第3話 アイテムボックス

 《見とけよ龍雷、俺の実力!》


 俺では何のダメージも与えられなかったブラックベア。

 本当に勝てるのか?


 《龍雷、身体強化はこうやってやるんだよ!》


 人格が変わっている時、三人称目線から自分を見る事になるので、俺としてはとても見やすい。


 サンドラが身体強化をかけると、


 (す、すごい!)


 俺とは比にならないくらい膨大なエネルギーを放っている。


 まるで台風でもきたかのような、大災害でも起きたかのような振動が辺りの空気を震わせる。


 そしてサンドラが動き出すと、


 ヒュン、ボガッ!ドスッ!


 …………なにが、起きたんだ?

 

 サンドラが攻撃の構えを取って一歩踏み出した、と思ったら、ブラックベアは死んでいた。


 (何をしたんですか?)

 《これが本当の身体強化だ。イメージが強くなれば強くなるほど魔法自体も強くなる。》


 す、すごい!


 俺は少なからずこの時、サンドラに憧れを抱いてしまった!


 (サンドラ、いや、師匠俺を強くしてください!)

 《よし! その言葉を待ってたぞ!》


 こうして俺とサンドラは相棒、兼、師弟関係となった。


 《じゃあ手始めにこの体に負った傷を光魔法、ヒールで治そうと思う。》

 (ヒール?)

 《あぁ、回復魔法というやつだな。まぁ見ておけ。》


 サンドラはそう言って怪我したところに手を翳して唱えた。

  

 『ヒール』


 みるみるうちに傷が治っていく!

 抉られた肉は元通りになり、折れた骨は完全にくっついていった。


 (す、すごい!)

 《俺の修行をすればもっともっと強くなれる。》

 ドヤ顔でそう言われた。

 (お願いします!)

 《俺はスパルタだぞ。》

 (お願いします!)


 こうして、まだ5歳児の

強化訓練が始まった。


 (早くさっきの師匠みたいに強くなりたいです。)

 《何言ってんだ、お前。》

 (へっ?)


 《あれは俺の実力の一万分の一の力も出てないぞ。俺が魔法を使っても使用してる体はレベル1のお前の体だ。だから流石の俺でもレベル1で使える魔法しか使えないし威力もレベル1だ。さっきの俺なんて余裕で超えてもらわないと困るぞ。》


 この人何言ってるんだ?

 あれがレベル1の実力?


 《さっきも言ったが魔法はイメージが強ければ強いほど威力が増すんだ。レベル1でも最高峰のイメージを持っていればあのくらいは出来る。そして、今からお前に一つ、大切な魔法を教えようと思う。》


 大切な魔法……


 やばい! 興奮が抑えられない。

 だって、魔法だぞ!


 (何ですか? 何を教えてくれるんですか?)

 火? 水? いや、闇もいいな!


 《無属性魔法、アイテムボックスだ。》


 ……………………


 俺の興奮返せー!

 何だよ、無属性かよ。


 (ちぇっ。)

 《おいおい、なんだその反応は。無属性魔法には無限の可能性がある。どの魔法よりも強くなれるんだ。は別の話だがな。まぁとにかく、習得して損がない魔法だ。》


 まぁ俺はこの人の弟子だし従う事にした。 


 (わかりました。)

 《よし、まずアイテムボックスとは何か予想して説明してみろ。》


 アイテムボックス?


 多分名前の通りアイテムを入れる箱だろう。

 だが箱を作るのか? それはカバンを持ち歩けばいい話ではないのか?


 (アイテムを入れる箱なんていりますか?)


 そんなの正直いらない。

 そう思った俺だが、


 《その箱が目に見えないものだったらどうする?その箱に無限に物が入ったらどうする?

その箱がココとは違う空間にあったらどうする?

それはとても便利な物だとは思わないか?》

 (何だそういうことか……って、えーーー!!)


 そんな要素があるの?

 ただのアイテムボックスに?


 (じゃあそれを習得したらいつどこでもどれだけでも物を取り出せるということですか?)

 《そうだ。》

 (教えてください!)

 《単純なやつだな。まぁいいだろう。》


 ということで俺は無属性魔法、アイテムボックスを習得する事になった。


 《じゃあさっき倒したブラックベアが落とした魔石とドロップアイテムを入れてみるぞ。》

 魔物を倒したらその魔物はチリのように消えて無くなり、代わりに【魔石】と【ドロップアイテム】を落としていくらしい。


 (どうやってやるんですか?)


