第24話 少女の正体

 俺は倒れている機動隊を背にし、進み落ちる。

 地面に着地すると轟音が鳴り響く。

 それと、同時に足元には大きなクレーターができる。

 俺が落下し、コンクリートの地面にクレーターが、できても騒がれない。

 どうやら機動隊と戦っている内に、人々は逃げた様だ。

 手をかざす──わざわざ擬似魔法を使わなくてもいいか。

 俺は擬似魔法を使おうとした。

 だが、街は俺の鉄パイプの一振りで崩壊している。

 案外、こんな鉄の棒切れでも色々と壊せる。

 少しの間、この鉄パイプを持って徘徊でもするか。

 はたからみれば俺不審者だな。

 魔王と呼ばれているし、不審者でもあまり変わりないか。

 ……あれから俺は歩き回り、何回も警察と遭遇する。

 その度に倒し、途方もなく歩いていると、俺の目に一つの建物が映る。


「ここは? 学校」


 俺の目に映った建物。

 それは学校だった。

 それもかつて俺が生前の頃、通っていた学校。

 何故か、学校の校門前まで足を進めていた。

 俺は学校を見て、あの時と何も変わってないな。

 と、そんな事を思い、学校を後にしようとした。

 その時! 俺の背後から声が聞こえる。


 「レイ先輩?」


 今の俺を生前の名前で呼んでくる。

 そして聞いた事のある声色。

 この呼び方に聞いた事がある声──情報源である少女と、確信はした。

 でもすぐには反応をしなかった。

 ただ足を止める。

 少しを間を開けてから、背後を振り向く。

 やはりというべきか、そこには少女がいる。


「お前ここの生徒か?」

「はい。レイ先輩と同じです!」


 俺と同じ? どうにもこいつと俺とでは話しが噛み合わない。

 そもそも何故、俺の生前の名前を知っている? 一体何故俺の事を先輩呼びするのか。

 分からない点が多い。


「あのなんで鉄パイプを持ってるんですか?」

「この世界の破壊活動」

「平然と言うんですね。私はやっぱり貴方の破壊活動を認めれません」

「お前が認めようが、認めなかろうが関係ない」


 俺の言葉に少女は黙り込む。

 少女は暗い顔をしている。


「それでも! 破壊は……」

「じゃあ逆に教えてくれないか?」

「何をですか?」

「この世界の価値はなんだ? お前はあの時、防衛省の特殊部隊に殺されかけた」

「それはそうですけど」


 これ以上、この少女と言い争っても仕方ない。

 さてと、本題に移そうと思った。

 次の瞬間、少女は羽織っているコートを脱ぎ、俺に渡してくる。

 そういえば、この少女に俺のコートを貸した。

 昔の記憶を感傷をしていたせいで、少女にコートを貸したのを忘れていた。


「これを返します」

「ああ、今まで着ていたのか?」

「はい。いつ会えるか分からなかったので」

「あ、そうだ。お前なんであの時逃げた?」


 俺は思いだしかの様に少女に問う。

 少女は一瞬、不思議そうな表情をしていた。

 だが、すぐハッとした表情をした。

 こいつ完全に自分があの時、逃げたの忘れていたな? さてさて、少女がどんな言い訳をするのか実物だ。


「あの──すいません。普通に気付いたら逃げていました」

「言い訳をする事なく素直に言うんだな」

「やはり言い訳するかよりましかと!」

「変に開き直るよりはいいはな」


 無様な言い訳を聞けず、少しガッカリだ。

 まぁこんな事を少女が知ったら、怒るだろう。

 考えただけで頭が痛くなる。

 俺はこめかみを抑える。


「なんか馬鹿にされた気がします!」


 少女は抗議の様に言ってきた。

 俺は何も答えなかった──こいつ案外鋭いな。

 一体どうやって返すかな? 変な事を言うと、少女が怒るか。

 言葉を一々、考えないといけない。

 まじでめんどくさいから話しを逸そう。


「何故お前は俺の事をレイと呼ぶ?」

「え? レイ先輩ですよね?」


 何故疑問形で俺に聞いてくるの? レイで合ってるよ。

 だけどね今はクロムだ。


「だったらお前の先輩は魔王なのか?」

「はい、私の先輩は魔王です!」


 こいつはっきりと言いやがった。

 尚更、この少女の正体が分からない。

 まさか、この少女は……いやそんな訳がない。

 合ってたまるか。

 もしそうだとしても時間軸が合わない。

 あの子なのか……一か八か試してみるか。


「橘琴音」


 次の瞬間、少女の体は硬直する。

 それに顔も強張っている。

 やはりお前は。


「琴音なのか」

「そうですよレイ先輩」


 俺は自分が口に出した言葉をに、ハッとする。

 どうやら思った事を口に出していた。

 俺の一つの疑問である謎は解けた。

 だが、余計に頭に引っ掛かる事がある。

 それは何故、橘琴音がまだ高校生なのか。

 俺と橘琴音は一つしか歳が違う。

 琴音はあの時と全く変わりない。


「不思議ですか?」


 不思議かって? 当たり前だろ! 俺は死んだのは十年以上前。

 それなのに琴音は姿、形がまるで変わってない。

 俺と琴音では時間軸が違うのか? いや普通に考えてありえない。

 いや違う。

 一番の問題はそこじゃない! 何故琴音が俺だと分かる? それに俺の家族の存在が消えた。

 必然的に俺の存在も消えている。

 それなのに琴音は俺がレイだと理解している。

 駄目だ──いくら考えても分からない。

 これ以上試行錯誤しても、俺の納得ができる答えは出せないだろう。

 一体どうしてだ? 俺はこの世界を壊す為に戻ってきた。

 それなのにかつて俺を、慕ってくれた少女が目の前にいる。

 現実というのは残酷な物だ。

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