の魔素を消し、偉大なる神とかほざいてた奴と同じ服装だ。
彼奴らと黒嶺は仲間なのか? いや今そんな事を考えている場合ではない。
何故、黒嶺が生きているのかが問題だ。
俺は黒嶺と向き合う。
「まるでお化けでも見るかの様な表情だな」
「お前どうしたその服装は?」
さっきは俺は確かに、黒嶺の頭を叩き潰した。
手応えはしっかり合った。
それなのに俺の前には、傷一つ負ってない黒嶺がいる。
「お前に関係ないだろ? クロムいやレイ」
「!?」
どうしてこいつが俺の名前を知っている? それにこいつも俺の記憶を持っている。
琴音より何かを知っていそうだと、直感的に感じ取れた。
「驚いてる様だなレイ」
「黙れ。気安くその名前で呼ぶな」
「なんであんたが先輩の名前を!?」
「その言い方だと完全にあのゴミ屑か」
はったりで俺の名前を言ったのか。
琴音の反応で完全にレイと判断した。
「ゴミ屑にしては大分強くなったな!」
「粋がるな」
俺は左手に持っている鉄パイプを、強く握り直す。
黒嶺はヘラヘラと笑っている。
その余裕そうな表情にイライラする。
俺は地を強く蹴り──黒嶺の懐に潜り、鉄パイプを振う。
次の瞬間、俺の体から血飛沫が舞う。
口の中に血が溜まり吐き出す。
「う、はぁはぁ、く、くそ」
今、何が起きた? 俺の鉄パイプが黒嶺を捉えろうとした。
だが、その瞬間、黒嶺の太刀が信じられない速さで動き、俺の体を切り刻んだ。
全く反応ができなかった。
さっきと比べ物にならない程の反応速度。
服装といい、謎の背丈以上の太刀。
あの瞬間、こいつに一体何が起きた?
「おいおい、お前はやっぱ弱いゴミ屑か?」
「くそ野郎が!」
鉄パイプを再び振ろうと思ったが。
!? 俺の持ち手より先が無くなっていた。
あの一瞬の隙で、俺の体と一緒に鉄パイプも切ったか。
と、納得した時、俺の腹部に強烈な蹴りが入る。
みぞに入り、俺は腹部を抑える。
また反応ができなかった。
それに今までに喰らった事ない程の威力。
そのスピード──パワーはまるで、異世界の人間。
いや違うな、正確な事を言うならば俺に誓い。
俺の今の力、体、能力は異世界に転生したからのは間違いない。
だが、それと同時に俺は神様、直々に肉体も最強の力も手に入れた。
黒嶺はそんな俺と誓い状態。
ハハッそんな事ある訳がない。
合ってたまるかよ!
「うぉぉぉぉ!」
俺は雄叫びを上げる。腹から手を退かし、拳を握り思い切り振り抜く。
黒嶺は軽く、体を逸らし躱す。
逃がさねぇよ! 俺は追撃の右ストレートをブチ込む。
俺の右ストレートは黒嶺の顔に直撃する。
手応えあり、このまま振り切る。
次の瞬間、黒嶺の太刀に動きが見える。
また、あの防ぐ事や避ける事すらできない。
あの斬撃が飛んでくる。
俺は大きく後方に下がる。
最後まで、仕留めきれなかったのは勿体無い。
それでも、瀕死のダメージを喰らう事が大きい。
ここまで下がれば、いくら斬撃が速くても避けれる。
「ほう? 俺の太刀の動きをみたか。だとしても避けきれるか?」
黒嶺は不敵な笑みを浮かべ、太刀を振り下ろす。
刹那、凄まじい速さの斬撃が飛ぶ。
俺が想定していた以上に速い。
それでも躱しきれない程でない。
と、思った時、俺の視界には琴音が映る。
それに黒嶺が放った斬撃の方向に、琴音が立っていた。
一直線へ琴音に斬撃が飛ぶ。
琴音では躱しきれない。
だとしたら一体どうする?
「……ぱい」
次の瞬間、俺の体は動き、琴音を抱え躱す。
「何がさよならだよ。簡単に死を受け入れようとするんじゃねぇ」
俺は琴音が斬撃を受けるかもしれない時、庇うか迷っていた。
ただ、その瞬間、琴音は俺に向かって何かを伝えてきた。
声は聞こえなかった。
だけど、口パクで何を言っているか。
それだけは分かった。
「さようならレイ先輩」
まるで琴音が意思が分かったのか、俺の体は勝手に動いた。
「次は一体どうする!」
黒嶺は楽しそうに笑い、太刀を何度も振り続ける。
このまま琴音を、抱えたままならば、斬撃をもろに喰らう。
──俺は琴音を降ろし、懐にある刃物を取り出す。
黒嶺の斬撃に魔素はない。
ただの純粋な剣技。
だったら俺も剣技で対抗する!
「俺の後ろにいろ!」
「分かりました」
無数の斬撃が飛んでくる。
それも琴音に向かってきた時より、スピードが増している。
俺は刃物を右に持ち替え、構える。
斬撃が一定の距離に入った瞬間。
俺は刃物を振り、斬撃を相殺していく。
それでも全てが相殺できない。
俺の体を数ヶ所を切り刻んだ。
幸いな事に琴音には被害が及ばなかった。
「はぁはぁ、ちっときついな」
俺は苦言と、共に膝から崩れる。
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