 アイテムボックスを作ると言われても、イメージが全く湧かなかった。

 身体強化はモデルとなるヒーローや動物が居たものの、アイテムボックスに当てはまるモデルは何も思いつかない。


 《空間にあるものを飲み込む。これは宇宙にある何かに似てないか?》


 うーん、宇宙にある、飲み込むもの……


 (ブラックホール……)


 《おっ、正解だ。存在する魔法には必ずモデルとなる何かが存在する。これだけは覚えておけ。》

 (はい。)


 俺はそう返事をすると、ブラックホールをイメージしてみた……が……


(できない……)


 《俺はお前が何故できないか知っている。が、それを教えたらお前の成長に繋がらない。自分で考えろ。》


 なんだ……? 何故できない?


 俺は、俺の中のイメージであるブラックホール、そこに吸い込まれていくもの、ブラックホールの中までも想像した。

 そして全身に魔力を流してアイテムボックスを出そうとした。


 あれ、どこに魔力を流せばブラックホールが出てくる?

 さっき実践した時は、イメージして魔力を流しただけだった。


 身体強化の時は瞬発力を上げるために足にチーターのようなイメージの魔力を集中させた。


 パンチの時は手に集めた。ではアイテムボックスは?


 どこに魔力を集めれば使えるようになる?

 手? いや、手に流しても何も起きなかった。

 足? こちらも何も起きなかった。


 その時、俺の頭に師匠の言葉がよぎった。


 《空間にあるもの……》


 「空間だ!」


 《おっ、意外と早かったな。》

 (俺の魔力を空間の一点に集中して流すのですか?)

 《いや、少し違うな。半分は合ってる。では答えをいってやる。


まず空間に自分の魔力を集める。

そして空間に漂っている魔力も!集めるんだ。》


 空間に漂っている?


 《この世界にはどこでも魔力が漂ってるんだ。その魔力と自分の中に存在する魔力を合わせて一点に集中させろ。

 ここまで分かったら実践するだけだ。》


 魔法を使うための条件は揃った。

 何よりも、鮮明なイメージが大事だ。

 頭をクリアにしてイメージしろ!


 俺は、自分で考えた事、師匠に教わった事を空間の一点に集中させイメージした。

 

 「アイテムボックス!」


 そう唱えてゆっくり目を開けると、目の前で黒いモヤみたいな物が漂っていた。


 中に手を入れてみると少しひんやりとしている。


 真夏の太陽の下で、冷たい川の水に手を浸しているような心地よさだ。


 顔を突っ込んでみると、中は真っ暗で何も見えない。


 でも不思議と恐怖心がなかった。

 むしろ落ち着きを感じた。


 《それがアイテムボックスだ。

 使用者の魔力が多ければ多いほど収納できる物が増える。

 お前は何故か無駄に魔力が多いから学校の教室3部屋分は入るだろう。

 それにしてもすごい完成度だな。

 それだけイメージが強かったんだな。

 この完成度なら食品を入れても腐らないし保存機能抜群だな。》

 (師匠に褒められるとなんか嬉しいです。)

 《そ、そんな、ば、ほらもう暗いからの帰るぞ。》

 師匠は何故か照れたような口振りで、脳内に話しかけてきた。


 無事ブラックベアの魔石とドロップアイテムを入れる事に成功した。




 

 そして、家に戻った。




 「もーう! どこにいってたの!?」


 「そうだぞ! こんな時間まで! それに……こんなに汚れて……!」


 「心配で心配で、胸が張り裂けそうだったじゃないの! リューライにもしもの事があったらどうしようかと……」


 父さんと母さんが、目に涙を浮かべながら駆け寄ってくる。


 「ごめんなさい! すこーしだけ、森で遊んでたんだー。」


 「「森っ!?」」


 2人が大声で聞き返す。


 「森って……まさか、魔境ではないでしょうね。」


 「流石にそれはないだろう。

 あそこに入ったら冒険者は簡単に死んじまうところだぞ。

 子供が入ったらその瞬間に……」


 (師匠、そんな危険なとこだったの?)

 《言っただろ。レベル5がうろついてるって。まぁ、俺がいるから死ぬ事はないぞ。》


 「ごめんなさい。」


 優しい両親を心配させてしまった!

 俺は申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになった。


 心配して叱ってくれるなんて。

 心配して泣いてくれるなんて。

 安心して泣いてくれるなんて。


 (俺しばらくはあの森行かない。)

 《まぁ、2人は心配性だからな。庭で訓練するか。》

 (そうですね。)


 叱られた事に、幸せを感じる。


 前世だったら、理由も聞かず殴られただろう。

 俺の心配ではなく、苛立ちを放出する為の手段として。

 でも、この2人は血が繋がっていないにも関わらず、愛情からの叱りをくれる。

 

 愛されるという事が、こんなにも温かくて、泣けるくらい心を鷲掴みにされるなんて……


 2人の愛が伝わってきて、自然と涙が溢れた。

 

 俺はこの2人が大好きだ!

 

 そう心の中で呟いた。


 

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