第26話 復讐の一歩?

「調子に乗るなよ不審者!」


 黒嶺は分かり易くイラついてた。

 今すぐにでも、俺を殴り掛かってきそうだ。

 その時はカウンターでぶっ飛ばす。

 だが、この場でやると騒がれる。

 それは一番めんどくさい事だ。

 騒がれては簡単に殺す事もできない。

 どうにかして、こいつを人気のない所で始末する。


「先輩。こんな所で暴れないで下さいね」

「は!? お前行動しろっていっただろ!」


 確かに、琴音は黒嶺に行動を示せと言った。

 その中で今の発言は支離滅裂。

 普通だったらなんだこいつ? となるが、多分、俺の事を考えて言ってるんだろう。

 琴音が一番、俺の実力を知っているからこそ。


「そこの女通りだ。人気のない所でやろうぜ」


 俺の発言に黒嶺は黙る。

 これは一つの賭けだ。

 普通──こんな誘いに乗る訳がない。

 学校の校門近くであり、他の生徒が見ている中で、俺を撃退する事にメリットはあるが。

 他の場所、ましては人気のない場所ならば、尚更向かって戦わないだろう。

 警察に言った方が身の安全だ。

 さぁこいつはどう動く?


「いいだろう! 橘にも止められたし、他所でぶっ飛ばしてやる」


 どうやら賭けは俺の勝ちだ。

 少し間を置いてから俺は校門から離れる。

 俺の後ろを追いかける様に、黒嶺、そして琴音が付いてくる。

 学校から少し離れて、広い空き地があり、俺と黒嶺はそこで止まる。


「ここは確かに、人気のない所だな」

「ここならばお前の無様な姿を、見られなくても済むだろ?」

「ふざけんな、舐めやがってこの野郎! ぶっ殺してやる」

「おいおい、俺をぶっ飛ばすじゃなくて殺すのか? 学校のヒーロー君よ!」


 俺の煽りに黒嶺は顔真っ赤にし、強烈な殺気を出している。

 どうやら本気でキレている様だな。

 後、一押しでこいつは俺に襲いかかってくるだろう。

その前にこいつにこれを渡すか。


「まぁそんな殺気をだだ漏れにするな。ほらよ」

「おい何の真似だ?」

「俺と素手でやってもお前では勝てない」

「だからといって、普通鉄パイプを相手に渡しますか!?」


 俺は黒嶺に鉄パイプを投げ渡す。

 その行動に黒嶺は疑問を持ち、琴音は俺に抗議を掛ける。

 普通、相手が勝つ可能性もある武器──それを渡さない。

 琴音は俺の実力を、忘れているのかもしれない。

 俺は異世界人、それに比べて黒嶺は現代人。

 天と地の差が違う。

 生前の頃──レイの頃は違ったかもしれない。

 それでも今俺はレイじゃなく、クロムだ。

 こんな形となるとは思わなかった。

 だけどここで黒嶺を確実に殺す。


「橘、見てろ俺の勇姿を」

「自分で言う事? あんま期待しないけどね」


 琴音の言う通り、自分で勇姿って言うのは、どうかと思う。

 それにしても琴音、俺と黒嶺では対応が違う。

 俺も黒嶺の事は良くは思ってないし、嫌っている。

 だけど、それが琴音も嫌っているとは思わなかった。

 もしかしたら、俺が黒嶺に殺された事を、何処かで知っていたかもしれない。

 そう考えると余計に何故、俺の記憶を持っているのか。

 気になる所ではある。

 その情報と、他に持っている情報を聞き出す。

 その前に黒嶺を殺す。


「覚悟しろ。調子に乗っている不審者!」


 黒嶺は声を荒げ、突進してくる様に殴り掛かってくる。

 横に体をずらし、攻撃を躱す。

 そのまま無闇に連打をしてくる。

 一つ一つの拳に威力は感じ取れない。

 俺は黒嶺の拳を軽く受け流す。

 次の刹那、黒嶺は俺に飛び蹴りをする。

 蹴りが当たる直前に。バックステップをし避ける。

 黒嶺は一歩、後ろに下がり、俺が投げ渡した鉄パイプを拾い構える。


「お前の手に乗る事になるとは思わなかった」


 と、黒嶺は意気揚々と言った。

 素早い踏み込みで俺の懐に潜り、鉄パイプを振ってくる。

 これは避けきれないな。

 だとしたら防ぐしかない。

 黒嶺は鉄パイプを振り切る──このままだと、俺の腹部に直撃するだろう。

 鉄パイプであろうが現代人の一撃。

 受けてもさほどダメージはないだろう。

 だが、俺の背筋に冷たい汗が流れる。

 足を上げ、鉄パイプを防ぐ。


「一体どんな体をしているんだよ!」


 俺は鉄パイプを足で防ぎ、流れる様に前蹴りを繰り出す。

 前蹴りは黒嶺の腹に突き刺さり、腹を抱え倒れる。

 どうやら必死に痛みに踠いてる様だ。

 俺は倒れている黒嶺の傍に近寄り、奴の手に握られている鉄パイプを奪い取る。

 そのまま振り上げ、脳天目掛けて振り下ろす。

 次の瞬間、グシャリと鈍く嫌な音が響き渡る。

 目の前の物は物体から血が流れている。

 俺の力で鉄パイプを振り切ったから、もう人の形をしてはいなかった。

 コンクリの地面が血で染まっていく。

 琴音はこの場の惨事を、目の当たりにし顔を歪めていた。

 琴音はすぐさまに口に手をやり、近くで吐いた。

 そんな琴音の姿を見て、多分俺はこの事を一生忘れないだろう。

 黒嶺──自分のかたきを取れた喜びと、琴音にトラウマを植え付けてしまった罪悪感。

 これで俺の復讐の一歩は進んだ。

 と、この時......この瞬間は思っていた。

 俺は黒嶺だった物に背を向け、琴音に近寄る。


「レイ先輩殺す必要はあったんですか!?」

「………」


 琴音の意を唱える姿に何も答えれなかった。

 殺す必要? そんな物は勿論ある。

 だけど、俺の口からその言葉がでない。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る