第25話 復讐対象

「あのレイ先輩?」


 少女──琴音は心配そうに顔を覗き込んでくる。

 一瞬だが、体が硬直してしまう。

 だけど、すぐさまに一歩下がり、琴音から距離を置く。

 今この場面では圧倒的に不利。

 できる事ならば、今すぐにでも逃げ出したい。

 と、思えるくらい──俺の心は乱れている。

 それでも琴音は、俺が知りたい情報を持っている。

 ここで情報を聞かず逃げ出したら、いつ次、会えるかも分からないが。

 俺は全く整理ができていない。

 一体どうすればいい? と、頭では考えてはいる。

 だけど、体は再び硬直し動けない。


「なんだあれ?」

「おいあそこにいる男、鉄パイプもっているぞ!?」

「あれって琴音じゃない?」

「本当だ。橘だ」


 俺と琴音が学校の校門前で、喋っている為か。

 まるで見世物をみるかの様にゾロゾロと、見物客が集まる。

 硬直していた体が動く。

 見物客が集まってきたからなのか。

 俺は緊張の糸が切れた様に、体が自由に動く。

 情報源と思っていた人物が、琴音と分かり、俺自身が動揺していた。

 だから校門前っていう事も忘れ、立ち止まっていた。

 さてと、今の状況完全に不利だ。

 俺の手には鉄パイプを持ち、女子高生と対面している。

 普通に考えれば不審者だな。

 まだ俺が学生に魔王と、バレてないかもしれない。

 それでもはたからみれば不審者。

 魔王とバレ様が、不審者と思われても、どっちにしても警察を呼ばれる。

 こんな所で警察と対峙し、戦闘をすれば大変な事になる。

 警察を圧倒する事は簡単だ。

 学生に現場を見られると後がめんどくさい。

 さてと、どうした物か。


「お前らこんな所で何をしている?」

「あ、黒嶺くろみね先輩!」


 一人の男の声が聞こえてる。

 俺と同年代の声質をしていた。

 尻目で声の主を見ようとする。

 目の前にいる琴音は嫌そうな顔をしていた。

 どうやら声の主の事をよく思ってない様だ。

 琴音が嫌そうな表情を、するのも珍しい。

 一体声の主はどんな人物だ?


「黒嶺先輩。校門前で鉄パイプを持った男が」

「鉄パイプ? 不審者か。俺が成敗してやる!」


 見物客と声の主の雑談が、俺の耳に入る。

 不審者と思うのは勝手だが、ただの学生若きが俺に勝てない。

 こんな所で学生と争っても意味がない。

 聞き流すかと思ったその時!


「あれ橘もいるんか!」

「何ですか黒嶺先輩?」

「相変わらず冷たいな。まぁ俺が不審者を成敗する所を見てな!」

「はいはい。まずは行動をして下さいよ」


 琴音は声の主に冷たく当たっていた。

 声の主の少年は校門を潜って、琴音に近付く。

 琴音は少年の方に向く事もなく、俺と対面しながら話をしていた。

 話している間、琴音は俺にアイコンタクトをしてきた。

 俺にどんな事を目で指示を、したのかは分からない。

 ただ、俺と声の主である少年を会わせたくない。

 と、アイコンタクトで感じ取れた。

 琴音の思い通りに動こうと思ったが。

 その時、俺に目には少年が映る。

 黒い髪に、漆黒の様な黒い瞳をしている。

 他の学生と違い、白と黒を基調したパーカーを着ている。

 この少年の姿なんかどうでもいい。

 ただ、俺は少年の顔に見覚えが合った。


「お前が不審者か。成敗してやるよ」

「はぁ」


 琴音は溜め息を吐いていた。

 少年は俺の視界にチョロチョロとしている。

 やはりこの少年──何処かで見た事がある。

 次の瞬間、俺の胸が激しく痛み、熱くなるのが分かる。

 それと同時に、俺の脳内に映像が流れる。

 それは俺にとっては思い出したくもなく、嫌な過去の記憶。


「うぅぅ。なんでこんな事を……」

「そんなの決まっているだろ? お前が邪魔何だよ!」


 一人の男が怒声を上げ、容赦なく殴ってくる。

 それはかつて俺が、レイの時にクラス──学校の中心に、虐められていた。

 ……そうか。

 少年に何故見覚えが合ったのか。

 それを俺は脳内に、流れた映像で分かった。

 黒嶺、かつて俺を虐めていた人間の一人。

 俺を虐めていた人間は、複数人におり、その中でリーダー格。


「おい不審者、何を黙っているんだ?」


 こいつの正体が分かれば、分かる程、苛立ちが治らない。

 ブチ殺す。

 その一心が今、俺の中にある。

 この世界に思っている復讐心、それの要因の一つがこの男だ。

 今すぐこの場で、こいつを完膚無きまでにぶっ飛ばし、殺したい。

 だけど、そんな事をすれば、学生達が大騒ぎをするだろう。

 それだとこの場では殺せない……


「こんな所でヤって他の奴に、トラウマを植え付ける気か?」

「それは簡単に勝てると?」


 俺の言葉に黒嶺は怒り混じりに言った。

 簡単に勝てるかどうか? 馬鹿にするな。

 俺とお前では天と地の差で違う。

 

 

 

 

 

  

 

 

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